6 / 10
聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした⑥
しおりを挟むさすがのわたくしも、このまま放置するつもりはございません。月に二度の殿下とのお茶会の際に、「大事なお話がある」と切り出す事にいたしました。
「話とは?」
意外にも殿下はお茶会を中断したりせず、わたくしの話に耳を貸して下さいました。まったく聞く耳を持たない可能性もあると考えていたわたくしは、拍子抜けした気分だったのですけれど。とにかく聞いて下さるのなら、とそのまま話を続けます。
「殿下のお考えを窺っておきたいのです」
「考え?」
「ええ。聖女様と常に行動を共にする、その理由ですわ。わたくしは初め、彼女がこちらの生活に慣れるまでの補助なのだと思っておりました。けれどもそれももう不要なのではないかと思うのです。こちらへいらして三ヶ月、すでに聖女様は、ここでの生活に馴染んでおります。殿下と居ることでそれ以外の方との接触が減ってしまいますし、少し聖女様と距離を置かれては」
「ふん。浅ましいな」
「殿下……?」
浅ましい? 浅ましいとはなんのこと?
ロイド殿下が何を言っているのかわからず瞬くわたくしを、彼はにやにやと見ております。
「嫉妬とは見苦しいぞ。所詮お前も女だったというわけか」
「殿下、一体何を?」
この時ばかりは、本当に殿下の言っている言葉の意味がわかりませんでした。底意地の悪い笑みを浮かべたまま、彼は得心がいったとばかりに頷いています。
「とぼけるな。俺がミユキばかり構っているのが気に入らないのだろう? それでわざわざ忠告をするとはな。いつも澄ましてはいるが、可愛いところもあるじゃないか」
「はあ……?」
「ミユキは愛らしいからお前が気を揉むのも分かるがな」
「…………」
「これでは、お前の気持ちを無碍にもできんな」
……殿下は一体何を仰っているのでしょう?
嫉妬? わたくしが聖女様に?
そんなわけはありません。わたくしはただ、婚約者のいる身でありながら特定の女性と親しく振る舞う殿下を窘めたいだけ。殿下がそれでは聖女様もお困りでしょう。現に彼女は友人がほとんど居ないようなのです。殿下に言い寄られ良い気になっていると、そう噂が立っているせいです。
学園で親しい友人もおらず、断っているというのにロイド殿下は常に付き纏う。学業に影響は出ていないようですが、それも時間の問題のように思われます。
たった一人で見知らぬ世界に放り込まれ、そこで同性から煙たがられては気持ちも落ち着かないというもの。それを殿下は理解しているのでしょうか。
それを殿下にお分かり頂きたいと、そう訴えるつもりでしたのに。殿下は妙に納得した顔で頷くと席を立ってしまわれます。
「お前の気持ちは分かった。悪いようにはしない」
「あの、殿下」
「なんだ?」
「聖女様に自由を。わたくしはそう申したつもりですが、ご理解頂けましたでしょうか?」
「ああ、もちろん」
にんまりと笑う殿下はそのまま退室されました。
……殿下には、なにも伝わっていない。わたくしは確信しながらもなにも言えず、ぱたんと閉まる扉を見届けたのです。
85
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢ですが、副業で聖女始めました
碧井 汐桜香
ファンタジー
前世の小説の世界だと気がついたミリアージュは、小説通りに悪役令嬢として恋のスパイスに生きることに決めた。だって、ヒロインと王子が結ばれれば国は豊かになるし、騎士団長の息子と結ばれても防衛力が向上する。あくまで恋のスパイス役程度で、断罪も特にない。ならば、悪役令嬢として生きずに何として生きる?
そんな中、ヒロインに発現するはずの聖魔法がなかなか発現せず、自分に聖魔法があることに気が付く。魔物から学園を守るため、平民ミリアとして副業で聖女を始めることに。……決して前世からの推し神官ダビエル様に会うためではない。決して。
解き放たれた黒い小鳥
kei
ファンタジー
「お前と結婚したのは公爵家の後ろ盾を得るためだ! お前を愛することはない。私から寵愛を得るとは思うなよ。だが情けは掛けてやろう。私の子を成すのもお前の正妃としての務めだ。それぐらいは許してやらんでもない。子が出来れば公爵も文句は言うまい」
政略で婚姻した夫から裏切られ絶望の中で想う。
地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ
タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。
灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。
だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。
ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。
婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。
嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。
その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。
翌朝、追放の命が下る。
砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。
――“真実を映す者、偽りを滅ぼす”
彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。
地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。
この国を護ってきた私が、なぜ婚約破棄されなければいけないの?
柊
ファンタジー
ルミドール聖王国第一王子アルベリク・ダランディールに、「聖女としてふさわしくない」と言われ、同時に婚約破棄されてしまった聖女ヴィアナ。失意のどん底に落ち込むヴィアナだったが、第二王子マリクに「この国を出よう」と誘われ、そのまま求婚される。それを受け入れたヴィアナは聖女聖人が確認されたことのないテレンツィアへと向かうが……。
※複数のサイトに投稿しています。
悪役令嬢と呼ばれて追放されましたが、先祖返りの精霊種だったので、神殿で崇められる立場になりました。母国は加護を失いましたが仕方ないですね。
蒼衣翼
恋愛
古くから続く名家の娘、アレリは、古い盟約に従って、王太子の妻となるさだめだった。
しかし、古臭い伝統に反発した王太子によって、ありもしない罪をでっち上げられた挙げ句、国外追放となってしまう。
自分の意思とは関係ないところで、運命を翻弄されたアレリは、憧れだった精霊信仰がさかんな国を目指すことに。
そこで、自然のエネルギーそのものである精霊と語り合うことの出来るアレリは、神殿で聖女と崇められ、優しい青年と巡り合った。
一方、古い盟約を破った故国は、精霊の加護を失い、衰退していくのだった。
※カクヨムさまにも掲載しています。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる