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第四章
堅物辺境伯がまさかの
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毎年のことながら、屋敷前には大勢の領民が集っていた。出迎えたボブが扉を開き、ユリウスがまず馬車を降りる。領民の間から「お帰りなさいませ」と口々に声をかけられた。それらに応えつつ、ユリウスは振り返って馬車に手を差し出した。その手を取ってルカが降り立つと、辺りはしんと静まり返った。
次いでざわざわとした小声がさざ波のように広がっていく。予想していた反応ではある。
ルカが不安そうにこちらを見上げる。
「大丈夫だ」
ユリウスはルカの手を取ると、領民たちの間にできた道を堂々と歩いた。
「希少種だぞ」
「あの堅物ベイエル伯が奴隷を? うそだろ?」
「ほんとに真っ黒な髪と瞳だな」
領民の間から驚きの声が上がり、物珍しげにルカに視線が注がれる。こんな辺境の地で希少種を見ることはまずない。ユリウスが王都から奴隷を連れ帰ったという驚きの声と珍しい希少種に対する好奇の目が一気にユリウスとルカに向かった。
「ねぇ、ユリウス。ほんとに大丈夫?」
ルカがこそっと呟く。ユリウスは「大丈夫だ」と力強く頷き、ルカの手を力強く握った。
「フルン騎士団長とエミー様がいらっしゃっているので、応接間にお通ししています、辺境伯」
ボブが耳打ちする。ユリウスは頷き、ルカを連れて約三週間ぶりの屋敷に入った。集まった領民に土産を配るカレルとリサ、ボブは外に残る。
早速応接間に行くと、ソファから腰を上げ、コーバスが出迎えた。
「お帰りなさいませ、ベイエル伯。えっと……。こちらはれ……」
例の希少種かと言いかけてやめたのだろう。妹のエミーの前だ。ユリウスの拾い物のことは誰にも言うなと言っていた。
コーバスは遠慮のない視線をルカに送り、じろじろと見た。逆にここまで堂々と観察されると、気にならなくなるらしい。ルカは気にした様子もなく、ぺこりと頭を下げた。
妹のエミーの方は、おどおどしてちらちらとルカを見ている。そちらにもルカは頭を下げ、ユリウスがソファに座ったのを機にコーバス、エミー、最後にルカが腰を下ろした。すぐにアントンが温かい紅茶を運んでくる。
「いや、驚いた。俺は希少種を見るのは初めてだ。俺はモント騎士団の団長、コーバス・フルンだ。で、こっちが妹のエミーだ」
ルカはうかがうようにユリウスを見た ユリウスが頷くとルカは立ち上がり、ワンピースをつまんでお辞儀した。リサが帰り道で教えた自己紹介の仕方だ。
「ルカです。よろしくお願いいたします」
「俺が王都で買った希少種だ。以後見知り置いていてくれ」
ユリウスが補足で加える。ルカは隣に腰を下ろすと、ユリウスの袖を引いてきた。
「どうした?」
ルカは腰を浮かし、ユリウスの耳元で囁いた。
「もう、行ってもいい? ポポに会いたい」
それを聞いて、ユリウスはルカの背を押した。
「もういいよ、ルカ」
ユリウスの許可を得ると、ルカは立ち上がり、コーバスとエミーにお辞儀をして退室していった。ルカが出ていくと、コーバスは「しかし驚いたぞ」と声を上げた。
「なかなかちゃんとしていて、かわいいじゃないか。俺はもっと奴隷と言うと粗野な感じを想像していた。全く違うんで驚いた」
「リサがいろいろと教えているからな」
「あの……」
エミーがおずおずと割って入った。エミーの声を聞いたのは久しぶりだ。時折コーバスの屋敷で顔を合わせることはあるが、エミーはいつもにっこりしているだけで、ほとんど話さない。
「わたし、ちょっと席を外してもいいですか?」
よく見ると少し顔色が悪い。
「どうした? 大丈夫か?」
すぐさまコーバスも気がつき、エミーの背を支えたが、エミーは、「大丈夫です」と立ち上がると部屋を出ていった。コーバスは後を追いかけようと立ち上がる。それをユリウスは止めた。コーバスの手を拒絶するようにエミーは避けていた。一人になりたいのかもしれないと思った。
「あまり構いすぎるのもよくないぞ。好きにさせてやれよ」
ユリウスがそう言うと、コーバスは渋々ながら腰を下ろした。
「しかしうまくやったんだな。ルカのこと。一体どんな手を使った?」
コーバスは声を潜めた。
「こんなに堂々と帰ってくるとは思わなかったぞ。王宮騎士団は大丈夫なのか?」
「心配ない。友人に頼んで仕入れ証明書を手に入れた。奴隷登録をしたんだ。俺のものだと証明できれば、王宮騎士団の追及をかわせる」
「なるほどなぁ。考えたな。しかしユリウス」
コーバスはにやにやとした笑いを浮かべ、
「さっきも言ったが、あんなにかわいいとは思わなかったぞ。希少種というのはみなあんなふうに色白なのか?」
「希少種といってもいろいろいるからな」
「いや、しかし手足や腰も細くて、なかなかいいじゃないか。加えて庇護欲をそそられるあの感じ。堅物のおまえでも、手に入れたいと思うのも頷けるぞ」
「堅物は余計だ……」
「希少種なんかやめておけと前に言ったが、あれは撤回だ。晴れておまえのものになったんだ。堂々とやっちまえばいいのさ」
「コーバス、おまえまで……」
だから本人の意思を無視して勝手には致しかねる。エメレンスといい、コーバスといい、外野は勝手なことを言う。
「ああ、そうだ。それとなルーキングがまた動き出したぞ」
ついでのように言うが、それこそ見逃せない大事なことだ。隣国ルーキングに、今年の春は動きがなかったが、やはり来たか。
「警備の巡回を増やして警戒にあたっているが、今のところ川を渡ってくる気配はない。今年はなぜか川の水量が多いからな。奴ら今年は川越えできないだろう」
森を抜けた先にある国境線ともなっている川が、例年になく水量が多いとコーバスは言う。川は、領内の北東にある山脈、ハーグ山脈が水源だ。河川工事が行われたアルメレ川も同じ水源だ。だいたい、バッケル王国内を流れる川のほとんどは、ハーグ山脈から流れ出ている。王都での深刻な水不足を思えば、同じ山脈からの川でこうも水量が違うのかと不思議だ。
約三週間ぶりの領内だ。偵察がてら、あとで林へ散策に出かけようとユリウスは決めた。
次いでざわざわとした小声がさざ波のように広がっていく。予想していた反応ではある。
ルカが不安そうにこちらを見上げる。
「大丈夫だ」
ユリウスはルカの手を取ると、領民たちの間にできた道を堂々と歩いた。
「希少種だぞ」
「あの堅物ベイエル伯が奴隷を? うそだろ?」
「ほんとに真っ黒な髪と瞳だな」
領民の間から驚きの声が上がり、物珍しげにルカに視線が注がれる。こんな辺境の地で希少種を見ることはまずない。ユリウスが王都から奴隷を連れ帰ったという驚きの声と珍しい希少種に対する好奇の目が一気にユリウスとルカに向かった。
「ねぇ、ユリウス。ほんとに大丈夫?」
ルカがこそっと呟く。ユリウスは「大丈夫だ」と力強く頷き、ルカの手を力強く握った。
「フルン騎士団長とエミー様がいらっしゃっているので、応接間にお通ししています、辺境伯」
ボブが耳打ちする。ユリウスは頷き、ルカを連れて約三週間ぶりの屋敷に入った。集まった領民に土産を配るカレルとリサ、ボブは外に残る。
早速応接間に行くと、ソファから腰を上げ、コーバスが出迎えた。
「お帰りなさいませ、ベイエル伯。えっと……。こちらはれ……」
例の希少種かと言いかけてやめたのだろう。妹のエミーの前だ。ユリウスの拾い物のことは誰にも言うなと言っていた。
コーバスは遠慮のない視線をルカに送り、じろじろと見た。逆にここまで堂々と観察されると、気にならなくなるらしい。ルカは気にした様子もなく、ぺこりと頭を下げた。
妹のエミーの方は、おどおどしてちらちらとルカを見ている。そちらにもルカは頭を下げ、ユリウスがソファに座ったのを機にコーバス、エミー、最後にルカが腰を下ろした。すぐにアントンが温かい紅茶を運んでくる。
「いや、驚いた。俺は希少種を見るのは初めてだ。俺はモント騎士団の団長、コーバス・フルンだ。で、こっちが妹のエミーだ」
ルカはうかがうようにユリウスを見た ユリウスが頷くとルカは立ち上がり、ワンピースをつまんでお辞儀した。リサが帰り道で教えた自己紹介の仕方だ。
「ルカです。よろしくお願いいたします」
「俺が王都で買った希少種だ。以後見知り置いていてくれ」
ユリウスが補足で加える。ルカは隣に腰を下ろすと、ユリウスの袖を引いてきた。
「どうした?」
ルカは腰を浮かし、ユリウスの耳元で囁いた。
「もう、行ってもいい? ポポに会いたい」
それを聞いて、ユリウスはルカの背を押した。
「もういいよ、ルカ」
ユリウスの許可を得ると、ルカは立ち上がり、コーバスとエミーにお辞儀をして退室していった。ルカが出ていくと、コーバスは「しかし驚いたぞ」と声を上げた。
「なかなかちゃんとしていて、かわいいじゃないか。俺はもっと奴隷と言うと粗野な感じを想像していた。全く違うんで驚いた」
「リサがいろいろと教えているからな」
「あの……」
エミーがおずおずと割って入った。エミーの声を聞いたのは久しぶりだ。時折コーバスの屋敷で顔を合わせることはあるが、エミーはいつもにっこりしているだけで、ほとんど話さない。
「わたし、ちょっと席を外してもいいですか?」
よく見ると少し顔色が悪い。
「どうした? 大丈夫か?」
すぐさまコーバスも気がつき、エミーの背を支えたが、エミーは、「大丈夫です」と立ち上がると部屋を出ていった。コーバスは後を追いかけようと立ち上がる。それをユリウスは止めた。コーバスの手を拒絶するようにエミーは避けていた。一人になりたいのかもしれないと思った。
「あまり構いすぎるのもよくないぞ。好きにさせてやれよ」
ユリウスがそう言うと、コーバスは渋々ながら腰を下ろした。
「しかしうまくやったんだな。ルカのこと。一体どんな手を使った?」
コーバスは声を潜めた。
「こんなに堂々と帰ってくるとは思わなかったぞ。王宮騎士団は大丈夫なのか?」
「心配ない。友人に頼んで仕入れ証明書を手に入れた。奴隷登録をしたんだ。俺のものだと証明できれば、王宮騎士団の追及をかわせる」
「なるほどなぁ。考えたな。しかしユリウス」
コーバスはにやにやとした笑いを浮かべ、
「さっきも言ったが、あんなにかわいいとは思わなかったぞ。希少種というのはみなあんなふうに色白なのか?」
「希少種といってもいろいろいるからな」
「いや、しかし手足や腰も細くて、なかなかいいじゃないか。加えて庇護欲をそそられるあの感じ。堅物のおまえでも、手に入れたいと思うのも頷けるぞ」
「堅物は余計だ……」
「希少種なんかやめておけと前に言ったが、あれは撤回だ。晴れておまえのものになったんだ。堂々とやっちまえばいいのさ」
「コーバス、おまえまで……」
だから本人の意思を無視して勝手には致しかねる。エメレンスといい、コーバスといい、外野は勝手なことを言う。
「ああ、そうだ。それとなルーキングがまた動き出したぞ」
ついでのように言うが、それこそ見逃せない大事なことだ。隣国ルーキングに、今年の春は動きがなかったが、やはり来たか。
「警備の巡回を増やして警戒にあたっているが、今のところ川を渡ってくる気配はない。今年はなぜか川の水量が多いからな。奴ら今年は川越えできないだろう」
森を抜けた先にある国境線ともなっている川が、例年になく水量が多いとコーバスは言う。川は、領内の北東にある山脈、ハーグ山脈が水源だ。河川工事が行われたアルメレ川も同じ水源だ。だいたい、バッケル王国内を流れる川のほとんどは、ハーグ山脈から流れ出ている。王都での深刻な水不足を思えば、同じ山脈からの川でこうも水量が違うのかと不思議だ。
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