【完結】愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた

迦陵 れん

文字の大きさ
50 / 90

50 解けた誤解

しおりを挟む
 はあぁぁぁ、と大きすぎるため息が、ミーティアの口から発せられる。

 そんな彼女の隣では、「マジかよ……」と呟きながら、頭を抱えるフェルの姿。

「どうしたの? 二人とも。今の話で……何か落ち込むようなところでもあった?」

 単に私は二人に聞かれた通り、レスターとの婚約破棄の件について、今すすんでいる段階までの話を正直にしただけなのだけれど。あまりにも二人の反応が予想とは違っていたため、若干戸惑ってしまっていた。

「おかしなところがあったっていうか……ねぇ?」

 と言うミーティアに、

「俺、コーラル侯爵令息のこと、ちょっと誤解してたかもしれねぇわ……」

 と言い出すフェル。

「いつもうちの親父が、『仲裁に入る時はちゃんと両方の話を聞くようにしろ。決して片方の話だけを聞いて決断を下すな』って言うんだけどさ、まさにその通りだなって実感したっつーか……」
「なにそれ⁉︎ それってつまり、私の方が悪いっていうこと⁉︎」

 驚いて聞き返せば、「そういう意味じゃない」と言った後、フェルは私に言葉の意味を説明してくれた。

「ユリアに話を聞いてからさ、俺なりにコーラル侯爵令息のこと調べたんだけど……まぁ、なんていうか、表面上だけ聞いたら、間違いなくアイツは最低の部類に入る男で。だから俺もさり気に攻撃したっていうか、嫌味を言ったりもしてたんだけどさ……」
「何それ知らない! 攻撃ってなに⁉︎ 嫌味ってなに⁉︎ あんた何勝手なことしてんのよ!」

 怒ったミーティアがフェルの胸ぐらを掴んでガクガク揺さぶるも、フェル自身悪いことをしたという自覚があるのか、特に抵抗することはない。それどころか、両手を上げて『降参』の意を示している。

「まぁ俺はユリアじゃないし、アイツの言動と行動のせいで、どんだけ辛い思いをしたかなんて分かってやることはできねぇけど、今回のユリアの話を聞く限り、アイツはアイツなりにユリアを守ろうとしてたってことだろ? やり方は滅茶苦茶間違ってるし、たとえ虐めには遭わなくても、ユリアが変な渾名を付けられちまってる時点で、どっちが良かったか……なんて、それこそ分かんねぇけどさ」
「距離を置く前に、それをちゃんと言うべきだったのよね……」

 フェルの胸ぐらから手を離し、ミーティアも彼の言葉に同意するように頷く。

「だから私は、今後もそんな風だったら夫婦としてはやっていけないと思って、私になんの相談もなく、一人でなんでも決めてしまうレスターには付いていけないと思ったから、婚約破棄しようと思ったの。それに、婚約破棄の話し合いの時だって、理由も言わずにすっぽかされたし……」

 そういえば、あの時どうして話し合いをすっぽかされたのか、私はまだレスターに聞いていない。

 聞くのを忘れていたのもあるけれど、今更になって改めて聞くのも躊躇われて。

「あの時はただ、レスターも私との婚約を破棄したいから、わざと話し合いをすっぽかしたんじゃないかって思ったんだけど、実際はどうだったのかな……」

 わざわざすっぽかさなくても、ちゃんと話し合いに参加して、婚約を破棄したいと言えばそれで良かったはず。なのにどうして彼は理由も言わずにすっぽかしたのか、それがどうしても分からなくて。

 呟くように言えば、それにはフェルがいつもの軽い調子で答えた。

「それな、どうやらそっちも王太子殿下ののせいだったらしいぜ?」
「殿下のやらかし?」

 意味が分からず問い返せば、

「そう。ユリア達の話し合いの日付けと時間を知ってた殿下が、先に手を回してコーラル侯爵令息を招集し、故意に夜まで帰らせなかった……ってぇのが真相だってさ」

 と、アッサリ教えてくれた。

「どうしてフェルがそんなこと知ってるの? その情報って本当に正しいの? もしかしてあの男を庇おうとしてるんじゃないでしょうね?」

 疑いのまなこをフェルに向け、矢継ぎ早に質問を浴びせかけるミーティア。

 私もどうして彼がそんなことを知っているのか疑問に思ったけれど、それについては最初から隠す気はなかったようで、「同じように召集されたパルマークに聞いたから間違いない」と得意気な顔をされた。

「パルマークの言葉によると、あの日コーラル侯爵令息は落ち込んじまって訓練どころじゃなかったそうだぜ。だけど本人や周りが殿下に何を言っても帰らせてもらえず、結果、解放されたのは陽が沈んで大分経ってからだったらしい。本当にあのクソ野郎、悪質極まりないよな」

 クソ野郎というのは、もしかして王太子殿下のことだろうか?

 聞くのが怖いから敢えて聞かないけれど、絶対にそうなんだろうなと思う。

 どこに王家の影が潜んでいるか分からないのに、フェルはあまりにも無敵すぎやしないだろうか。それとも、オリエル公爵家の令息だから、大丈夫だったりするんだろうか?

「まぁとにかく、そういうわけだからさ、もうちょっと婚約破棄の件……考えてやっても良いんじゃないか? と俺は思う……」
「えーーっ! どうしたの、フェル? 何か変なものでも食べた? ついさっきユリアにプロポーズしたばっかりなのに!」

 茶化すミーティアにフェルは、

「だからあれは言ってみただけだって! プロポーズなんて大層なもんじゃない! 消えかけた黒歴史を掘り返すな!」

 なんて言って怒鳴っている。

 それから、何かを思い出したかのように私の方を見ると、

「あ、そうそう。これもパルマークから聞いたんだけど、休日や夜に時間がなくてコーラル侯爵令息がユリアに手紙すら書くことができなかったのも、全部クソ野郎の企みだってさ。俺は最初、そんなのただの言い訳だって思っちまったんだけど……上司にあんだけ集中攻撃されてたら、精神的にもヤバかっただろうし、仕方なかったんかなって。ほんとマジ悪いことしちまったわ……」

 フェルがレスターに何をしたのかは知らないけれど、それを聞いて初めて私は、今まで何度レスターに手紙を出しても「忙しい」としか返事を貰えなかった理由を知った。

「結局私も、自分のことしか考えていなかったってことなのね……」 

 自分ばかりが辛い目に遭っていると考えて、レスターの気持ちを知ろうともしていなかったことに、今更ながら気付かされた。

 彼に何かを言われたわけでもないのに、彼の気持ちを勝手に決めつけ、身を引こうとしていた。もっと周りをよく見れば、若しくはレスターと話せなくとも、コーラル侯爵にでも相談していれば、こうなる前に彼の本意に気付けたかもしれないのに。

「……ねぇユリア、誤解が解けたから、婚約破棄はやっぱりやめる?」

 ミーティアに尋ねられ、私は暫く考えた後──諦めたように微笑った。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました

Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。 どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も… これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない… そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが… 5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。 よろしくお願いしますm(__)m

今さら救いの手とかいらないのですが……

カレイ
恋愛
 侯爵令嬢オデットは学園の嫌われ者である。  それもこれも、子爵令嬢シェリーシアに罪をなすりつけられ、公衆の面前で婚約破棄を突きつけられたせい。  オデットは信じてくれる友人のお陰で、揶揄されながらもそれなりに楽しい生活を送っていたが…… 「そろそろ許してあげても良いですっ」 「あ、結構です」  伸ばされた手をオデットは払い除ける。  許さなくて良いので金輪際関わってこないで下さいと付け加えて。  ※全19話の短編です。

【完結】貴方をお慕いしておりました。婚約を解消してください。

暮田呉子
恋愛
公爵家の次男であるエルドは、伯爵家の次女リアーナと婚約していた。 リアーナは何かとエルドを苛立たせ、ある日「二度と顔を見せるな」と言ってしまった。 その翌日、二人の婚約は解消されることになった。 急な展開に困惑したエルドはリアーナに会おうとするが……。

婚約者の私を見捨てたあなた、もう二度と関わらないので安心して下さい

神崎 ルナ
恋愛
第三王女ロクサーヌには婚約者がいた。騎士団でも有望株のナイシス・ガラット侯爵令息。その美貌もあって人気がある彼との婚約が決められたのは幼いとき。彼には他に優先する幼なじみがいたが、政略結婚だからある程度は仕方ない、と思っていた。だが、王宮が魔導師に襲われ、魔術により天井の一部がロクサーヌへ落ちてきたとき、彼が真っ先に助けに行ったのは幼馴染だという女性だった。その後もロクサーヌのことは見えていないのか、完全にスルーして彼女を抱きかかえて去って行くナイシス。  嘘でしょう。  その後ロクサーヌは一月、目が覚めなかった。  そして目覚めたとき、おとなしやかと言われていたロクサーヌの姿はどこにもなかった。 「ガラット侯爵令息とは婚約破棄? 当然でしょう。それとね私、力が欲しいの」  もう誰かが護ってくれるなんて思わない。  ロクサーヌは力をつけてひとりで生きていこうと誓った。  だがそこへクスコ辺境伯がロクサーヌへ求婚する。 「ぜひ辺境へ来て欲しい」  ※時代考証がゆるゆるですm(__)m ご注意くださいm(__)m  総合・恋愛ランキング1位(2025.8.4)hotランキング1位(2025.8.5)になりましたΣ(・ω・ノ)ノ  ありがとうございます<(_ _)>

余命3ヶ月と言われたので静かに余生を送ろうと思ったのですが…大好きな殿下に溺愛されました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、ずっと孤独の中生きてきた。自分に興味のない父や婚約者で王太子のロイド。 特に王宮での居場所はなく、教育係には嫌味を言われ、王宮使用人たちからは、心無い噂を流される始末。さらに婚約者のロイドの傍には、美しくて人当たりの良い侯爵令嬢のミーアがいた。 ロイドを愛していたセイラは、辛くて苦しくて、胸が張り裂けそうになるのを必死に耐えていたのだ。 毎日息苦しい生活を強いられているせいか、最近ずっと調子が悪い。でもそれはきっと、気のせいだろう、そう思っていたセイラだが、ある日吐血してしまう。 診察の結果、母と同じ不治の病に掛かっており、余命3ヶ月と宣言されてしまったのだ。 もう残りわずかしか生きられないのなら、愛するロイドを解放してあげよう。そして自分は、屋敷でひっそりと最期を迎えよう。そう考えていたセイラ。 一方セイラが余命宣告を受けた事を知ったロイドは… ※両想いなのにすれ違っていた2人が、幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いいたします。 他サイトでも同時投稿中です。

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ

曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。 婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。 美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。 そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……? ――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

幼馴染の王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。 何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。 同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。 もうやめる。 カイン様との婚約は解消する。 でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。 愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません! 一度完結したのですが、続編を書くことにしました。読んでいただけると嬉しいです。 いつもありがとうございます。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。

婚約破棄ありがとう!と笑ったら、元婚約者が泣きながら復縁を迫ってきました

ほーみ
恋愛
「――婚約を破棄する!」  大広間に響いたその宣告は、きっと誰もが予想していたことだったのだろう。  けれど、当事者である私――エリス・ローレンツの胸の内には、不思議なほどの安堵しかなかった。  王太子殿下であるレオンハルト様に、婚約を破棄される。  婚約者として彼に尽くした八年間の努力は、彼のたった一言で終わった。  だが、私の唇からこぼれたのは悲鳴でも涙でもなく――。

処理中です...