堅物辺境伯の溺愛〜虐げられた王宮奴隷は逃げ出した先で愛を知る〜

咲木乃律

文字の大きさ
36 / 91
第三章

ルカはどこに行った*

しおりを挟む
※男性同士の絡みあります。苦手な方は読まずに次話へお願いします。


――――――――――――――――――――――



 ユリウスが扉を蹴破って部屋へ飛び込むと、寝椅子でもぞそもぞと動いていたスメーツ侯爵が顔を上げた。スメーツ侯爵は下半身に何も着ていなかった。どころか、組み敷いた黒髪の希少種の尻に己の一物を食い込ませている。

「な、なんだね。いきなり」

 突然の侵入者にスメーツ侯爵は驚いて半立ちになった。その拍子に一物が尻から抜け、横たわる希少種の腹に精を飛ばした。

「いかがなさいました? スメーツ侯爵様」

 ごそりと寝椅子の希少種が頭を起し、ユリウスを見た。
 ルカ、ではなかった。それによく見ると陰茎のある男の希少種だ。

「一体何だね。ベイエル伯」

 スメーツ侯爵は組み敷いているのとは別の希少種の頭を引き寄せ、己の陰茎を咥えさせた。それで隠したつもりなのかは知らないが、また別の希少種は、腹に散った精を舐め取り始める。
 部屋には合わせて三人の希少種がいた。が、いずれもルカではない。
 呆然とするユリウスの肩を、後ろからエメレンスが叩いた。

「これは申し訳ございません、スメーツ侯爵。部屋を間違えたようです」

「そのようだな。エメレンス殿下。おかげで興を削がれましたぞ。殿下の希少種を貸していただければ、少しは気も晴れましょうがな」

「はは。御冗談を。それはさきほどお断りしたはず」

「わかっておるわい。用がないのならさっさとご退出いただきたい。残りの二人も相手をせねばならんのでね」

「これはまた。失礼いたしました」

 エメレンスはユリウスを引き連れて部屋を出た。
 扉を閉める瞬間、早速陰茎を咥えさせていた希少種の頭をつかむスメーツ侯爵の姿が見えた。

「どういうことだ? ルカはどこに行った?」

「悪い。完全に私の読み違いのようだ」

 エメレンスは腕を組み、あごをつまんだ。何かを思い返すようにしていたと思ったら、振り返って再び部屋の扉を開いた。

「なんだね、まだ何か用かね」

 うんざりしたようなスメーツ侯爵の声。

「貴殿の希少種に、体格のいい男の希少種はいますか?」

「おらん。私は見ての通り華奢な希少種が好みだ」

「どうも」

 エメレンスは扉を閉めると廊下を歩き出した。

「おい。どういうことだ?」

「ルカを連れ去ったのは、スメーツ侯爵ではないようだ」

「それはわかった。他に心当たりはないのか?」

「あればとっくに動いてるさ」

 エメレンスは階段をおりると建物の裏手に当たる廊下を進む。並んだ扉の一つに入った。簡素な狭い一室だ。額に包帯を巻いたジオが一人でベッドに腰掛けていた。入ってきたエメレンスを見て、頭を深々と下げた。

「申し訳こざいません、殿下」  

「過ぎたことはもうよい。それより、話せるか?」

 ジオはついさきほどまで気を失っていたらしい。襲ったのはどんな者だったか。体格のいい男という、側で目撃していた者の証言より、詳しいことが聞きたいとエメレンスはジオに言った。

「体格は確かによおございました。ユリウス様ほどではございませんでしたが、王宮騎士団でもあれほどの者はなかなかおりません。あとは、」

 ジオは記憶を辿るようにきつく目を閉じた。

「希少種の服装をしておりました。黒いフードを被っておりましたので、髪の色はわかりませんが、瞳は黒でした。間違いなく希少種でしょう。ただ、服装に違和感がありました。そうですな。あれは、古い型のものだったからですな」

 ジオによると、晩餐会に連れてくる希少種の服装は、基本は黒と決まっている。それでもドレスと同じで、年によってデザインが微妙に違うのだという。今年の流行りはシフォン生地を使った、全体に柔らかなイメージをもたせたものだ。が、体格のいい希少種が着ていたものは、四五年前に流行った厚手の生地を使った重厚なイメージのものだった。

 それを聞くと、エメレンスは確かめることがあると部屋を出ていった。ユリウスも部屋を出ると、エメレンスの控えの間に戻った。エメレンスの控えの間の、両隣の部屋の前で控えていた者をつかまえ、さきほどこの部屋に入った男の希少種がどこに向かったかを聞き出した。
 両隣とも、下に向かったと答えた。何か荷物のようなものを肩に担いでいたという。
 ユリウスは階段をおり、ブラウ離宮の外へと出た。外は疎らに人がいるだけで、ブラウ離宮からの明かりが周囲を照らしている。ざっと見渡したがそれらしい影はない。
 そこへ、脇からカレルが現れた。

「お帰りにございますか」

 ユリウスが帰ると思ったのだろう。主人が出てくるのを、見える場所で待っていたようだ。ユリウスははっとしてカレルに問うた。

「少し前に、何かを担いだ大柄な希少種が通らなかったか?」

「通りましたぞ。ユリウス様」

 慌てた様子もなく堂々と希少種が一人で出てきたので、何かおかしいと思ったらしい。

「どちらに向かった?」

「こちらにございます」

 カレルは念の為あとを追っていたという。よくできた執事だ。カレルは、王宮の方へ向かって歩いていく。

「王宮に入ったのか?」

 ライニール王の関与を疑ったが、カレルは「いえ」と首を振った。

「それが不思議なことに、ここまで追いかけたところで急に姿が見えなくなったのです」

 カレルは王宮とブラウ離宮との間にある噴水を指し示した。噴水はかれていて、レンガの敷き詰められた底が露出している。丸く掘られた中央に、かつて水を噴出していた台が三段にわたって積み重なっている。

「ユリウス!」

 噴水跡をカレルと見ていると、エメレンスが走ってきた。

「ルカを連れ去った希少種のことだがな。五年前に一人だけ王宮から逃げ出したハルムという者がいてな。そいつが希少種では稀にみる体格の良さだったらしい」

「ルカが連れ去られたですと?!」

 これを聞いてカレルが目を丸くする。そういえばそこの説明がまだだった。ユリウスは手短にこれまでの経緯をカレルに話して聞かせた。

「なんと。ではあの肩のものは、ルカだったと?」

「ああ、そうかもしれない。それでエメレンス。そのハルムという希少種は」

「そいつは五年前に王宮から忽然と姿を消したらしい。ジオの四五年前という言葉を聞いて、ふと思い出したので確かめてきた」

「忽然と……」

 それではカレルの目撃した状況とまるで同じだ。
 ユリウスは噴水の縁に手をかけると、底におり、かれたレンガの上に下り立った。

「おい、何をする気だ?」

 エメレンスの声を軽く手を上げて制し、ユリウスは注意深く観察しながら、噴水の底を歩いた。ユリウスの頭がすっぽりおさまるほど噴水のプールは深い。底に張り巡らされたレンガは、王都中に巡らされている水路あとと同じだ。
 これほど大量の水が、かつての王都には溢れていたのか。
 今は生活用水にも困るほどだというのに不思議だ。循環式の噴水ならば出口はないが、噴出する水を流しっぱなしだったならば、どこかに排水口があるはずだ。

「おい! 気をつけろよ。あちこち脆くなっているぞ」

 エメレンスが声をかけるそばから、手をついた側壁がバラバラと崩れた。その瓦礫が底にあいた大きな穴に吸い込まれていく。排水口だ。
 中を覗いてみると、暗いが同じレンガ敷きの通路が奥へと続いているのが見えた。

「ユリウス様。おやめくださいませ。危のうございます」

 排水口に足をかけたところで、上からカレルが止めた。

「おい。カレルの言う通りだ。やめておけ。いつ崩れてもおかしくないぞ」

 エメレンスも声をかけ、ユリウスの横に飛び降りてきた。

「気持ちはわかるが、ルカがこの中に入ったかどうかはわからないんだ。やめておけ。別の方法をさがそう」

「いや、ここ見てみろ」

 ユリウスは穴の縁に溜まった砂の上にある足跡を見つけた。まだはっきりと靴底の形が残っている。

「俺はここから追ってみる。この水路は王都の街中に繋がっているんじゃないのか?」

「そうかもしれないが、詳しいことはわからない」

「ユリウス様。早くお戻りください」

 カレルが再度呼んだが、ユリウスは、「あとは頼む」と言い置き、排水口の中へと身を翻した。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家出を決行した結果

恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。 デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。 自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。 ※なろうさんにも公開しています。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

王宮地味女官、只者じゃねぇ

宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。 しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!? 王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。 訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ―― さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。 「おら、案内させてもらいますけんの」 その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。 王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」 副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」 ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」 そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」 けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。 王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。 訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る―― これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。 ★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。

【完結】記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...