【完結】私の初恋の人に屈辱と絶望を与えたのは、大好きなお姉様でした

迦陵 れん

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第六章 旦那様の傍にいたい

疑いの目

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「取り敢えず……お前の話には付き合いきれないから、もう帰ってもらっても良いか?」

 王太子殿下に、そう切り出したリーゲル様。

 今日は色々な事があって疲れたから、本当に早く帰ってほしい。これ以上面倒事に巻き込まれるのはごめんよ。

 私もリーゲル様と同じ気持ちだと、彼に寄り添いながら目で訴える。

 けれど、鈍いと言うかなんというか。王太子殿下はキョトンとしてから、「リーゲルは意外と性質の悪い冗談が好きだよな」と言って笑った。

 いや、冗談でも何でもなくて。心底あなたに帰ってもらいたいんですが?

 と思うも、一人で楽し気に笑っている殿下には何を言っても通じなさそうで、私とリーゲル様は顔を見合わせる。

「この兄妹はほんっと昔から人の話を聞かなくて、こんなんで王族が勤まるのか? と常々思っていたんだ。王族ともなれば民の話に耳を傾けるのは当然のことなのに、いつまで経ってもこの調子で……」

 やれやれと頭を抱えるリーゲル様の言葉に、私はため息を吐く。

 確かに。王太子殿下も王女殿下も基本好き勝手に喋るだけで、あまり此方の言うことは聞いてくれないというか、聞く気がないというか、そんな感じなのよね。

 お二人とも見目はとっても麗しいのに、中身がとてつもなく残念だから、結婚相手は大変そうだわ。こんな人達と結婚したら、将来苦労するのが目に見えている。

 目の前にいる王太子殿下に、すん……とした視線を送り、私はそういえば……と口を開いた。

「そういえばリーゲル様」
「ん? どうかしたのか?」
「先程シーヴァイス様が『妹は片付けた』と仰っていた気がするのですが、あれってどういう意味だったんでしょうか?」

 ああいう言い方をするということは、エルンスト様が王女殿下を連れて行った件に、王太子殿下は無関係じゃないのかもしれない。

 否、王女殿下が帰って来ないというのに、平然としている時点で関係者に間違いないと思う。普通だったら妹が誘拐されて、平然としているなんておかしいもの。

「シーヴァイス、お前……アダマン侯爵家嫡男のエルンストって知ってるか?」

 私の懸念を察したリーゲル様が、徐に王太子殿下へと尋ねる。

「エルンスト……いや、知らないな。その男がどうかしたのか?」

 しれっと答えを返す王太子殿下。

 エルンスト様は王女殿下の件について、国王様に依頼されたような事を言っていたけれど、真実ほんとうの依頼主は王太子殿下なのではないかと私は疑っている。

 これまでも、王女殿下を寝台に縛り付けて貴族令息に襲わせようとしたり、見合いと称して二人だけで部屋に閉じ込めたり、隣国へ視察に行った時などは、うっかりを装ってそのまま置き去りにしようとしたりと、酷い目にばかり遭わせているから。

 どう考えても、妹を妹と思っていないその所業から、依頼主は王太子殿下だとしか思えない。

「私が王女殿下の代わりに攫われた時、その場所にエルンスト様がいらっしゃったので、シーヴァイス様とお知り合いなのでは? と思ったのですが……本当にお知り合いではないのですか?」

 エルンスト様と知り合いでないのなら、王女殿下が彼に連れて行かれた事を、どうやって知ったと言うのだろう?

 ジュジュから聞いた可能性もなくはないけれど、彼女は私が馬車に乗るまで一緒だったし、いくらなんでも馬車より早く邸に着くのは不可能だろうから、そう考えるとエルンスト様以外に王女殿下のことを王太子殿下に伝えることのできる人が思い浮かばない。

 素直に認めてくれれば楽なのに……と思っていると、王太子殿下はどかっと音をたててソファへと腰をおろした。

「ハッ、訳が分からんな。そのような男と時期国王となるこの私に、関係などある筈がないだろう。一体なんの根拠があって、そのような馬鹿げたことを言い出したのだ?」

 やっぱり素直に認める気はないようね。でも、王太子殿下はさっき口を滑らせた。私はそれを聞き逃すつもりはないわ。

「でしたら聞かせていただきますが、先程シーヴァイス様は、王女殿下を片付けたと私に仰いました。人を片付けるだなんて穏やかでない物言いですが、貴方は王女殿下に何をして、片付けたなどと仰られたのですか?」

 そう聞いた刹那、王太子殿下の顔が、ほんの僅か引き攣った。

 しかしそこは、さすが王族というべきか。すぐさま笑みで動揺を隠すと、長い足を組み、殿下は私を射抜くように真っ直ぐに見つめてきた。

「ただ単に、私はアルテミシアが君に迷惑を掛けていたから、お仕置きをしただけだ。片付けたなどと言い方が悪かったことは認めるが、そこまでしつこく食い付くものでもないだろう」
「ですから、私はそのお仕置きの内容を窺いたいのですが?」

 ここで誤魔化されては駄目だと覚悟を持って、私も殿下を見つめ返す。

 まさか私が見返すとは思わなかったのだろう。王太子殿下は一瞬驚いたかのように目を見開いて、けれどすぐに何事もなかったかのように微笑んだ。

 そして、あまりの緊張に身体を震わせる私に向かい、こう告げた。

「その質問に、私が答える義理はない」

 と──。

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