40 / 84
第四章 旦那様がグイグイ来ます
信じられない話
しおりを挟む
「グラディス、よく聞いてくれ。実はな……」
リーゲル様と両手を繋いだ状態のまま、私は彼の言葉に耳を傾ける。
王女殿下とリーゲル様の話なんて本当は聞きたくないけれど、ここまでするからには、きっと何か話さなければならない事情があるのだろう。
でも、彼と殿下の仲が良いことは既に知っているし、今更改めて聞くことなんてないような気がする。
それとも、私が出掛けている間に、何か問題でも発生したのかしら?
もしかすると、そうかもしれない。
だとしたら、一体何が起こったんだろう?
緊張する私に、リーゲル様はふっと表情を崩す。それから徐に口を開くと、はっきりとした口調でこう言った。
「実は私は、王女殿下を好いてはいない」
「そうなんですか……ええっ!?」
予想外の内容であったことと、あまりにもサラッと言われたため、つい聞き流しそうになってしまった。
今何を言われたんだっけ? と、言われたことを数瞬頭の中で考えてから、理解が追いついた途端、驚きの声が口から漏れる。
好いてはいない? それってつまり、好きじゃないってこと?
「嘘……」
そんなこと、ありえない。
だって、あんなにも仲睦まじくしていらしたのに、好きじゃないと聞いたからといって、はいそうですか。と簡単に信じられるわけがない。
いくら私でも、そこまで単純ではないのだ。
「ですが今日も、腕を組んでいらっしゃいましたよね?」
朝食の後、二人揃って食堂を出て行く時、仲良さ気に腕を組むところを私はしっかり目撃していた。
それにショックを受けたから、外出を決めたのに。
「あれは殿下が無理矢理私の腕に絡み付いて来ただけで、好きで組んだわけでは──」
「絡み付くなんて、いやらしいです! そんな言い方しないで下さい!」
「す、すまない。だが、あれは本当に私の本意ではなく、寧ろ無理矢理くっつかれただけで──」
無意識なのかわざとなのか、リーゲル様の言い方がいちいち私の心を抉る。
絡み付くだとかくっつかれただとか、同じようなことを何度も何度も、手を変え品を変え言わないで欲しい。
たとえリーゲル様が殿下のことを本当に好きでなくても、くっついたりしている分だけ、私よりも仲が良いということなのに。
私なんて、ダンスの時を除けば、今初めて手を握られたのよ?
いくら相手が王族だとはいえ、好きでもない相手とあんなにも仲睦まじく振る舞うことができるだなんて、神経を疑ってしまう。
「それで? 殿下のことが好きでないなら、なんだと言うのですか?」
ふと二人の仲良さ気な姿を思い出し、だからつい言い方が冷たくなった。
そのことはもう考えたくなくて、半ば強制的に続きを促す。
どうして突然こんな話をし始めたのか、リーゲル様の考えがまったく理解できない。
私のそんな気持ちを察したのだろうか。
彼は少しだけ困ったような顔をすると、私の両手を握る手に力を込めた。
「つまり私が言いたいのは、私と殿下の仲を誤解しないでほしい、ということなんだ」
「誤解とは……」
誤解も何も、二人の仲が良いことは、最早疑いようがないではないか。
夫婦で行った夜会で妻を放置して二人──正確には王太子殿下も入れた三人──で話し、かと思えば朝早くに突然邸へやって来て、これ見よがしに仲の良さを見せつけられた。
極め付けは、夫婦でもないのにお互いを名前で呼び合う親密ぶり。
これで一体何がどう誤解だと言うのだろうか。
「私には、自分の目で見たものが真実のように思えますが……」
これまで見たものすべてを誤解で片付けるには、二人はあまりにも仲良くしすぎている。
ただ一点疑える事実があるとすれば、街へ出た私をリーゲル様が迎えに来てくれたことだけれど。
あれは本当に私を迎えに来てくれたのかしら?
思い出してみると、彼の口からは一言だって私を迎えに来たとか、そういった意味の言葉は発せられていなかった。
ただ偶然カフェで逢って、お互いにもう街での用事がなかったから、ちょうどよく一緒に帰って来たみたいな。
「そもそもリーゲル様は、何故今日街へいらしたのですか?」
もしかして、王女殿下をお城へ送った帰りとか、彼自身も街に用事があって、出掛けた際に偶然私をみつけただとか、そんな理由なのかもしれない。
けれど──。
「あー……うん、私が街へ行った理由か。そうだな……」
リーゲル様は、何故だか言いにくそうに言葉を濁した。
これはもしや、何か言えない理由があるのでは?
私の勘が働き、ここは何が何でも聞き出そうと決意を固める。
大方、王女殿下にプレゼントを買ったとか、そんなことなんだろうけど。
それならそれで素直に言ってしまえばいいのに、どうして言葉を濁すのかが分からない。
殿下のことを好きではないと言ってしまった手前、言いにくいのかしら?
じっとリーゲル様を見つめるも、いつも落ち着いている彼にしては珍しく、若干焦ったような顔をしている。
でも悪いけど、私だってあやふやにする気はないのよ。
王女殿下を好きでないと言うのなら、それなりに私が納得できるような説明をしてもらう。
リーゲル様と両手を繋いだ状態のまま、私は彼の言葉に耳を傾ける。
王女殿下とリーゲル様の話なんて本当は聞きたくないけれど、ここまでするからには、きっと何か話さなければならない事情があるのだろう。
でも、彼と殿下の仲が良いことは既に知っているし、今更改めて聞くことなんてないような気がする。
それとも、私が出掛けている間に、何か問題でも発生したのかしら?
もしかすると、そうかもしれない。
だとしたら、一体何が起こったんだろう?
緊張する私に、リーゲル様はふっと表情を崩す。それから徐に口を開くと、はっきりとした口調でこう言った。
「実は私は、王女殿下を好いてはいない」
「そうなんですか……ええっ!?」
予想外の内容であったことと、あまりにもサラッと言われたため、つい聞き流しそうになってしまった。
今何を言われたんだっけ? と、言われたことを数瞬頭の中で考えてから、理解が追いついた途端、驚きの声が口から漏れる。
好いてはいない? それってつまり、好きじゃないってこと?
「嘘……」
そんなこと、ありえない。
だって、あんなにも仲睦まじくしていらしたのに、好きじゃないと聞いたからといって、はいそうですか。と簡単に信じられるわけがない。
いくら私でも、そこまで単純ではないのだ。
「ですが今日も、腕を組んでいらっしゃいましたよね?」
朝食の後、二人揃って食堂を出て行く時、仲良さ気に腕を組むところを私はしっかり目撃していた。
それにショックを受けたから、外出を決めたのに。
「あれは殿下が無理矢理私の腕に絡み付いて来ただけで、好きで組んだわけでは──」
「絡み付くなんて、いやらしいです! そんな言い方しないで下さい!」
「す、すまない。だが、あれは本当に私の本意ではなく、寧ろ無理矢理くっつかれただけで──」
無意識なのかわざとなのか、リーゲル様の言い方がいちいち私の心を抉る。
絡み付くだとかくっつかれただとか、同じようなことを何度も何度も、手を変え品を変え言わないで欲しい。
たとえリーゲル様が殿下のことを本当に好きでなくても、くっついたりしている分だけ、私よりも仲が良いということなのに。
私なんて、ダンスの時を除けば、今初めて手を握られたのよ?
いくら相手が王族だとはいえ、好きでもない相手とあんなにも仲睦まじく振る舞うことができるだなんて、神経を疑ってしまう。
「それで? 殿下のことが好きでないなら、なんだと言うのですか?」
ふと二人の仲良さ気な姿を思い出し、だからつい言い方が冷たくなった。
そのことはもう考えたくなくて、半ば強制的に続きを促す。
どうして突然こんな話をし始めたのか、リーゲル様の考えがまったく理解できない。
私のそんな気持ちを察したのだろうか。
彼は少しだけ困ったような顔をすると、私の両手を握る手に力を込めた。
「つまり私が言いたいのは、私と殿下の仲を誤解しないでほしい、ということなんだ」
「誤解とは……」
誤解も何も、二人の仲が良いことは、最早疑いようがないではないか。
夫婦で行った夜会で妻を放置して二人──正確には王太子殿下も入れた三人──で話し、かと思えば朝早くに突然邸へやって来て、これ見よがしに仲の良さを見せつけられた。
極め付けは、夫婦でもないのにお互いを名前で呼び合う親密ぶり。
これで一体何がどう誤解だと言うのだろうか。
「私には、自分の目で見たものが真実のように思えますが……」
これまで見たものすべてを誤解で片付けるには、二人はあまりにも仲良くしすぎている。
ただ一点疑える事実があるとすれば、街へ出た私をリーゲル様が迎えに来てくれたことだけれど。
あれは本当に私を迎えに来てくれたのかしら?
思い出してみると、彼の口からは一言だって私を迎えに来たとか、そういった意味の言葉は発せられていなかった。
ただ偶然カフェで逢って、お互いにもう街での用事がなかったから、ちょうどよく一緒に帰って来たみたいな。
「そもそもリーゲル様は、何故今日街へいらしたのですか?」
もしかして、王女殿下をお城へ送った帰りとか、彼自身も街に用事があって、出掛けた際に偶然私をみつけただとか、そんな理由なのかもしれない。
けれど──。
「あー……うん、私が街へ行った理由か。そうだな……」
リーゲル様は、何故だか言いにくそうに言葉を濁した。
これはもしや、何か言えない理由があるのでは?
私の勘が働き、ここは何が何でも聞き出そうと決意を固める。
大方、王女殿下にプレゼントを買ったとか、そんなことなんだろうけど。
それならそれで素直に言ってしまえばいいのに、どうして言葉を濁すのかが分からない。
殿下のことを好きではないと言ってしまった手前、言いにくいのかしら?
じっとリーゲル様を見つめるも、いつも落ち着いている彼にしては珍しく、若干焦ったような顔をしている。
でも悪いけど、私だってあやふやにする気はないのよ。
王女殿下を好きでないと言うのなら、それなりに私が納得できるような説明をしてもらう。
160
あなたにおすすめの小説
婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?
すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。
人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。
これでは領民が冬を越せない!!
善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。
『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』
と……。
そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
【完結】もう一度あなたと結婚するくらいなら、初恋の騎士様を選びます。
紺
恋愛
「価値のない君を愛してあげられるのは僕だけだよ?」
気弱な伯爵令嬢カトレアは両親や親友に勧められるまま幼なじみと結婚する。しかし彼は束縛や暴言で彼女をコントロールするモラハラ男だった。
ある日カトレアは夫の愛人である親友に毒殺されてしまう。裏切られた彼女が目を覚ますと、そこは婚約を結ぶきっかけとなった8年前に逆行していた。
このままではまた地獄の生活が始まってしまう……!
焦ったカトレアの前に現れたのは、当時少しだけ恋心を抱いていたコワモテの騎士だった。
もし人生やり直しが出来るなら、諦めた初恋の騎士様を選んでもいいの……よね?
逆行したヒロインが初恋の騎士と人生リスタートするお話。
ざまぁ必須、基本ヒロイン愛されています。
※誤字脱字にご注意ください。
※作者は更新頻度にムラがあります。どうぞ寛大なお心でお楽しみ下さい。
※ご都合主義のファンタジー要素あり。
本日、貴方を愛するのをやめます~王妃と不倫した貴方が悪いのですよ?~
なか
恋愛
私は本日、貴方と離婚します。
愛するのは、終わりだ。
◇◇◇
アーシアの夫––レジェスは王妃の護衛騎士の任についた途端、妻である彼女を冷遇する。
初めは優しくしてくれていた彼の変貌ぶりに、アーシアは戸惑いつつも、再び振り向いてもらうため献身的に尽くした。
しかし、玄関先に置かれていた見知らぬ本に、謎の日本語が書かれているのを見つける。
それを読んだ瞬間、前世の記憶を思い出し……彼女は知った。
この世界が、前世の記憶で読んだ小説であること。
レジェスとの結婚は、彼が愛する王妃と密通を交わすためのものであり……アーシアは王妃暗殺を目論んだ悪女というキャラで、このままでは断罪される宿命にあると。
全てを思い出したアーシアは覚悟を決める。
彼と離婚するため三年間の準備を整えて、断罪の未来から逃れてみせると……
この物語は、彼女の決意から三年が経ち。
離婚する日から始まっていく
戻ってこいと言われても、彼女に戻る気はなかった。
◇◇◇
設定は甘めです。
読んでくださると嬉しいです。
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
この婚約は白い結婚に繋がっていたはずですが? 〜深窓の令嬢は赤獅子騎士団長に溺愛される〜
氷雨そら
恋愛
婚約相手のいない婚約式。
通常であれば、この上なく惨めであろうその場所に、辺境伯令嬢ルナシェは、美しいベールをなびかせて、毅然とした姿で立っていた。
ベールから、こぼれ落ちるような髪は白銀にも見える。プラチナブロンドが、日差しに輝いて神々しい。
さすがは、白薔薇姫との呼び名高い辺境伯令嬢だという周囲の感嘆。
けれど、ルナシェの内心は、実はそれどころではなかった。
(まさかのやり直し……?)
先ほど確かに、ルナシェは断頭台に露と消えたのだ。しかし、この場所は確かに、あの日経験した、たった一人の婚約式だった。
ルナシェは、人生を変えるため、婚約式に現れなかった婚約者に、婚約破棄を告げるため、激戦の地へと足を向けるのだった。
小説家になろう様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる