聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴

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聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした④


 聖女様は身の回りが落ち着いてから、学園へ通う事が決まりました。同じ年頃の少年少女と過ごすのが良いのではという殿下の提案に、聖女様も同意された為です。
 ただ、異世界からやって来た聖女様は、こちらの常識が分かりません。礼儀作法もおかしな所が多々ございました。ですので、お城で教師を付け、最低限学んでからというお話になりました。
 わたくしも聖女様のお世話の一環でその様子を見ておりました。聖女様は真摯に取り組んでおられました。なぜかロイド殿下が様子を見にいらっしゃる事もありましたけれど。
 殿下は聖女様の姿をつぶさに観察すると、何も言わずに退室します。それがかえって聖女様の警戒心を煽っているのですけれど……殿下の真意が分かりませんから、咎めることもできません。
 そうして一ヶ月。学園へやって来た聖女様は、そうとは思えないほど立派な振る舞いでございました。
 妃教育の進んでいるわたくしと同等、いえ、それ以上ではないかと思えるような、指先まで注意の行き届いた仕草。驚きましたわ。たったの一月で、これほどまでに身に付けられるとは。
 正直聖女様を侮っておりました。そうしてわたくしはそんな自分を恥じたのです。学園内でも聖女様のお世話を任されておりましたが、身の引き締まる思いでした。懸命に慣れない世界で励む聖女様の姿に感銘を受けたのです。
 不安に思っておりましたが、これであれば貴族子女の通う学園でも問題ないでしょう。そう思っておりましたが、別の問題が起きてしまいました。

「ミユキ、何か困っていることはないか?」
「ロイド殿下、ありがとうございます。でも大丈夫です。レイア様も居ますし、先生方も目をかけて下さいますから」
「無理をしなくともいい。困った事があればすぐに報告を。私がすぐに対処するから」
「あはは。光栄です」

 この様にロイド殿下が事あるごとに聖女様に付き纏うのです。
 聖女様はあしらっておいでですが、殿下は気付いておられない様子。それが別の問題を引き起こすのは時間の問題でした。

「レイア様! また聖女様がロイド殿下と昼食をご一緒したそうですわ!」
「これで三日連続です! 聖女様ったら、ロイド殿下にはレイア様という婚約者が居ることをご存知ないのかしら?」
「そんなはずはないわ。王宮での教育中、そのあたりの説明は受けているはずだから」
「であれば、知っていながら……という事ですか!? なんて恥知らずな……!」
「ええと……」

 困って言葉を濁すわたくしに詰め寄るのは学友の皆様。その皆様はいくら聖女様相手とは言え、ロイド殿下が彼女に付きっきりとなっている状況が許せないようなのです。
 それはわたくしという婚約者がいるから、ということの他に、聖女様が元々は位のない少女だから……というのも大きいでしょう。
 学園に通っているのは貴族の子供。生まれながらにして位のある者ばかりです。そこへ現れた尊い少女が、ただ女神様より齎されたというだけで礼儀もなにもなっていなければ、その立場に納得できるはずもないのです。彼ら彼女らは貴族という立場を維持するのには、行動が伴うことを教育されているのですから。
 ただ、その不満をわたくしに向けるというのは理解できかねます。

「ロイド殿下は陛下より聖女様のお世話を仰せつかっているのです。昼食を共にするのもその一環ですわ」

 と、いう事にしておきましょう。後で殿下と共有しておいた方がいいわねと、わたくしがこっそり息を吐いた時です。学友の一人が一歩前に出て、わたくしを、言ってみれば睨み付けたのです。
 わたくしはロイド殿下の婚約者という以前に、公爵家の娘です。これまでわたくしをその様に睨む方はいらっしゃいませんでした。どうしたのかしらと首を傾げるわたくしを、その方は変わらず険しい表情で見詰めておりました。

「レイア様はそれで宜しいのですか」
「……それで、とは?」
「聖女様がロイド様の隣におられる。それをお許しになるというのですか」
「…………」

 彼女の言い方は微妙です。それは、ただ殿下と聖女様が一緒に居るだけのようにも聞こえますけれど。ですが彼女が言いたいのはこういう事でしょう、「殿下の隣を彼女に譲る気か」と。
 ……もちろん、わたくしにそんなつもりはございませんわ。ですが仕方がないのです。わたくしは第一王子の婚約者。将来の王太子妃の候補ですのよ。そのわたくしには覚えるべき事が山積みとなっているのです。こうして学園に顔を出せるのもお昼まで、週の半分はそれもままならないという状態でした。そのわたくしが聖女様のお世話をできるはずもなく、必然と殿下が自らその役割を買って出るはめになったのです。
 もしかしたらそれが殿下の狙いだったのかしら。殿下は学業とは別に公務があるはずでしたが、聖女様の身の安全とお世話の方が大事だと言って、学園に入り浸りとなっているのです。一部の臣下からは苦言を呈されましたが、聖女様にもしもの事があったらどうする、と言われれば口を閉ざすしかございませんでした。
 かくいうわたくしも、同じ様に怒鳴りつけられたのですよ。聖女様だけが国の全てではない、と。ですが、殿下は聞き届けて下さいませんでした。女神様より聖女が遣わされたのは歴史上でも稀で、もはや伝説となっていましたから。女神様より齎された奇跡を蔑ろにするつもりかと、そう言われたのです。

「……殿下には殿下のお考えがあるのです。それをあなた方がとやかく言う資格はございませんわ」
「それは……! そうかも知れませんが」
「で、では、レイア様のお気持ちはどうなるのですか? 聖女様と言えど、あまりに殿下と長く居すぎでは」
「わたくしは……」

 わたくしの気持ち? そんな事を尋ねてどうなるというの?
 そう思いましたが、真剣な表情の彼女達を見てようやく意図を察しました。彼女達はただ案じて下さっているのだわ。わたくしが傷付いていないかと。
 良い学友に恵まれた。わたくしは純粋に、彼女達の思いやりをありがたく感じました。

「わたくしは、気にしておりませんわ。ロイド殿下の婚約者はわたくしなのですから」

 そう言って微笑んでみせると、彼女達は困惑を表情に浮かべ、顔を見合わせてしまいました。
 呆れられたかも知れませんが、これで分かって下さるでしょう。わたくしはそれ以上何も言いませんでした。
 彼女達も、そして殿下もきっと理解してくれる。その時はそう思ったのです。

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