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29 夜会のはじまり
しおりを挟むメイド達によって艶やかに磨かれた身体に、用意されたドレスを纏い宝飾品を付けていく。
それは今夜、王宮で開かれるブランシェとアレクセイの結婚を祝う夜会の為。
その夜会の為に、アレクセイ様がまた私のドレスをご用意してくれた。
私は持参金すら用意出来なかったのに、アレクセイ様は沢山の物や愛情を与えて下さる。
それが申し訳なくて。
でもその気持ちがすごく嬉しくて。
ブランシェはアレクセイに用意されたドレスを前に、自然に笑顔になった。
ダークブルーのドレスに、大粒のダイヤが惜しげもなく使用された宝飾品で着飾ったブランシェ。
その姿に。
「っ……綺麗だブランシェ、よく似合っている」
部屋にブランシェを迎えにやって来たアレクセイは、満足そうに頷いて顔をほころばせる。
「アレクセイ様! あの、このドレス……ありがとうございます!」
「ああ、喜んでくれたなら良かった」
そして幸せなそうに微笑みあう二人。
その姿は完全に新婚夫婦のそれで、誰も邪魔が出来ない雰囲気。
だけど。
「さあさあ、お二人様。そろそろ王宮に出発しませんと、今宵の主役ですのに遅刻してしまいますよ?」
微笑みあうブランシェとアレクセイにそう告げて急かすのは、ばぁやのアルマで。
「そうだな、そろそろ行くか」
「はい、アレクセイ様」
王宮の大広間。
そこで貴族達は作り笑いを浮かべ、今宵の主役となる二人を出迎える。
平民だとつい馬鹿にしてしまった相手は魔塔の魔法使いで、侯爵位を賜るほどの実力者だった。
それに加えて王弟アレクセイの寵愛は本物で、結婚式にどれだけの金を使ったのかわからないほど。
そして、国王陛下まであの平民女を義妹だと認めてしまわれた。
これはとても不味い。
このままでは自分達の身が危うい。
なんとかして挽回せねば魔物の間引きをして貰えないどころか、爵位まで取り上げられるかもしれない。
だからブランシェとアレクセイの結婚式に列席した貴族達は、顔面に笑顔を張り付かせて。
「バルテ公爵夫妻のご入場です!」
ブランシェとアレクセイの入場を高らかに告げる騎士の声に、貴族達は。
盛大な拍手と共に二人を迎える。
そして入場したブランシェの姿に、作り笑いを浮かべていた貴族達は目を丸くして驚いた。
ついこの間の謁見では、みすぼらしい平民女だったはずなのに。
そこにはつい目で追い掛けてしまうような、美しい黒髪の貴婦人がいた。
この前の結婚式ではベールで顔がほとんど見えなかったし、侯爵位の陞爵では驚き過ぎて顔を見るどころではなかった。
だから貴族の男達は、惚けたように口をポカンとだらしなく開けてブランシェの姿を見た。
そんな男達の姿に、同伴した夫人達はゴミでも見るような冷ややかな視線を浴びせる。
そしてそんな貴族達の中で。
エクトルが頬を赤く染めて、入場したブランシェの頭の先から足の先まで舐めるように見つめ。
「ブランシェそんな可愛らしくなるなんて、やっぱり私の事がまだ忘れられないのだな……」
と、気持ちの悪い妄想を口走り。
そんなエクトルの隣でダフネが、ブランシェに殺気を放っていた。
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