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第三章 旦那様はモテモテです
燃えるような恋?
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王女殿下のお言葉通り、私は食事を終えられたリーゲル様と殿下が連れ立って食堂から出て行かれるまで、その場に座り続けていた。
食堂を出る一歩手前で、未だ食事を終えていない私を気にするようにリーゲル様が振り返ってくれたけれど、彼が何ごとかを発する前に殿下が彼の背中を押し、結局二人はそのまま食堂を出て行ってしまう。
でもそれは仕方のないこと。
如何に公爵といえど、殿下には逆らえない。それに私は、リーゲル様が振り返ってくれただけで十分だった。
殿下のことだけを気にして、殿下のことで頭がいっぱいだと思っていたのに、ちゃんと私のことも気にしてくれたんだと、一人食堂に置いて行くことに対して何かを思ってくれたんだと思うだけで、幸せを感じられたから。
なんだかんだ、リーゲル様はお優しい。
それはもしかしたら、お姉様に裏切られたせいかもしれないけれど。
そんなお姉様の妹である私に、八つ当たりしてもいいぐらいだと思うのに、彼は酷いことを何もしないばかりか、恨み言一つさえも言ってきたことがない。
どうしてあんなに優しい人を、お姉様は裏切ることができたんだろう?
それ程までに駆け落ちした相手のことが好きだったのだろうと、お父様達は言っていたけれど。
正直なところ私には、そこまでの感情は理解できなかった。
リーゲル様のことは大好きだし、愛していると思うけれど、この気持ちが本当の恋愛によるものなのか、お姉様が騎士の方に抱いた気持ちと同じものなのかと問われると、どうしても自信が持てないのだ。
燃えるような恋──と言うけれど、一人でも燃えるのかどうか定かではないし、そういった温度の話で言えば、私の温度はそれほど高くないような気もする。
一瞬一瞬は激しく燃え上がるのだけど、燃え上がるというよりは、興奮してその時だけ噴火するといった感じ。
果たしてこれは、本当に恋なのかしら……?
そんな風に考えてしまうこともあったり、なかったりで。
考えているうちに、知らず食事をとる手が止まっていたらしい。
今更ながら悩み始めた私の肩を、不意に誰かが優しく叩いた。
「奥様」
「あっ、なあに?」
突如現実へと引き戻され、振り返る。
そこに居たのは、家令のマーシャルで。
「旦那様からの言伝でございます。これから殿下を庭園へとご案内するので、奥様もお食事を終えられましたら是非。とのことでございます」
「そう……分かったわ、ありがとう」
会釈をして去って行くマーシャルを見送りながら、私は急速に心が冷えていくのを感じる。
殿下と二人だけでいられる時間に、何故リーゲル様がわざわざ私を誘うようなことを口にしたのかは理解できないけれど、殿下からしたら私は完全にお邪魔虫だ。
誘いの言葉を真に受けて庭園へ行こうものなら、睨まれるだけでなく、また嫌味を言われるだろう。
幾ら嫌味を言われることに慣れているとはいっても、言われるのはやはり嫌だし、聞かずに済ませられるなら、そうしたい。
それに、殿下とリーゲル様が仲良くされている姿を目の前で見せつけられたら、きっと私はどうしたらいいのか分からなくなってしまう。
怒ればいいのか、悲しめばいいのか、無表情のままでいたらいいのか。
そんなことすら分からない私は、庭園になど行かない方が良いに決まっている。
リーゲル様も、恐らく妻である私の立場を慮って、義理で声をかけてくれただけだろうし。
まさか本当に私が庭園へ行くとは思ってもいないだろうから、ここで私が変にでしゃばって、王家と公爵家の関係にヒビを入れるような行いは、絶対に避けるべきだ。
そう結論付けた私は、食事を終えると真っ直ぐに自室へ向かい、外出の用意をするようポルテに告げた。
「外出されるんですか? それでは、旦那様が王女殿下と二人きりになってしまいます!」
私はそんなの反対です。と、渋る様子を見せたポルテだったけれど。
「私は出来れば家にいたくないの。殿下はリーゲル様と二人きりになられたいようだし、私がいては邪魔になってしまうわ。とはいえ使用人を全員連れて外出するわけではないのだから、完全に二人きりになれるわけでもないでしょう? だから大丈夫。それに、私が家にいることでリーゲル様にいらぬ気を遣わせるのも嫌なの。だから」
「旦那様が奥様を気にされるのは当たり前です!」
「それでも私は、極力あの方を煩わせたくないの。お願い、ポルテ」
懇願すると、ポルテは迷うように数瞬瞳を彷徨わせ、ややあって諦めたのか、がっくりと肩を落としながらも頷いてくれた。
「……かしこまりました。もの凄く不本意ですが、奥様のおっしゃる通りに致します。ですが、私も付いていきますからね!」
「まあ本当? 嬉しいわ。一人じゃ寂しいと思っていたの」
どうせなら、この機に色々なお店を見て回ろうと、二人で相談する。
王女殿下は、前公爵家にも過去何度か訪ねられており、その度に朝から夕方まで、ほぼ一日中リーゲル様と過ごされていたらしい。
だから今回も、どうせ夕方過ぎまで居座るだろうということで、私達はそのような計画をたてたのだった。
食堂を出る一歩手前で、未だ食事を終えていない私を気にするようにリーゲル様が振り返ってくれたけれど、彼が何ごとかを発する前に殿下が彼の背中を押し、結局二人はそのまま食堂を出て行ってしまう。
でもそれは仕方のないこと。
如何に公爵といえど、殿下には逆らえない。それに私は、リーゲル様が振り返ってくれただけで十分だった。
殿下のことだけを気にして、殿下のことで頭がいっぱいだと思っていたのに、ちゃんと私のことも気にしてくれたんだと、一人食堂に置いて行くことに対して何かを思ってくれたんだと思うだけで、幸せを感じられたから。
なんだかんだ、リーゲル様はお優しい。
それはもしかしたら、お姉様に裏切られたせいかもしれないけれど。
そんなお姉様の妹である私に、八つ当たりしてもいいぐらいだと思うのに、彼は酷いことを何もしないばかりか、恨み言一つさえも言ってきたことがない。
どうしてあんなに優しい人を、お姉様は裏切ることができたんだろう?
それ程までに駆け落ちした相手のことが好きだったのだろうと、お父様達は言っていたけれど。
正直なところ私には、そこまでの感情は理解できなかった。
リーゲル様のことは大好きだし、愛していると思うけれど、この気持ちが本当の恋愛によるものなのか、お姉様が騎士の方に抱いた気持ちと同じものなのかと問われると、どうしても自信が持てないのだ。
燃えるような恋──と言うけれど、一人でも燃えるのかどうか定かではないし、そういった温度の話で言えば、私の温度はそれほど高くないような気もする。
一瞬一瞬は激しく燃え上がるのだけど、燃え上がるというよりは、興奮してその時だけ噴火するといった感じ。
果たしてこれは、本当に恋なのかしら……?
そんな風に考えてしまうこともあったり、なかったりで。
考えているうちに、知らず食事をとる手が止まっていたらしい。
今更ながら悩み始めた私の肩を、不意に誰かが優しく叩いた。
「奥様」
「あっ、なあに?」
突如現実へと引き戻され、振り返る。
そこに居たのは、家令のマーシャルで。
「旦那様からの言伝でございます。これから殿下を庭園へとご案内するので、奥様もお食事を終えられましたら是非。とのことでございます」
「そう……分かったわ、ありがとう」
会釈をして去って行くマーシャルを見送りながら、私は急速に心が冷えていくのを感じる。
殿下と二人だけでいられる時間に、何故リーゲル様がわざわざ私を誘うようなことを口にしたのかは理解できないけれど、殿下からしたら私は完全にお邪魔虫だ。
誘いの言葉を真に受けて庭園へ行こうものなら、睨まれるだけでなく、また嫌味を言われるだろう。
幾ら嫌味を言われることに慣れているとはいっても、言われるのはやはり嫌だし、聞かずに済ませられるなら、そうしたい。
それに、殿下とリーゲル様が仲良くされている姿を目の前で見せつけられたら、きっと私はどうしたらいいのか分からなくなってしまう。
怒ればいいのか、悲しめばいいのか、無表情のままでいたらいいのか。
そんなことすら分からない私は、庭園になど行かない方が良いに決まっている。
リーゲル様も、恐らく妻である私の立場を慮って、義理で声をかけてくれただけだろうし。
まさか本当に私が庭園へ行くとは思ってもいないだろうから、ここで私が変にでしゃばって、王家と公爵家の関係にヒビを入れるような行いは、絶対に避けるべきだ。
そう結論付けた私は、食事を終えると真っ直ぐに自室へ向かい、外出の用意をするようポルテに告げた。
「外出されるんですか? それでは、旦那様が王女殿下と二人きりになってしまいます!」
私はそんなの反対です。と、渋る様子を見せたポルテだったけれど。
「私は出来れば家にいたくないの。殿下はリーゲル様と二人きりになられたいようだし、私がいては邪魔になってしまうわ。とはいえ使用人を全員連れて外出するわけではないのだから、完全に二人きりになれるわけでもないでしょう? だから大丈夫。それに、私が家にいることでリーゲル様にいらぬ気を遣わせるのも嫌なの。だから」
「旦那様が奥様を気にされるのは当たり前です!」
「それでも私は、極力あの方を煩わせたくないの。お願い、ポルテ」
懇願すると、ポルテは迷うように数瞬瞳を彷徨わせ、ややあって諦めたのか、がっくりと肩を落としながらも頷いてくれた。
「……かしこまりました。もの凄く不本意ですが、奥様のおっしゃる通りに致します。ですが、私も付いていきますからね!」
「まあ本当? 嬉しいわ。一人じゃ寂しいと思っていたの」
どうせなら、この機に色々なお店を見て回ろうと、二人で相談する。
王女殿下は、前公爵家にも過去何度か訪ねられており、その度に朝から夕方まで、ほぼ一日中リーゲル様と過ごされていたらしい。
だから今回も、どうせ夕方過ぎまで居座るだろうということで、私達はそのような計画をたてたのだった。
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