死を望まれた王女は敵国で白い結婚を望む。「ご安心ください、私もあなたを愛するつもりはありません」

千紫万紅

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15 王家の一員

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15



 シュヴァルツヴァルトの国王がこの場にやってきたことにより、私を中傷していた貴族達の顔は途端に青ざめていった。
 
 元々敵国だったとはいえ、和平条件によって輿入れしてきた王女に対するいわれなき中傷の数々。
 
 中傷していた貴族達も流石に不味いと思ったのだろう、フリード王太子が怒りを顕した時よりも幾分か顔色が悪く見える。

「国王陛下? 娘、というのは……?」

 ゆったりとした足取りで年配の貴族が前に進み出て、シュヴァルツヴァルトの国王に問いかけた。
 国王に直答できるということは、この年配の貴族はおそらく高い地位にいる者。

「……今、言った通りだ。私はフランツェスカ・モルゲンロートを和平の駒ではなく、王家の一員として招き入れる。モルゲンロートとは国としての因縁もあるし、先日の戦で家族や友人を亡くした者もいるだろう。だが過去に囚われていてはなにも始まらない」
 
「ですが、それでは……納得できぬ者が出てます」

 そして年配の貴族は忌々しそうな顔で一瞬私を見た後、再び国王へと向き直りました。
 あまり良くは思われていないということが、それだけでわかります。
 
 まあ、この国で私のことを良く思う人間なんて一人もいないでしょうが。

「和平とは互いに歩み寄る意志によって成されるもの。我々はモルゲンロートと和睦すると決めた、だからこれはその第一歩だと思ってもらいたい。私からはこれで以上だ! わかったならお前たちとっとと解散しろ! つまらんことばかり言って恥を晒すな!」

 そう言って国王は手を振って貴族たちに解散を促した。

 その言葉に渋々とでも言いたげに、集まった貴族達はその場から歩き出した。
 だが去り際に小声で囁かれるのは不満と困惑の声で、中には拒絶の色を顔に浮かべる者もいました。
 
 ですが、面と向かって国王に進言する勇気のある者はここには一人もいませんでした。
 
 陰口しか叩けないなんて恥ずかしいですね。
 
「――父上、なんですかあれは」
 
「いや、本当は謁見の間で話すつもりだったんだがな……お前たちがなかなか来ないから来てみれば、アレだろう? 少し腹がたってな、若い娘によってたかって……あの馬鹿どもめ」

「いや、だからといって……」

 シュヴァルツヴァルトの国王の先ほどの発言に対して、フリード王太子が咎めるような視線を投げる。

 無理もありません。 
 確かに先ほどの発言は、一国の王として正気の沙汰とは思えない。
 息子のフリード王太子もなにを考えているのかさっぱりわかりませんが、父親のシュヴァルツヴァルトの国王もいったいなにがしたいのか理解できません。

 さっきの年配の貴族なんて国王にそう言われた瞬間、顔を真っ赤にしていて。
 たいへん滑稽で面白かったのですが。
 ……あれは大丈夫でしょうか?
 
 まあ私もあの貴族には睨みつけられましたので、心配してあげるような義理は全くありませんが。
 かなりお年を召していらしたように見えましたので……今頃、息してますかね?

 ……それにしても。
 どうしてシュヴァルツヴァルトの国王は私の事を『王家の一員』だと、そう易々と言えるのでしょうか。

 会ったばかり。
 しかも私は敵国の王女なのですよ?

 それに。
 あれはまるでお散歩中に拾ってきた子犬に「この子、うちの子ね!」とでも言うような雰囲気でしたけど。
 
 そんな軽い雰囲気で済ませられるような簡単な問題では、決してないでしょうに。

 実の父親ですら私の事を『和平の駒』として扱い、労いの言葉一つかけず送り出したのに。
 
 どうして敵国の国王が私のことを娘として大事に扱い、労いの言葉をかけるのでしょう。
 ……私にはその理由がわかりませんでした。
 
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