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第五章 旦那様を守りたい
名前呼び
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「王太子殿下のせいで、リーゲル様達を見失ってしまったじゃないですか!」
懸命に周囲を見回しながら、私は王太子殿下を責める。
不敬罪ギリギリだけど、目を離した隙にリーゲル様に何かあったら後悔してもしきれないから、これには目を瞑ってもらおう。
「そもそも王女殿下の保護者として王太子殿下に来てもらったのに、見失っては元も子もないですよね?」
「ええぇ~……それって私のせいなのか? というか君、呼び方が固いよね。妹のことはアルテミシア、私のことはシーヴァイスと名前で呼んでくれてかまわないよ?」
突然何を言い出すのか、王太子殿下は突拍子もないことを口にする。
「王族の方を名前で呼べと?! そんなこと出来ません! 不敬です! って、今はそんなことを言っている場合ではありませんわ!」
つい流されそうになり、私はぶんぶんと頭を横に振って話題を変えた。
呼び方なんて気にしている暇があるなら、一刻も早く二人を探して欲しい。
私達が今こうしている間にも、リーゲル様が危険な目に遭っているかもしれないのに。
そう考えると気が気じゃないのだけれど、王太子殿下はそんな私の気持ちなんて何処吹く風で、のほほんとした表情をしている。
そんな殿下を見ていたら私は何だか無性に腹が立って来て、不敬だけど足を踏みつけてやりたくなった。
「……よし」
不穏な考えに支配され、機会を窺っていた私に、王太子殿下がいきなり手を差し出してくる。
「え?」
予想外の行動に目を丸くした私に、殿下はにこりと微笑んだ。
「女性を失望させるのは気が引けるから、今回は特別に二人がいると思う所までエスコートしてあげるよ」
「本当ですか!?」
だったら最初から余計なことは言わず、素直に案内してくれればいいのに。
なんとなくモヤモヤしたものを感じつつ、折角その気になったのだからと、私は殿下の手にそっと手を添える。
けれど、やはり王太子殿下は曲者だった。
「替わりに、私のことを名前で呼んでくれるかな? ああいや、別に強制するつもりはないよ。拒否されたからといって、二人の所へ案内しない、などということはしない。ただ……」
「ただ?」
眉間に皺を寄せて聞き返すと、殿下は輝くような笑顔を浮かべた。
「私と君と、二人だけの時間が長くなることはあるかもしれないね」
瞬間、周囲から黄色い悲鳴があがる。
あまりにも突然のことに、私は驚いて肩が跳ねた。
「きゃああああああああっ!」
「王太子殿下のロマンスだわっ」
「お相手は? あの女性はどこのお貴族様なの!?」
見れば、買物の間中、王太子殿下の後をついて回っていただろう娘達。
相手は平民であるため、私の身分や家名までは知られていないようだけど、このままにしておくのはまずいような気がする。
妙な噂をたてられでもしたら、リーゲル様にご迷惑がかかってしまう。ここはサッサと逃げ出さなければ。
「殿下、早く行きましょう!」
危機迫って殿下の腕を引くも、
「うん、良いよ。君の行きたい場所なら何処へでも」
なんてキラキラしい笑顔で言うものだから、周囲からはまたも黄色い悲鳴があがってしまう。
この人、絶対にわざとやってるわね。なんて性格が悪いのかしら……。
王女殿下もかなりな性格をしていると思ったけれど、王太子殿下はそれに輪をかけてとんでもない性格をしている。
もしかして王族というのは、性格が悪くないとやっていけないものなのかしら?
これまで何度も高位貴族に絡まれた経験から、爵位が高くなるほど嫌味で、性格の悪い人が多いということは実感していた。
王族といえばその頂点ともいえる人達だから、そう考えると性格が悪いのは当然かも知れないけれど。
そこで私は、ふと気付く。
「ところで私達、どこに向かって歩いているんですか?」
とにかく黄色い声をあげる娘達から離れなければと、適当に歩いてきてしまった。
でも、私の目的はリーゲル様達に合流することだ。
そのためにはこの方向で合っているのかと王太子殿下に尋ねると、彼は微笑んで肩を竦めた。
「私は知らないよ。元々私の腕を引いて歩き出したのは君の方だし、私は君に導かれるまま歩いていただけだからね」
「そんな……!」
だったら早く言って欲しかった。
二の句が継げない私を見て、王太子殿下はにこやかな笑顔を浮かべたまま、言葉を続ける。
「なんなら私が先に立って歩こうか? 君が私を友人と認めて名前で呼んでくれるなら、最短距離で二人の所へ案内するよ?」
「卑怯者……」
「何か言ったかい?」
「いえ。……ではシーヴァイス様、よろしくお願いいたします」
わざとらしく、苦虫を噛み潰したような顔をして言ったのに。
にも関わらず、私がそう言った途端、してやったりと言いた気な顔をした王太子殿下。
「うん。グラディスの頼みなら、喜んで」
周囲の娘達の視線を一手に集めるような笑顔で言った。
くっ……。
負けたみたいで、なんだか悔しい。
そう思いつつも、シーヴァイス様に手を引かれるまま街の中を進んで行くと、然程時間がかかることなく、私はリーゲル様達と合流することができたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
終わりがまだ見えませんが、まだまだ頑張っていきたいと思います。
いいねやエール、ありがとうございます!
ランキングもじわりじわりと上がってきて、嬉しい限りです。
本当にありがとうございます!
懸命に周囲を見回しながら、私は王太子殿下を責める。
不敬罪ギリギリだけど、目を離した隙にリーゲル様に何かあったら後悔してもしきれないから、これには目を瞑ってもらおう。
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「ええぇ~……それって私のせいなのか? というか君、呼び方が固いよね。妹のことはアルテミシア、私のことはシーヴァイスと名前で呼んでくれてかまわないよ?」
突然何を言い出すのか、王太子殿下は突拍子もないことを口にする。
「王族の方を名前で呼べと?! そんなこと出来ません! 不敬です! って、今はそんなことを言っている場合ではありませんわ!」
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呼び方なんて気にしている暇があるなら、一刻も早く二人を探して欲しい。
私達が今こうしている間にも、リーゲル様が危険な目に遭っているかもしれないのに。
そう考えると気が気じゃないのだけれど、王太子殿下はそんな私の気持ちなんて何処吹く風で、のほほんとした表情をしている。
そんな殿下を見ていたら私は何だか無性に腹が立って来て、不敬だけど足を踏みつけてやりたくなった。
「……よし」
不穏な考えに支配され、機会を窺っていた私に、王太子殿下がいきなり手を差し出してくる。
「え?」
予想外の行動に目を丸くした私に、殿下はにこりと微笑んだ。
「女性を失望させるのは気が引けるから、今回は特別に二人がいると思う所までエスコートしてあげるよ」
「本当ですか!?」
だったら最初から余計なことは言わず、素直に案内してくれればいいのに。
なんとなくモヤモヤしたものを感じつつ、折角その気になったのだからと、私は殿下の手にそっと手を添える。
けれど、やはり王太子殿下は曲者だった。
「替わりに、私のことを名前で呼んでくれるかな? ああいや、別に強制するつもりはないよ。拒否されたからといって、二人の所へ案内しない、などということはしない。ただ……」
「ただ?」
眉間に皺を寄せて聞き返すと、殿下は輝くような笑顔を浮かべた。
「私と君と、二人だけの時間が長くなることはあるかもしれないね」
瞬間、周囲から黄色い悲鳴があがる。
あまりにも突然のことに、私は驚いて肩が跳ねた。
「きゃああああああああっ!」
「王太子殿下のロマンスだわっ」
「お相手は? あの女性はどこのお貴族様なの!?」
見れば、買物の間中、王太子殿下の後をついて回っていただろう娘達。
相手は平民であるため、私の身分や家名までは知られていないようだけど、このままにしておくのはまずいような気がする。
妙な噂をたてられでもしたら、リーゲル様にご迷惑がかかってしまう。ここはサッサと逃げ出さなければ。
「殿下、早く行きましょう!」
危機迫って殿下の腕を引くも、
「うん、良いよ。君の行きたい場所なら何処へでも」
なんてキラキラしい笑顔で言うものだから、周囲からはまたも黄色い悲鳴があがってしまう。
この人、絶対にわざとやってるわね。なんて性格が悪いのかしら……。
王女殿下もかなりな性格をしていると思ったけれど、王太子殿下はそれに輪をかけてとんでもない性格をしている。
もしかして王族というのは、性格が悪くないとやっていけないものなのかしら?
これまで何度も高位貴族に絡まれた経験から、爵位が高くなるほど嫌味で、性格の悪い人が多いということは実感していた。
王族といえばその頂点ともいえる人達だから、そう考えると性格が悪いのは当然かも知れないけれど。
そこで私は、ふと気付く。
「ところで私達、どこに向かって歩いているんですか?」
とにかく黄色い声をあげる娘達から離れなければと、適当に歩いてきてしまった。
でも、私の目的はリーゲル様達に合流することだ。
そのためにはこの方向で合っているのかと王太子殿下に尋ねると、彼は微笑んで肩を竦めた。
「私は知らないよ。元々私の腕を引いて歩き出したのは君の方だし、私は君に導かれるまま歩いていただけだからね」
「そんな……!」
だったら早く言って欲しかった。
二の句が継げない私を見て、王太子殿下はにこやかな笑顔を浮かべたまま、言葉を続ける。
「なんなら私が先に立って歩こうか? 君が私を友人と認めて名前で呼んでくれるなら、最短距離で二人の所へ案内するよ?」
「卑怯者……」
「何か言ったかい?」
「いえ。……ではシーヴァイス様、よろしくお願いいたします」
わざとらしく、苦虫を噛み潰したような顔をして言ったのに。
にも関わらず、私がそう言った途端、してやったりと言いた気な顔をした王太子殿下。
「うん。グラディスの頼みなら、喜んで」
周囲の娘達の視線を一手に集めるような笑顔で言った。
くっ……。
負けたみたいで、なんだか悔しい。
そう思いつつも、シーヴァイス様に手を引かれるまま街の中を進んで行くと、然程時間がかかることなく、私はリーゲル様達と合流することができたのだった。
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