聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴

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聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした⑤

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 それが甘かったと、そう分かったのは間も無くの事でした。ロイド殿下の行動は日に日に過剰になっていったのです。
 半日しか学園に居ないわたくしでも頻繁に二人で——正確には殿下の側近である令息が常に付き従っているので、二人きりというわけではありませんでしたが。ともかく殿下と聖女様が一緒にいる姿をよく目にするようになったのです。
 それこそ、常にと言えるほどには。聖女様は殿下の提案で、殿下と同じクラスに配されましたから。わたくしは別クラスですのでずっと見ているわけではありませんでしたが、座学はともかくとして実習などでは本当にずっと隣に居るのではないかしら。
 それがどう周囲に見られるのか。殿下は理解しているのでしょうか。
 理解した上で行っているとしたら、どういうおつもりなのかしら。学友と共に遠くで二人の姿を見るわたくしは、こっそりと溜め息を吐いたのです。

「兄上はどういうつもりなんだ」

 そこへ第二王子のルイス殿下がやって来ました。ルイス殿下はロイド殿下の二つ年下ですが、その差を感じさせない聡明さと落ち着きをお持ちです。

「レイアは何か知っている?」
「いいえ。特には窺っておりません」

 幼い頃からロイド殿下の婚約者として王宮に出入りしていたわたくしは、ルイス殿下とも親しい間柄でした。それでたまにこうしてルイス殿下はわたくしに話しかけて下さいます。砕けた口調でいるのはあえてそうしているそうです。ルイス殿下は上背がありますので、誤解が多いのでしょうね。
 わたくしの様子に、ルイス殿下は顔を顰めました。

「そうやってまた聞き分けのいいふりをしてるわけだ」
「ふりだなんて」
「違わないだろう。兄上のあれはどう見てもおかしいぞ」
「……ロイド様にはロイド様のお考えがあるのですわ」
「どうだか。あれはどう見ても聖女に夢中になっているだけだろう」
「そういう風にも見えますわね」
「それ以外に何がある? しかも最近ではレイア、君を顧みないというじゃないか」
「…………」
「君はそれでいいのか」
「わたくしは……殿下の考えに従うまでですわ」

 それは、嘘偽りのないわたくしの本心でした。
 実際のところは、殿下がわたくしの言葉で考えを変える事などございませんから、従わざるを得ない、というだけの事でしたけれども。

「レイア。俺は君の味方だ」
「ありがとうございます。そのお言葉だけで十分ですわ」

 ルイス殿下は変わらず険しい表情でそう言いました。
 感謝を述べたわたくしを一瞥すると、ルイス殿下はそれ以上何も言わずに行ってしまいます。
 学友の皆様が距離を取って下さる中、わたくしはその背中を視線で追います。ルイス殿下にあそこまで言わせてしまうとは。
 それが悲しく悔しかったのです。

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