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第四章 旦那様がグイグイ来ます
氷の王子様
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「貴方って本当に失礼な方ね。わたくしが折角話しかけてあげてるのに、堂々とそれを無視するだなんて。どうしてこんな人がリーゲル様の妻になんてなれたのかしら。こんな人に何時迄も妻として居座られているなんて、リーゲル様が本当にお可哀想……」
心底同情する、とでも言いた気に、ファウステッド侯爵令嬢は私の顔を見てため息を吐く。
何時迄もと言いますが、結婚してまだ三ヶ月ほどしか経っていませんからね?
しかもあなた、リーゲル様のこと名前呼びしてますけれど、ご本人から許可はいただいてるんですか?
言いたいことは様々あれど、気弱な私は相手の反応が怖くて、どれも口にすることができない。
私的には、結婚してからまだ三ヶ月。でも、リーゲル様的にはやっと三ヶ月なのかもしれない。
私との生活が、リーゲル様にとって苦痛だったらどうしよう?
そんな不安が、私の心を過ぎる。
名前呼びに関しても、私が知らないだけで、侯爵令嬢自身がリーゲル様に許可されているのだとしたら?
その場合、彼女に注意などしたら、私の方が逆に彼からお叱りを受けてしまう。
だけど、何も言わずに言われっぱなしでいるままなのも悔しくて。
私は、これはと思う一つのことについてだけ、ファウステッド侯爵令嬢へ言い返すことにした。
「あの……私が妻でいるだけで迷惑になるというのなら、ヘマタイト公爵はどうして私と結婚してくれたのでしょうか?」
「そ、それは……っ」
途端に動揺し、言葉に詰まる侯爵令嬢。
言い出したのは、あなたでしょうに。
「だ……だってそうでしょ!? 貴方みたいなブスが隣にいるだけで、彼の品位が落ちるじゃないの!」
「そうなんですか?」
若干興奮しながら喋る彼女に、私は冷静に言葉を返す。
たとえ隣にいるのが美形だろうが不細工だろうが、リーゲル様自身の尊さは変わらないと思うけど。
「当然よ! リーゲル様のような美しい方の隣には、私のような──」
「あ」
その時不意に近付いてきた人物を目にして、私は思わず間抜けな声をだした。
「なによっ?」
ファウステッド侯爵令嬢にとっては背後であったため、私の視線を訝しんだ彼女は、勢い良く背後を振り返り──。
「ひっ……」
刹那、顔色を変えて動きを止めた。
「ど、どうして……」
彼女の視線の先にいるのは、怒りを通り越して冷たい微笑みを浮かべたリーゲル様で。
「帰ろうグラディス。買物はもう終わったんだろう?」
彼は驚愕に目を見開く侯爵令嬢のことなどお構いなしで、私に声をかけてきた。
「は、はい。買物は終わりました。ですが──」
侯爵令嬢を無視してしまって良いのですか?
と、聞こうとしたのだけれど。
「詳しい話は帰ってから聞くよ。ここには煩い虫がいるようだし、落ち着いて話せないからね」
そう言われ、彼がチラ、とファウステッド侯爵令嬢へと視線をやったことで、煩い虫は彼女だと無言で示された。
もちろん彼女も、それに気付いたのだろう。
一瞬で顔を真っ赤にすると、リーゲル様に喰ってかかった。
「わ、わたくしが虫だと仰るの? なんて失礼な! もどきなんかと一緒にいるから、リーゲル様は頭がおかしくなってしまわれたのでなくて?」
私を指差し、侯爵令嬢は怒りで全身を震わせる。
そんな彼女にリーゲル様は大仰に肩を竦めて見せると、私の手を取り立ち上がらせた。
「グラディスは名実ともに私の妻だ。決してもどきなどではない。それに……君のそれ、人を指差す仕草。貴族なのに恥ずかしいと思わないのか? 礼儀がまるでなっていないな」
「なっ……ん……ですって!?」
普段はお優しいリーゲル様の口から、まさかそんな言葉が飛び出すとは思ってもみなかったのだろう。
侯爵令嬢は、指差していた手をぐっと握りしめると、悔し気に歯を食いしばった。
「それからもう一つ。私は君に名前を口にする許可を与えてはいない。妻を貶したことも含めて君の家に厳重に抗議させてもらうから、覚悟しておくんだな」
冷たく言い放ち、リーゲル様は踵を返す。
私はこれまで、彼が人に冷たくするところを見たことがなかったから、呆然としつつも内心で『氷の王子様みたいで格好良いわ……』と不謹慎にも思ってしまった。
会計をポルテに任せ、店の外で止まっていた公爵家の馬車に乗り込む。否、乗り込もうとしたのだけれど。
「お待ち下さい!」
馬車へと乗り込む寸前で、ファウステッド侯爵令嬢がリーゲル様へ縋りついてきた。
「奥様を貶したこと、申し訳ございませんでした! リーゲル様と結婚なされたことが羨ましくて、ついあのような酷いことを言ってしまったのです。ですが本心ではございません。一時の戯れとして、どうか許してはいただけませんでしょうか?」
あり得ない言葉に、私は耳を疑う。
一時の戯れ? いやいや、絶対違うよね。
さりげにまたリーゲル様のこと名前で呼んじゃってるし。
さっきダメ出しされたの聞いてなかったの?
「奥様にも心から謝罪申し上げます。本当に申し訳ございませんでした……!」
声が大きいものだから、周囲の視線を集めまくっている。
これ、絶対わざとだよね?
どうせ形ばかりの謝罪だろうけど、ここまで注目を浴びた中で謝られて許さないとか、こっちが悪者になること間違いない。
本当は嫌だけど、ここは我慢して……と考えながらリーゲル様を見ると、私は彼に「早く乗って」とばかりに、馬車の中へと押し込まれた。
「お待ち下さい……!」
追い縋る令嬢の声に答えたのは、当然ながらリーゲル様で。
「形だけの謝罪は必要ないよ。侯爵令嬢風情が公爵とその夫人に不敬を働いておいて、謝って済むなどと思ったら大間違いだ。君ももう大人なのだから、自分の言動には責任を持たなければならないことを学ぶべきだね」
もの凄く冷たい声で言い切った。
かああっこいいぃぃぃぃぃぃ。
新たなリーゲル様の魅力に気付いてしまった。
もう彼の何を知っても『好き』しかない。
馬車の中で一人悶絶していると、それからすぐにリーゲル様とポルテが馬車に乗り込んできたため、私は必死に平静を装う。
「あら? ジュジュは?」
一人足りないと思って聞くと
「心配はございません」
と、笑顔でポルテに返された。
そういえばジュジュは、街へ行く時も馬車に乗っていなかったのに、気付いた時にはお店の中にいたのよね……。
だったらきっと帰りも何とかするのだろうと、私は早々に考えることを放棄した。
心底同情する、とでも言いた気に、ファウステッド侯爵令嬢は私の顔を見てため息を吐く。
何時迄もと言いますが、結婚してまだ三ヶ月ほどしか経っていませんからね?
しかもあなた、リーゲル様のこと名前呼びしてますけれど、ご本人から許可はいただいてるんですか?
言いたいことは様々あれど、気弱な私は相手の反応が怖くて、どれも口にすることができない。
私的には、結婚してからまだ三ヶ月。でも、リーゲル様的にはやっと三ヶ月なのかもしれない。
私との生活が、リーゲル様にとって苦痛だったらどうしよう?
そんな不安が、私の心を過ぎる。
名前呼びに関しても、私が知らないだけで、侯爵令嬢自身がリーゲル様に許可されているのだとしたら?
その場合、彼女に注意などしたら、私の方が逆に彼からお叱りを受けてしまう。
だけど、何も言わずに言われっぱなしでいるままなのも悔しくて。
私は、これはと思う一つのことについてだけ、ファウステッド侯爵令嬢へ言い返すことにした。
「あの……私が妻でいるだけで迷惑になるというのなら、ヘマタイト公爵はどうして私と結婚してくれたのでしょうか?」
「そ、それは……っ」
途端に動揺し、言葉に詰まる侯爵令嬢。
言い出したのは、あなたでしょうに。
「だ……だってそうでしょ!? 貴方みたいなブスが隣にいるだけで、彼の品位が落ちるじゃないの!」
「そうなんですか?」
若干興奮しながら喋る彼女に、私は冷静に言葉を返す。
たとえ隣にいるのが美形だろうが不細工だろうが、リーゲル様自身の尊さは変わらないと思うけど。
「当然よ! リーゲル様のような美しい方の隣には、私のような──」
「あ」
その時不意に近付いてきた人物を目にして、私は思わず間抜けな声をだした。
「なによっ?」
ファウステッド侯爵令嬢にとっては背後であったため、私の視線を訝しんだ彼女は、勢い良く背後を振り返り──。
「ひっ……」
刹那、顔色を変えて動きを止めた。
「ど、どうして……」
彼女の視線の先にいるのは、怒りを通り越して冷たい微笑みを浮かべたリーゲル様で。
「帰ろうグラディス。買物はもう終わったんだろう?」
彼は驚愕に目を見開く侯爵令嬢のことなどお構いなしで、私に声をかけてきた。
「は、はい。買物は終わりました。ですが──」
侯爵令嬢を無視してしまって良いのですか?
と、聞こうとしたのだけれど。
「詳しい話は帰ってから聞くよ。ここには煩い虫がいるようだし、落ち着いて話せないからね」
そう言われ、彼がチラ、とファウステッド侯爵令嬢へと視線をやったことで、煩い虫は彼女だと無言で示された。
もちろん彼女も、それに気付いたのだろう。
一瞬で顔を真っ赤にすると、リーゲル様に喰ってかかった。
「わ、わたくしが虫だと仰るの? なんて失礼な! もどきなんかと一緒にいるから、リーゲル様は頭がおかしくなってしまわれたのでなくて?」
私を指差し、侯爵令嬢は怒りで全身を震わせる。
そんな彼女にリーゲル様は大仰に肩を竦めて見せると、私の手を取り立ち上がらせた。
「グラディスは名実ともに私の妻だ。決してもどきなどではない。それに……君のそれ、人を指差す仕草。貴族なのに恥ずかしいと思わないのか? 礼儀がまるでなっていないな」
「なっ……ん……ですって!?」
普段はお優しいリーゲル様の口から、まさかそんな言葉が飛び出すとは思ってもみなかったのだろう。
侯爵令嬢は、指差していた手をぐっと握りしめると、悔し気に歯を食いしばった。
「それからもう一つ。私は君に名前を口にする許可を与えてはいない。妻を貶したことも含めて君の家に厳重に抗議させてもらうから、覚悟しておくんだな」
冷たく言い放ち、リーゲル様は踵を返す。
私はこれまで、彼が人に冷たくするところを見たことがなかったから、呆然としつつも内心で『氷の王子様みたいで格好良いわ……』と不謹慎にも思ってしまった。
会計をポルテに任せ、店の外で止まっていた公爵家の馬車に乗り込む。否、乗り込もうとしたのだけれど。
「お待ち下さい!」
馬車へと乗り込む寸前で、ファウステッド侯爵令嬢がリーゲル様へ縋りついてきた。
「奥様を貶したこと、申し訳ございませんでした! リーゲル様と結婚なされたことが羨ましくて、ついあのような酷いことを言ってしまったのです。ですが本心ではございません。一時の戯れとして、どうか許してはいただけませんでしょうか?」
あり得ない言葉に、私は耳を疑う。
一時の戯れ? いやいや、絶対違うよね。
さりげにまたリーゲル様のこと名前で呼んじゃってるし。
さっきダメ出しされたの聞いてなかったの?
「奥様にも心から謝罪申し上げます。本当に申し訳ございませんでした……!」
声が大きいものだから、周囲の視線を集めまくっている。
これ、絶対わざとだよね?
どうせ形ばかりの謝罪だろうけど、ここまで注目を浴びた中で謝られて許さないとか、こっちが悪者になること間違いない。
本当は嫌だけど、ここは我慢して……と考えながらリーゲル様を見ると、私は彼に「早く乗って」とばかりに、馬車の中へと押し込まれた。
「お待ち下さい……!」
追い縋る令嬢の声に答えたのは、当然ながらリーゲル様で。
「形だけの謝罪は必要ないよ。侯爵令嬢風情が公爵とその夫人に不敬を働いておいて、謝って済むなどと思ったら大間違いだ。君ももう大人なのだから、自分の言動には責任を持たなければならないことを学ぶべきだね」
もの凄く冷たい声で言い切った。
かああっこいいぃぃぃぃぃぃ。
新たなリーゲル様の魅力に気付いてしまった。
もう彼の何を知っても『好き』しかない。
馬車の中で一人悶絶していると、それからすぐにリーゲル様とポルテが馬車に乗り込んできたため、私は必死に平静を装う。
「あら? ジュジュは?」
一人足りないと思って聞くと
「心配はございません」
と、笑顔でポルテに返された。
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