【完結】愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた

迦陵 れん

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49 言い訳

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 色々と自分なりに考えた結果、私は婚約破棄の件について、まずお父様に相談することにした。

 コーラル侯爵と同じく、私達の婚約破棄に否定的だったお父様だけれど、目先の利益を最優先するあの人なら、障害者となってしまったレスターを躊躇いなく切り捨てるだろう。自分の親がそんな人種であるのはなんとも微妙な気持ちだけれど、今更お父様の考え方や人格を変えるのは不可能だし、仕方がないと思っている。

 でも、だからこそ、お父様からレスターとの婚約破棄について了承をもらうのは、今をおいて他にない。

 そう思った私は、決意してすぐにお父様の執務室へと向かった。

「お父様、今少しよろしいでしょうか?」

 執務室の扉をノックし、お伺いをたてる。

 するとお父様は、ちょうど部屋から出るところだったようで、すぐに扉が開き、私は付いてくるように促された。

 誰かお客様でも来ているのだろうか? 私は何も聞いていないけれど。

 お父様の後をついて行き、応接室へ入る。お客様は既に応接室へと通されていたようで、私が入室した途端「ユリアちゃん!」と声を掛けられた。

「コーラル侯爵……?」

 なんとそこにいたのは、レスターのお父様であるコーラル侯爵で。

 何故侯爵が我が家に? と私が首を傾げる間もなく、彼はいきなり床に這いつくばると、私達親子に頭を下げてきた。

「サイダース侯爵、それにユリアちゃん! どうかお願いだ、このままうちのレスターとの婚約を継続してもらえないだろうか? 今のレスターの心の支えは、ユリアちゃんだけなんだ。これでユリアちゃんに婚約破棄などされようものなら、息子は命を絶ってしまうかもしれない。だからどうか、どうかお願いだ。息子の命を助けると思って、この前の婚約破棄の話はなかったことにして欲しい!」
「そ、それは一体……どういうことなのですかな?」

 レスターの怪我の状況を知らず、話についていけないお父様は、一人オロオロと私と侯爵とを交互に見やる。

 しまった──。

 私がレスターの話をお父様にする前に、コーラル侯爵に先手を打たれてしまった。同じ侯爵家として格上のコーラル侯爵に頭を下げられたら、我が家としては無碍に扱うことなどできなくなってしまう。

「お父様、実は──」

 レスターの現状を説明しようと、私は急いで口を開いたものの──。

「サイダース侯爵! どうか私の願いを聞き届けてはもらえませぬか⁉︎ ユリアちゃんも、どうか、どうか……息子を見捨てないでやっていただきたい!」

 余計なことは言わせまいとするように、コーラル侯爵が私の声を遮ってきた。

 侯爵も、伊達にお父様と付き合いが長いわけではないらしい。レスターの足のことを知られれば、迷うことなく婚約破棄されてしまうと分かっているんだろう。だからこそ、そうさせないために、急いで我が邸へとやって来たのだ。

「そもそも私は二人の婚約破棄については反対しておりますので、なんら依存はないが──」 
「お父様⁉︎」

 そんな中、事情を一切知らないお父様は、そんな無責任な科白を吐いてしまう。その言葉を、後からどんなに後悔することになるのか、知りもしないで。

「本当か⁉︎」

 喜色満面の顔でコーラル侯爵が立ち上がり、「本当だな? 今の言葉に間違いはないな⁉︎」と言ってお父様に確認をとっている。

 けれど私は、それを黙って受け入れるわけにはいかなかった。

「お二人とも! 今まで私がどれだけレスターに冷遇されてきたか……先日の話し合いで理解してくださったのではないのですか⁉︎」

 声を張り上げ、あの時のことを思い出せとばかりに、私は侯爵二人を睨み付ける。

 レスター自身も、そしてコーラル侯爵も気の毒だとは思うけれど、それはそれ、これはこれだ。

 今レスターがどうなっていようとも、怪我のせいで彼が今後どうなっていこうとも、私がこれまで彼にされてきた仕打ちがなくなるわけではないし、過去はなかったことにはできない。

 王太子殿下が私を好きだったから──という理由については、少しばかり申し訳なさを感じるけれど。でもそれだって、私が殿下を誘惑したわけではないし、ある意味サッサと婚約破棄をしていたら、あんなことにならなかったのでは? とも思えてしまう。

「私はもう……レスターとやっていく自信がありません」

 ハッキリとそう伝えると、狼狽えるお父様とは対照的に、コーラル侯爵は項垂れるようにその場へと膝をついた。

「コ、コーラル侯爵!」

 慌てて立ち上がらせようとするお父様の手を振り払い、侯爵は力無く首を振る。

 そして彼は下から見上げるようにして私をじっと見つめると、

「レスターがユリアちゃんを冷遇していたのには訳があるんだ。それは……あいつのせいだけではない。私のせいも多分にあって……どうかその話だけでも聞いてはもらえないだろうか?」

 真摯な瞳で、そう言った。
 
 

 



 
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