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4 貴重な魔法使い
しおりを挟む「……その王弟に対する口の聞き方じゃないと私は思うよブランシェ・エルマレ? 私が教えた礼儀作法はどうした、ちょっと失礼だよ。それに私は結婚出来ないのではなく、結婚しないだけだ」
魔塔に所属するにあたって、私個人にエルマレという大層な家名が与えられまして。
お貴族様達と接するための礼儀作法の教育がされた、だけど礼儀作法をちょっと教育されたとしても私はただの平民で。
そんな小難しい事よくわかりません。
そして結婚出来ないって私に言われたのがよっぽど嫌だったのでしょうか、アレクセイ様は造形の整ったお顔を歪めて睨んできます。
ですが貴方に睨まれても何とも思いません、アレクセイ様には叱られ慣れていますから!
「もうそんなの別にいいじゃないですか? 貴方、私の直属の上司なんですし。気に入らないなら処刑でもなんでもお好きにどーぞ! 私が死んだらこのお仕事、一人でやる事になって大変なのはアレクセイ様ですしー?」
「ああいえば、こう言う……」
呆れたといわんばかりの顔でアレクセイは、好き勝手に話すブランシェを見る。
ここに来たばかりの頃のブランシェは、ビクビクとしていてまだ多少なりとも可愛げがあったはずなのに。
いつの間にこんな風になってしまったのか、ちょっと教育を間違えてしまったかもしれない。
と、アレクセイは眉間に皺を寄せた。
貴族でも魔法を使える者が少ないこの国で。
出自が平民だからという理由で大変貴重な存在である魔法の才を持った人間を使わないなんて。
馬鹿のすること。
それに魔法使いとして一人前になれば、平民でもそれなりの爵位を得る事が出来る。
だから五年前、成人の儀で魔法が使えると判明したブランシェをアレクセイ自ら魔塔に連れてきて貴族令嬢と同程度の礼儀作法を教えた。
そして魔塔の主であるアレクセイは、上司としてブランシェを都合よく利用し働かせて。
時には魔法使いの師匠として、ブランシェが一人前の魔法使いになることを影ながら手助けしている。
だからブランシェがこんな態度をアレクセイに取るのも、気心の知れた相手だからで。
「というか少しくらい傷付いた部下に優しくして下さいよ、私は今とっても傷ついているんです! アレクセイ様には血も涙もないのですか?」
「血も涙もあるから忙しいのにこうやって君の話を聞いてあげているんだろう? 感謝したまえ」
ブランシェの話を聞いているこの時間も、仕事は山のように溜まっていく一方で。
アレクセイにしてみれば最大級の優しさである。
「アレクセイ様? 私このままじゃお父様と大して年が変わらないオジサンと結婚させられちゃうんですよ、しかも後妻! それにオジサンには15歳の娘さんがいますから私は継母になります! そして結婚させられたら私は子爵夫人です!」
「ふーん、それは大変だね」
金や権力に物を言わせた貴族が若い平民女性を囲う、それは社交界でもよく聞くつまらない話だ。
正直胸糞悪い話だなとはアレクセイも思う。
だが別にブランシェが誰に嫁ごうと何をしようと、アレクセイにとってそれ自体どうでもいい。
仕事さえ滞りなくしてくれさえすれば、それ以外はブランシェの自由なのだから。
「……しかも相手は私に魔塔を辞めさせて、家に閉じ込める気です! 嫡男を私に産んで欲しいって釣書に付いていた手紙に書いてました!」
「……はぁ? 魔塔を辞める!?」
ただし仕事を辞めるというのだけは絶対に、承服出来ないアレクセイだった。
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