聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴

文字の大きさ
8 / 10

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした⑧


 この会食から、わたくしと殿下との間にはわかりやすく溝ができてしまいました。
 わたくしを信じる気の無くなってしまった殿下と、それを否定したいのに否定できないわたくし。それが交わるだなんて有り得ないのです。向いている方向がまったく違うのですから。
 そんなわたくしに当て付けるかのように、殿下はミユキ様に付きっきりとなって行きました。わたくしの妃教育は順調で、少しずつ学園へ顔を出せるようにはなりましたけれども。その頃にはすっかり、殿下の隣はミユキ様の席となっておりました。
 月に一度となったお茶会には、殿下は来なくなりました。学園で顔を合わせる場面があっても殿下は挨拶もせず、わたくしとは目を合わせることもございません。そんな殿下の隣でミユキ様が何か言いたげにしてはおりましたけれども、殿下が挨拶を許しておりませんから、わたくしから声を掛ける事もできませんでした。

 どうしてこんな事になってしまったのでしょう。
 いつ、なにを間違えてしまったのでしょう。

 いくら考えても分かりませんでした。わたくしは未来の王子妃、この国を纏める立場になるというのに。こんなわたくしではロイド殿下の仰る通り、その立場に相応しくないのかも知れません。
 気鬱に過ごすわたくしとは違い、ミユキ様の聖女としての生活は順調のようでした。祝福の力は増幅し、すでに修練も不要なほど強力で安定されているとの事。この国に住まう者として王家の臣下として、それは喜ばしいことです。
 けれども、手放しで喜べないのはなぜでしょうか。以前にも増して熱い視線をミユキ様に向ける殿下を見てしまったからでしょうか。
 学友の皆様が教えて下さいます。殿下はミユキ様に、甘い言葉を投げかけているとか。それは、周囲で漏れ聞こえたものだけで赤面してしまうほど、甘くて情熱的なものなのだそうです。
 ミユキ様がそれらに応じた事は無いそうですが、ロイド殿下の御心がどこにあるかなど、今更問う必要は無いでしょう。

「レイア、大丈夫?」
「ルイス様」

 振り返るとそこにはルイス殿下の姿が。

「……あんまり目に入れない方がいいんじゃないか」

 それにわたくしは首を横に振ります。テラスの手すりの向こう、学園の中庭では、ロイド殿下とミユキ様がゆったりと散歩をされています。ふいに足を止め、花を愛でるミユキ様の隣まで歩み寄るロイド殿下。……わたくしとの散歩では、一人先へ進んでしまうなんてしょっちゅうでしたのに。人って変わるのですね。
 手すりを強く握り締めるわたくしを、ルイス様は気遣って下さっているのですわ。

「ありがとうございます。でも気遣いは無用ですわ。今ではもう、そんなに辛くありませんから」
「本当に?」
「……ええ」

 それはわたくしの本心です。ミユキ様が現れてから一年。その間しくしくとわたくしを内側から蝕んでいたなにかはすでに、わたくしと同化しておりました。もう痛みを感じる事もなくなったのですよ。

「まあ、君がそう言うなら信じるよ。ただ、無理はするなよ、いいな」
「わかりました」
「どうしても耐えられなくなる前に俺の所に来い。でないとレイア、君がだめになってしまう」
「……小さな頃から思っておりましたが、ルイス様は過保護ですわ」
「そうかな」
「ええ。ルイス様ってば、わたくしが風邪を引いただけで、お見舞いにたくさんの花を贈ってくださったでしょう。ダンスの練習の時だってそう。ちょっと捻っただけですのに王宮医師を呼んだりして」

 それは、とルイス殿下は慌てます。

「それはそうだろう! 軽い風邪だと思っていたら重症化して重篤になる事だってあるし、捻挫も悪化させたらまずい。何年も痛みが残る場合だってあるんだ」
「わたくしの方が背が高いのに、おぶって運ぼうとしたり……わたくしの方がお姉さんなのに、と何度も思ったものですわ」
「年齢は関係ない。俺がやらなくちゃ、とあの時は思ったんだ。けど……でも確かに、護衛に任せれば良かったんだよな。身長が足りなくて、君の靴を地面で削ってしまった」
「それでルイス様が涙目になっていたのを覚えています」
「君の為を思ってした事が逆効果だったのが悔しかったんだ」
「ふふっ。そうだろうなあとは思いましたわ」

 幼い頃を思い返すと胸が温かくなっていきます。思わず笑ってしまったわたくしに、ルイス様も笑みを浮かべました。

「そういう時、すぐに駆けつけて下さるのは、いつもルイス様でしたわね」
「レイア……」

 ですがわたくしがそう言えば、ルイス様の笑顔が曇りました。
 いつの間にか中庭からロイド殿下達の姿はなくなっています。ルイス様と話したことで気分が紛れたわたくしは、すっかり胸の痛みを忘れておりました。

「ご心配なく。わたくしは大丈夫です」

 ……ええ、本心からそう思っておりました。その日殿下が高らかに婚約破棄を宣言するまでは。

感想 1

あなたにおすすめの小説

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

聖女らしくないと言われ続けたので、国を出ようと思います

菜花
ファンタジー
 ある日、スラムに近い孤児院で育ったメリッサは自分が聖女だと知らされる。喜んで王宮に行ったものの、平民出身の聖女は珍しく、また聖女の力が顕現するのも異常に遅れ、メリッサは偽者だという疑惑が蔓延する。しばらくして聖女の力が顕現して周囲も認めてくれたが……。メリッサの心にはわだかまりが残ることになった。カクヨムにも投稿中。

追放エンドだと思ったら世界が私を選んだ、元聖女のざまぁ再生記

タマ マコト
ファンタジー
聖女として祈り続け、使い潰された少女セレフィアは、 奇跡が起きなくなった夜に「役立たず」と断じられ、雪の中へ追放され命を落とす。 だがその死を世界が拒否し、彼女は同じ世界の十数年前へと転生する。 エリシア・ノクス=セレスティアとして目覚めた彼女は、 祈らずとも世界に守られる力を得て、 二度と奪われない生を選ぶため、静かに歩き始める。

召喚聖女の結論

こうやさい
ファンタジー
 あたしは異世界に聖女として召喚された。  ある日、王子様の婚約者を見た途端――。  分かりづらい。説明しても理解される気がしない(おい)。  殿下が婚約破棄して結構なざまぁを受けてるのに描写かない。婚約破棄しなくても無事かどうかは謎だけど。  続きは冒頭の需要の少なさから判断して予約を取り消しました。今後投稿作業が出来ない時等用に待機させます。よって追加日時は未定です。詳しくは近況ボード(https://www.alphapolis.co.jp/diary/view/96929)で。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。 URL of this novel:https://www.alphapolis.co.jp/novel/628331665/937590458

聖女は魔女の濡れ衣を被せられ、魔女裁判に掛けられる。が、しかし──

naturalsoft
ファンタジー
聖女シオンはヒーリング聖王国に遥か昔から仕えて、聖女を輩出しているセイント伯爵家の当代の聖女である。 昔から政治には関与せず、国の結界を張り、周辺地域へ祈りの巡礼を日々行っていた。 そんな中、聖女を擁護するはずの教会から魔女裁判を宣告されたのだった。 そこには教会が腐敗し、邪魔になった聖女を退けて、教会の用意した従順な女を聖女にさせようと画策したのがきっかけだった。

【 完 結 】言祝ぎの聖女

しずもり
ファンタジー
聖女ミーシェは断罪された。 『言祝ぎの聖女』の座を聖女ラヴィーナから不当に奪ったとして、聖女の資格を剥奪され国外追放の罰を受けたのだ。 だが、隣国との国境へ向かう馬車は、同乗していた聖騎士ウィルと共に崖から落ちた。 誤字脱字があると思います。見つけ次第、修正を入れています。 恋愛要素は完結までほぼありませんが、ハッピーエンド予定です。

聖女のはじめてのおつかい~ちょっとくらいなら国が滅んだりしないよね?~

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女メリルは7つ。加護の権化である聖女は、ほんとうは国を離れてはいけない。 「メリル、あんたももう7つなんだから、お使いのひとつやふたつ、できるようにならなきゃね」 と、聖女の力をあまり信じていない母親により、ひとりでお使いに出されることになってしまった。

召喚された聖女はこの世界の平民ですが?家に帰らせていただきます!

碧井 汐桜香
ファンタジー
召喚された聖女は、この世界の平民でした。 バレないように異世界から召喚された聖女のふりをしながら、家に帰る機会を見計らって……。