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聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした⑨
しおりを挟む「レイア・カスケード。お前との婚約を破棄する!」
よりにもよって豊穣の祈りを捧げる祭事の中で、ロイド殿下が叫びました。内容にもそうですが、唐突の宣言によりその場の誰もが硬直してしまっています。
豊穣の祭事は王が女神に祈りを捧げる場。現在は聖女がおられるので、祭壇の前には聖女たるミユキ様がいます。国王陛下と王妃陛下はその後ろで進行を見守っておいででした。ロイド殿下は第二王子のルイス殿下と共に控えていました。ロイド殿下はミユキ様が祝詞を唱え終えた直後、その隣に向かわれたのです。
聞いていた予定と違う。驚き目を見張るわたくしの前で、殿下は先ほどの宣言を行いました。臣下も見守る祭事でするには、あまりに場違いな宣言です。
「ロイドよ、どういう事だ?」
故に国王陛下がそう仰るのも無理はないでしょう。一同の怪訝な目がロイド殿下に向きます。
「言葉の通りです。私はレイアとの婚約を破棄し、聖女ミユキと新たに契約を結ぶ」
「なぜそうなる? レイア嬢に不足があるのであればそれもひとつだが、そんな話は聞いたことがない。いや、それよりも今この場で言うべき事柄ではないな。場を改めよ」
陛下の言葉は真っ当なものです。お陰で混乱していたわたくしの頭も落ち着きを取り戻しました。ええ、わたくしが王子妃に相応しくないのであれば、それが立証されれば、婚約解消も受け入れましょう。ですがそれは祭事の最中で行うものでもございません。
国王陛下が冷静に仰ったことで、皆も落ち着かれました。次第に騒めきが収まっていきます。ロイド殿下の言葉は無視して祭事を再開するようです。
神官様がミユキ様を促したその時でした。殿下は強引にミユキ様の手を引き、自身の腕の中に彼女を収めたのです。
「きゃっ!」
「殿下、何を!」
慌てて殿下を静止しようとする神官様でしたが、殿下は「退がれ無礼者!」と叫びます。
「ミユキに触れるな!」
「何を仰います殿下。今は祭事の途中ですよ」
「祭事であろうとなんだろうとミユキに触れるのは許さん! それに豊穣を願うと言っても、すでに女神の化身との呼べる聖女がここに居るではないか。ミユキが祈れば祝福が国土を覆う。所詮この祭事はその真似事。ほとんど不要と言える」
「そんな……」
神官様は唖然としてしまっています。……そのお気持ちは分かりますわ。殿下の言葉は極端ですもの。いくら聖女の祈りがあるとは言え、祭事を行い女神様へ祈りを捧げるのは不要ではありません。民の祈りも女神様への供物。それが無ければ女神様が奇跡を施すなどあり得ません。
殿下はミユキ様を妄信するあまりそれを忘れてしまわれたのでしょうか。殿下の、暴言とも呼べる言葉に青褪めるわたくしには、殿下をお諌めするなどとても出来ませんでした。
そこへ、重苦しい溜め息が響きます。国王陛下のものでした。陛下はじろりとロイド殿下を睨み付けております。
「神官殿、祭事はここまでだ。聖女殿による祈祷が済んだのであれば女神様も納得されよう。……さてロイドよ、聞こうではないか。如何にしてレイア嬢との婚約破棄などという愚行に到ったのか」
「愚行などではございませんが、ご説明しましょう。レイアは私の妃に相応しくありません。それは聖女であるミユキを虐げたことに由来します」
「虐げた? レイア嬢が、聖女殿を?」
「その通りです」
「その様な報告は受けていないが。王妃は知っているか?」
「いいえ、陛下。わたくしも存じ上げません。レイアは勤勉で王子妃の教育に真剣に取り組んでおりますし、教師達からも素晴らしい出来栄えだと、そういう評価であれば聞いておりますが」
「であろうな。余の聞くものもそれと同じだ。して、ロイド。いつレイア嬢が聖女殿を虐げたのだ」
「主に学園で、ですが。王宮でも人目を避けて暴言を吐いていたのです。ミユキはそれを一人で耐えておりました」
「ほう?」
「レイアがその様なことを平気でしでかすとは思ってもいませんでしたが。王子妃に内定しているという立場から、聖女たるミユキにその様な振る舞いをするのです。そんな不遜な女を私の妃とするわけにはいきません」
そこまで言うと、ロイド殿下はミユキ様へ視線を向けます。身を縮こませたミユキ様は顔色が悪く見えました。彼女の肩が小刻みに震えているように見えましたが気のせいでしょうか。
ミユキ様の胸元には、あのエメラルドの首飾りが輝いています。
「ですからレイアとの婚約を破棄し、新たにミユキと結び直すのです。この通り、ミユキは私の想いを受け入れていますから」
殿下はそっと、その首飾りに触れます。
「ただ、ミユキは妃教育を受けていない。レイアには王子妃付きの侍女としての任を与える。ミユキの清らかな精神を見習い、これまでの事を反省するといい」
「……だそうだ、レイア嬢」
陛下は否とも応とも仰いませんでした。ただロイド殿下の言い分を聞き出すと、わたくしを促します。
震える手を握り締め、わたくしは殿下に向き直りました。
「正気ですか、殿下」
「なんだと! なんという暴言を!!」
これを暴言と言うのなら、証拠も提示せずわたくしを一方的に悪様に言う殿下も同じではないでしょうか。
もう、それを正すのも疲れてしまいました。わたくしは視線を殿下から外し、陛下へ向けます。
「婚約破棄は受け入れます。ですが王子妃付きの侍女、というのは辞退させて頂きたく。殿下の言う不遜な女が、聖女様の周囲にいるのは適切ではないでしょうから」
言い切るわたくしに国王陛下は何も仰いません。ただ凪いだ表情でわたくし達を見ておいでです。王妃陛下も似たようなもので、それはわたくし達の総意でもありました。
そんな中でただ一人、ちっ、と舌を打ったのはロイド殿下です。
「聖女に侍るという名誉を断るか」
吐き捨てるように呟いた殿下。それに答えた声は冷え切っておりました。
「侍るのであれば聖女にではなく、女神にでしょう」
「ミ、ミユキ……?」
それは、これまで殿下の腕の中で静観していたミユキ様のものでした。
ミユキ様は声と同じくらい冷たい視線を殿下へと向けています。
「なにが最も重要なのか。それが分からなくなったあなたはもう不要です」
「な、なにを言っている?」
「今までお伝えしていませんでしたが、女神からの勅旨は、王国の不安要素の排除です」
「は?」
まあ、そういう反応になりますわよね。ロイド殿下はさっぱり分からない、といったように瞬いています。
同時に力も抜けたのでしょう。ミユキ様は殿下の腕から抜け出し距離を取りました。ずっと殿下に握られた手をさすり、「ああ気持ち悪い」と言ったのは聞こえなかった事にします。
「今まで黙っていてすみません、殿下。こればっかりは仕方なかったんです」
「ど、どういう事だ?」
「女神様はずっとこの国を見守っていました。安泰だろうなと、そう思っていたらしいんですけどね。でも最近、ちょっと雲行きが怪しくなってきた。次の王様予定の人、素質がいまいち物足りないんだそうです」
いまいち、と繰り返すロイド殿下。ミユキ様はそれには反応せず祭壇の前まで移動されました。
祭壇には女神様への供物がずらりと並んでいます。これはミユキ様の指示で準備されました。「女神様はお酒が好きなのでたっぷり用意しましょう」という言葉の通り、国中からたくさんの名酒が揃えられております。
「次代の王、それが分岐点なんだそうです。つまりロイド殿下が王となるか、第二王子のルイス殿下が王となるかですね。この国が存続するには、今ここでロイド殿下は失脚しなければならないんです」
「そ、そんな。嘘だ!」
「残念ながら嘘ではないんですよ」
供物を見た女神様は大層喜ばれたようで、ミユキ様により詳細な神託を下されました。つまり、ロイド殿下の廃嫡です。
「このままでも、ロイド殿下は問題なく王になれます。でもそれは、レイア様が殿下を支えていたから。王位を継いだものの殿下は勉強不足からまともに執務をこなせない。それを支えるべく無理を続けたレイア様は数年後に亡くなり、補助を失った殿下は失策続き。臣下と民の求心力を喪います。それを憂いたルイス殿下がロイド殿下を廃し王位に付きますが、時すでに遅し。国は立ち行かなくなり国力は低下。その後百年もすれば消滅してしまうんです」
「そんな話を信じられるとでも思うか!?」
「ロイド殿下は信じないでしょうから黙っているようにと、そうレイア様が仰ったんです」
ね、と同意を求め、ミユキ様がわたくしを振り返ります。わたくしはそれに頷いて応えました。
「レイア様、ご協力ありがとうございました」
「女神様のご意志とあらば、この程度どうということはございません」
「さすがレイア様です!」
ミユキ様はすっかり顔色を良くされておりました。上げる声もいつもの通り、明るい弾んだものでした。
ええ。実は、わたくしはミユキ様と非常に親密にしておりましたの。
学園での授業を早い段階で完了されたミユキ様は、女神様の奇蹟の技で自分の分体を造り出し、ロイド殿下の目を掻い潜り学園を抜け出しました。そうしてわたくしに真実を打ち明けて下さったのです。
ロイド殿下が心を入れ替え真っ当に公務を行えば、そんな未来も書き換わる、はずでした。ですが殿下はミユキ様の側を離れず、ただ愛を囁くだけ。ミユキ様が窘めてもその態度は変わらなかったそうです。……そんな方ではなかったと、そう思うのですけれど。ミユキ様は、あれがあの方の本性で、これまではうまく隠していただけだと、そう言うのです。だからわたくしが悪いわけではないと、彼女はそう言って下さいました。そうなら……もし本当にそうなら、わたくしのこの胸の痛みは何なのでしょう。
殿下に裏切られたせい? 信じていたものが覆ったせい? それとも、殿下がミユキ様しか見なくなったせい?
分かりませんが、刺すような痛みは引いてくれません。わたくしは、それ以上殿下とミユキ様の姿を見ていることができなくなってしまいました。
胸を押さえ俯くわたくしの耳に、ミユキ様の静かな声が入ってきます。
「残念ですが、ロイド様は自身の立場を顧みることはありませんでした。このままでは女神様の危惧した通りになってしまう。女神様はあなたを排除するよう私に言いました。もう覆らないでしょう」
「ふざけるな!」
「ミユキ殿はふざけてなんかいないよ、兄上」
そんなわたくしの肩に温かい手が乗せられました。ルイス殿下です。
ルイス殿下はロイド殿下の言葉を遮られました。
「ミユキ殿とレイアは俺達にも打ち明けてくれたんだ。おかしいと思わなかった? 多少は窘められたろうけど、王室が兄上の行動を止めなかったのはどうしてだと思う? 兄上の素質を試していたんだ」
「なっ」
ロイド殿下は理解されたようです。ええ、決して王室はロイド殿下を見捨てていたわけではないのです。
「では……お前も、いや、父上も母上も、この事を知って……!?」
「そうだね、知っていた」
「なぜ、こんな事を!」
「女神の試練、とでも言えばいいでしょうかね。そうするようにとお告げがあったんです」
「ミユキ……! そ、そんな」
ミユキ様の口から語られれば、ロイド殿下は納得されたようです。
わたくしやルイス殿下の言葉は信じないのに、ミユキ様からであればすぐに受け入れる。その事実がわたくしに突き刺さります。もうとっくに、ロイド殿下にはわたくしは不要となっていたのですね。
だけど、それでも。わたくしはロイド殿下を信じておりました。きっとこれは何かの間違いだと。……でもやはり、女神様の仰ることは事実だったのです。
「お可哀想な殿下。この一年、いくらでも引き返せましたのに」
わたくしの頰を、一筋の涙が滑って行きます。
ロイド殿下への情などではありません。あまりにも、彼の行動が軽率であったからです。次代の王となるには、この一年のロイド殿下の行動は何一つ評価できるものではありませんでした。
わたくしやミユキ様だけでなく、王家の皆様からもお言葉を頂いていたでしょうに。ミユキ様への気持ちを重視するのであれば他にも方法はありました。けれどもそれらを実行するどころか、検討すらされませんでした。それがロイド殿下の限界だったのです。
無知は罪です。王は、無知では務まりません。機を窺って適切な政策を施す必要もあります。その勘があれば、自らを省みる機会もあったはずなのです。
殿下は聖女が居れば王国の豊穣は約束されていると、そう言って公務も授業も適当に済まされるようになってしまったのです。
こうして振り返ってみれば、聖女の召喚、それ自体がロイド殿下への試練とも言えるのでしょう。
「仕方がないですよ、レイア様。これが女神様の望みです」
ミユキ様はすっぱりと言い切ります。
どうにかならないのかとそればかり繰り返すわたくしに、彼女はいつも言っておりました。これが最も穏便な方法なのだと。
だから信じて欲しい。そのミユキ様の言葉はとても力強く、わたくしは彼女を信じることにしたのです。
「そんな……そんな、嘘だ! ミユキ、嘘だと言ってくれ!」
「さようならロイド殿下。せめてもう少し勤勉だったら、未来は変わったかもしれないですね」
「ミユキ!!」
「兄上はご病気のようだ。治癒は難しいだろう。離宮でごゆるりと過ごされるといい」
「なぜ! 俺はただ、ミユキを愛しただけだ。それがどうして……どうして!!」
ロイド殿下は兵士に両側から拘束され、そのまま連れ出されて行きました。
国王陛下と王妃陛下が項垂れているのが痛々しく感じます。が、王国の未来に必要なのだと決断されたのです。次代の王にと育てていた息子をそのように切り捨てるのは辛いことでしょう。
ですがそれを決断できた事こそ、両陛下の器なのではないのかと、わたくしはそう思います。
「終わったな」
その声はルイス様のものです。
隣から聞こえる静かな声はわたくしに沁み入ります。わたくしを労うように肩を抱く彼の手はとても温かい。それが、なんだか無性に泣けてしまいます。こんなではいけませんね、ルイス様はたった今兄君をなくされたのです。王族が表舞台から消えるとはそういうこと。
これから、王家は、王国は慌ただしくなるでしょう。わたくしも王家の臣としてそれを支えて行かねばなりません。
思いを新たにルイス様を見上げれば、彼はこの場に似つかわしくない笑みを湛えていました。
「ところでレイア、約束は覚えてる?」
そう言われて、わたくしは頰が赤くなるのを自覚します。
「……ええ、もちろん」
わたくしが頷けば、ルイス様はぱっと笑顔を浮かべられました。
「それは良かった。じゃあ、俺の妃になってくれるね」
「約束、ですものね。はい。慎んでお受けいたしますわ」
それは一連の事実を陛下達にお伝えして間も無くのことでした。ルイス様から話があると王宮に呼ばれたのです。
てっきりルイス様とだけ、お会いするものと思っていましたのに。その場には王妃様もお待ちだったので、わたくしは目を見開きました。
その場で王妃様より語られたのは、ロイド殿下の廃嫡でした。
もしこのままロイド殿下が変わられないのであれば、ルイス様が立太子なさいます。わたくしは現在ロイド殿下——というより、『王太子候補の婚約者』です。ルイス様が王太子となるのであれば、わたくしさえ良ければその立場のままで居てくれないだろうか。王妃様はそう仰いました。
思ってもみなかった提案です。瞬き、ぽかんとするわたくしを、ルイス様が頰を赤くして見つめておりました。
どくん、とわたくしの心臓が跳ねます。だって、それは……わたくしが夢見た未来だったのですもの。
わたくしの心がロイド殿下から離れているのに気付いたのはいつの事でしたでしょうか。ミユキ様に殿下が付き纏うようになってから? いいえ、もっと前からなのでしょう。記憶の中のロイド殿下はわたくしを顧みず背を向けてばかり。それでも歩み寄ろうと、少しでも近付こうとわたくしは努力したつもりでしたが、それも無駄でした。そもそも殿下にわたくしを見るつもりが無かったのですもの。
一方でルイス様は、そんなわたくしの隣に居て下さったのです。それがどれほど救いとなったか。
ですので王妃様の申し出は、わたくしにはむしろありがたいものでした。……が、それが実現する時は、ロイド殿下が廃嫡となる時。それ自体は喜ばしいものではございません。
わたくしは「もしもが起きた場合、お受けします」とだけ答えました。ルイス様も王妃様も、それでいいと言ってくださいました。
退室したわたくしを馬場まで送ってくださったルイス様がわたくしに「約束だよ」と耳打ちします。それに「ええ、約束です」と返せば、ルイス様はわたくしの手に唇を落とされました。
「良かったですね、レイア様!」
「ミユキ様……ありがとう」
思えば、もうその時には、こうなるのを見越していたのかもしれません。ミユキ様はこれまで通り振る舞われていましたが、ルイス様とのことを相談した時に「おめでとうございます!」と歓声を上げていましたから。
「ロイド様よりルイス様の方が断然良いですからね。ロイド様ってばねちっこいんだもの。しかもこっちの話は聞かないわ自慢話だけだわ、自分の世界に陶酔してそれを押し付けてくるわで聞き流すのも大変で」
「それは……大変でしたのね」
「ま、解放されたんでいいですけどね、もう。そうだレイア様、ぜひ式には呼んでくださいね!」
「き、気が早いですわよ」
「やだ、レイア様赤くなってる! かっわい~!」
「ミユキ様! からかわないで!」
わたくし達の弾む声はこの場には相応しくないかもしれません。でも、一年耐えたのですもの。少しくらいであれば、女神様にもお目溢し頂けるのじゃないかしら。
祭壇の向こうに浮かぶ月を見て、わたくしはそんな風に思ったのです。
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