死を望まれた王女は敵国で白い結婚を望む。「ご安心ください、私もあなたを愛するつもりはありません」

千紫万紅

文字の大きさ
12 / 68

12 想定外

しおりを挟む
12


 ……想定外、だった。
 
 ちょうど一年前。
 モルゲンロートとの国境地帯に陣を敷いたシュヴァルツヴァルトの王太子フリードは、自軍の勝利を確信していた。

 あと一押しでモルゲンロートは崩れる。
 そしてシュヴァルツヴァルが勝利を手にする。

 それが両国の共通認識だった。

 だが崩壊目前だったモルゲンロート軍が土壇場で予想外の戦術を繰り出し、驚異的な粘りをみせた。
 
 そしてそれから一年もの長い間、モルゲンロートはシュヴァルツヴァルトの猛攻に耐え続けた。
 
 ――結果。
 両国はなんの成果も得られぬまま痛み分けという形で、和平交渉の場に立つことになった。

 そして勝てるはずの戦いで勝利を逃したフリードに突き付けられたのは、
『和平の証としてモルゲンロートの王女を妃に迎え、愛すること』
 という屈辱的な命令だった。
 
 しかもその王女はなんと、第一王女だった。
 
 こういった政略結婚で差し出されてくるのは、その国にとってあまり重要な位置にいない、二番目や三番目の王女が通例。  
  
 だからフリードは、
『その第一王女、なにかあるのでは? 今はいいですが将来王妃となるのにふさわしくないのでは?』
 ……と、言ってその縁談を断ろうとした。

 だが、フリードの父でシュヴァルツヴァルトの国王クラウスに、
『こうなったのはお前がぐずぐずしていたからだ』
 と、言われてしまっては……フリードはもうなにも言い返せなかった。

 だからフリードは『他に用もあるし』と自分に言い聞かせて、敵国だったモルゲンロートまで王女を迎えにやって来た。
 
 せめて扱いやすい性格であってくれ。
 そう願いながら。

 けれど、そこで待っていたのは――
   
「シュヴァルツヴァルトに到着いたしましたら、父と母に会っていただくことになると思います」

「はい」

 国境でモルゲンロートの第三騎士団と別れた後。
 
 向かいに座ったフランツェスカはフリードの存在など初めからそこになかったかのように、手にした本へと視線を落とし続けていた。
  
「結婚式は一週間後を予定しています、ウェディングドレスはこちらで用意しておりますのでサイズ直しだけしていただければ……」

「はい、承知しました」

 フリードが話しかけてもフランツェスカは適当に返事を返し、視線を合わせることはない。 
  
「その……フランツェスカ? 馬が好きなのですか? 先ほどの乗りこなし、とてもお上手で驚きました。私も馬が好きで……」

「……王太子殿下、ひとつお願いしてもよろしいですか?」

「はい、なんでしょう? 私にできることなら喜んでお手伝い……を」

「公私混同はお控えいただけませんか? 迷惑ですわ」

 冷ややかに告げられたその言葉に、フリードは返す言葉を失った。

「……すいません」

 これもまた……想定外だった。
 まさかこんな展開になるとは思いもしなかった。

 『愛するつもりはない』
 そう言って突き放してやれば、激昂してわめき散らすか泣いてすがってくるとフリードは思っていた。

 そしてその反応を理由に、王太子妃に相応しくないとして破談に持ち込もうと、計画していたのに。

 フランツェスカは違った。

 泣き喚くどころか、これ幸いとでも言いたげに。
『ご安心ください、私も愛するつもりはありません』と、宣言して。
 
 馬鹿にしたように薄く微笑んできた。

 それに加えて、国民のあの反応。
 まるで英雄のように、フランツェスカは国民から感謝と祝福を贈られていた。
 
 この展開を、フリードはこれっぽっちも予想していなかった。
 それにここまで無関心を貫かれ続けると、逆に気になってきてしまう。

 だが『干渉するな』とか色々言ってしまった手前、これ以上踏み込めない。
 
 どうしたものか……と、考えあぐねていると。
 フランツェスカとフリードが乗る4頭立ての豪奢な馬車は、シュヴァルツヴァルト王宮へと到着したのだった。
しおりを挟む
感想 348

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

笑う令嬢は毒の杯を傾ける

無色
恋愛
 その笑顔は、甘い毒の味がした。  父親に虐げられ、義妹によって婚約者を奪われた令嬢は復讐のために毒を喰む。

悪役令嬢に相応しいエンディング

無色
恋愛
 月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。  ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。  さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。  ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。  だが彼らは愚かにも知らなかった。  ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。  そして、待ち受けるエンディングを。

悪役令嬢は手加減無しに復讐する

田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。 理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。 婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

9時から5時まで悪役令嬢

西野和歌
恋愛
「お前は動くとロクな事をしない、だからお前は悪役令嬢なのだ」 婚約者である第二王子リカルド殿下にそう言われた私は決意した。 ならば私は願い通りに動くのをやめよう。 学園に登校した朝九時から下校の夕方五時まで 昼休憩の一時間を除いて私は椅子から動く事を一切禁止した。 さあ望むとおりにして差し上げました。あとは王子の自由です。 どうぞ自らがヒロインだと名乗る彼女たちと仲良くして下さい。 卒業パーティーもご自身でおっしゃった通りに、彼女たちから選ぶといいですよ? なのにどうして私を部屋から出そうとするんですか? 嫌です、私は初めて自分のためだけの自由の時間を手に入れたんです。 今まで通り、全てあなたの願い通りなのに何が不満なのか私は知りません。 冷めた伯爵令嬢と逆襲された王子の話。 ☆別サイトにも掲載しています。 ※感想より続編リクエストがありましたので、突貫工事並みですが、留学編を追加しました。 これにて完結です。沢山の皆さまに感謝致します。

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。

ぽんぽこ狸
恋愛
 気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。  その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。  だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。  しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。  五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

処理中です...