【完結】契約結婚。醜いと婚約破棄された私と仕事中毒上司の幸せな結婚生活。

千紫万紅

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20 私の婚約者

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「ブランシェ、この男は君の知り合いか?」

「っあ、アレクセイ様……えっと……」

 私はアレクセイ様に何と答えればいいのでしょう?

 この男は『醜い』と吐き捨てて、私を捨てた元婚約者だとこの場で言えばいいのでしょうか。

 エクトル様の腕に甘えたようにしなだれかかり、私の事をジロジロと不躾に見てくるこの女性の前で。

 

「ブランシェ……?」

 急に黙り込んでしまったブランシェ。

 その視線の先には一組の男女。

 いったいどうしてしまったのかと、俯いてしまったブランシェの顔をアレクセイは覗き込む。

「あらっ……もしかしてっ! アレクセイ王弟殿下ではございませんか!?」

「誰だ……?」

 五月蝿い。

 私が王弟だとわかっていて。

 私の許可もなく話し掛けるなんて、淑女教育を受けていないのかこの女は。

「申し遅れましたアレクセイ王弟殿下、私はダフネ・オクレール。オクレール伯爵家の長女でございます! 以後お見知りおきを」

「オクレール伯爵家、ああ……あの家か」

 確か先ほど謁見の間で、平民がどうのこうのと声高らかに喚き散らしていたな。

 オクレール伯は。

 この女が、あのオクレール伯の娘と言うことならばこの無作法な態度は容易に納得が出来る。

「こんなところでアレクセイ王弟殿下にお会いできるなんて……ダフネは嬉しいですわ!」

「……それで隣の者は何という?」

「あ、申し遅れました。エクトル・フロベール、フロベール男爵家の嫡男です」

 エクトル・フロベール。

 この男に名前を呼ばれた直後から、ブランシェは急に黙り込んで俯いてしまった。

 ブランシェに私以外の貴族の知り合いなんて、一人しか思い付かない。

「そうか……それで私の婚約者であるブランシェにいったい貴公は何用だ?」

 そう言って黙り込んで俯いてしまったブランシェを、アレクセイは自分の腕の中に抱き寄せる。

 そして抱き寄せられた方のブランシェは。

「……っちょ、アレクセイ様!?」

 驚いて、その腕の中から出ようと踠くが。

「ブランシェ、そのまま少し黙ってなさい」

「いや、でも……」

 『ちょっと黙っとけ』というアレクセイの命令に、不満そうな顔をしながらも一応押し黙る。

 魔塔主であるアレクセイの命令は絶対。

 それは魔塔の魔法使い達にとって絶対のルール。

「えっ、こ……婚約者? 王弟殿下の……ですか? でもブランシェは平民で……」

「……ブランシェは魔塔の魔法使いだ、ただの平民ではない。私の婚約者を、男爵家の嫡男風情が愚弄してもいいと思っているのか?」
 
「あ、いえ……そんなつもりは全く……」

「それと私の婚約者の名前を気安く呼ばないでもらえるか? 気分が悪い」

 ブランシェを平民だと侮るエクトルを、アレクセイは凍えるような目で睨み付けた。

「っ……申し訳ございません、王弟殿下」

「わかったならその令嬢を連れてさっさと下がれ、今この薔薇の庭は私とブランシェが散策している」

「おおせのままに、王弟殿下」

 それでもまだ何か言いたげな顔のエクトルは、去り際にブランシェと目を合わそうとするがアレクセイにじろりと睨まれて。

「なんだ、まだ私のブランシェに何か用か?」

「あ、いえ……ほら行こうダフネ」

「そんな、お待ち下さいエクトル様ぁ! ダフネはまだアレクセイ王弟殿下とお話がしたいのに……っ」

 アレクセイに睨まれたのが余程怖かったのかエクトルは、意気消沈してしまったようにすごすごと引き下がり。

 まだ話したいと嫌がる伯爵礼儀ダフネを連れて、薔薇の庭園から去っていった。

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