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17 代わりの侍女
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――翌朝。
頬を撫でるひんやりとした冷たい感覚にふと目を覚ますと、窓の外では白い雪が空を舞っていました。
どうやら昨夜、私が眠りについた後から雪は降り始めたらしく、窓枠にはうっすらと雪が積もっていて。
そりゃ寒いわけだと妙に納得して、近くに置いてあったショールを肩に掛けました。
それにしてもこんなに落ち着いた静かな朝を迎えたのは、いつぶりでしょう。
戦場から帰ってきてからも輿入れの準備で忙しく、ゆっくりと休めたためしがこれまで一度もありませんでした。
今日くらいは、部屋でのんびりと過ごすのもいいかもしれません。
国王夫妻も昨日、休息を取っていいと私におっしゃってくれたことですし。
そういえば読みかけの本があったなと思い出して、ベッドから降りると。
「あのう、フランツェスカ様……?」
「え……なに?」
耳馴染みのない若い侍女の声に一瞬、驚いてしまいましたが。
……すぐに思い出しました。
もう、ヘルマはいないんでした。
クソ親父に帝国へ帰されてしまったから。
そしてここにいる侍女はみんなクソ親父が新たに用意した……使えない侍女達で。
「まだお食事の用意ができていないそうですの。厨房の方が、なにやら手間取っているとか?」
「わたくしは、伝えに行こうとは一応思いましたのよ? ですけれど朝からあの粗野な使用人たちの中に混ざるのは……ちょっと、ねえ?」
気の抜けた返事。
それはまるで夜会で誰かの噂話でもしているかのような、そんな話し方でした。
ヘルマの代わりの侍女ということで、モルゲンロートから連れてはきましたが。
蓋を開けてみると彼女達は侍女の仕事なんて一度もしたことがない、ただの貴族令嬢達だったのです。
どうしてただの貴族令嬢が侍女として私の輿入れについてきたのか。
その理由はただ一つ、このシュヴァルツヴァルトで良い結婚相手を探すことだったのです。
だから私の身の回りの世話なんて、最初からやる気が全くないといっていいほどありません。
着替えの手伝いも驚くほど雑で、危うくドレスの裾を踏んで転けそうになりましたし。
輿入れの荷物の整理も中途半端どころか、手を付けた気配すら全くないのです。
ここまでくると流石に呆れてきますし、モルゲンロートの本物の侍女達に悪い。
「あのね、貴女達。昨日言ったでしょう? 朝は温かいお茶と軽い食事だけでいいから用意してと……」
「もちろん承知しておりますわ! でも……この国の厨房、あまり融通が利かなくて」
「それにここの使用人達ったら、わたくしが指示を出してあげたというのに睨むんですのよ? 失礼にもほどがありますわ!」
その物言いに、頭が痛くなりました。
この侍女達は自分達が上位の人間だと、本気で思っているのです。
シュヴァルツヴァルトの王宮で、モルゲンロートの人間が優遇されるはずなんて絶対にありませんのに。
私ですらよそ者、敵国の王女として貴族達からいわれのない中傷を受けたのです。
そんな王女について来た侍女達が、この国の王宮で優遇などされるわけがない。
「もう……いいわ。下がって。朝食のことは自分でどうにかするから」
「え? でも……」
「聞こえなかった? 下がりなさい」
――その時。
コツコツコツ……と、扉を叩く音がしました。
「フランツェスカ様、失礼いたします。フリード王太子殿下がお見えでございます」
そしてシュヴァルツヴァルトの女官の、凛とした声が響く。
モルゲンロートから連れて来た侍女達のやる気のない話し方とは打って変わって、ハッキリとした物言い。
こんな人が私の侍女になってくれたらどんなに楽だろうかと思いつつ、入室の許可を出しました。
「……どうぞ」
そして『干渉しないと自分で言ったくせに、こんな朝早くから私になんの用ですか?』と、一言くらいあとで言ってやろうと考えていたら。
ゆっくりと扉が開き。
部屋に入ってきたのは、どこか疲れたような顔をしたフリード王太子でした。
「おはようございます、フランツェスカ。昨夜はよく眠れましたか。……は? なんですかこれ」
けれど部屋と私の姿を交互に見たフリード王太子は、驚いたようにわずかに目を見開いたのです。
そしてつぎの瞬間、
部屋の空気が一変してしまいました。
フリード王太子の薄氷のような青の瞳が、冷たい光を帯びたとおもったら。
部屋の隅にいた侍女たちへと、その冷たい視線は向けられて。
侍女達はカタカタと震え出したのです。
そしてなぜか、その場にいただけの私まで身体に寒気が走りました。
それは例えるなら外の冷気が一瞬にして部屋に流れ込んだかのような、そんな感覚でした。
――翌朝。
頬を撫でるひんやりとした冷たい感覚にふと目を覚ますと、窓の外では白い雪が空を舞っていました。
どうやら昨夜、私が眠りについた後から雪は降り始めたらしく、窓枠にはうっすらと雪が積もっていて。
そりゃ寒いわけだと妙に納得して、近くに置いてあったショールを肩に掛けました。
それにしてもこんなに落ち着いた静かな朝を迎えたのは、いつぶりでしょう。
戦場から帰ってきてからも輿入れの準備で忙しく、ゆっくりと休めたためしがこれまで一度もありませんでした。
今日くらいは、部屋でのんびりと過ごすのもいいかもしれません。
国王夫妻も昨日、休息を取っていいと私におっしゃってくれたことですし。
そういえば読みかけの本があったなと思い出して、ベッドから降りると。
「あのう、フランツェスカ様……?」
「え……なに?」
耳馴染みのない若い侍女の声に一瞬、驚いてしまいましたが。
……すぐに思い出しました。
もう、ヘルマはいないんでした。
クソ親父に帝国へ帰されてしまったから。
そしてここにいる侍女はみんなクソ親父が新たに用意した……使えない侍女達で。
「まだお食事の用意ができていないそうですの。厨房の方が、なにやら手間取っているとか?」
「わたくしは、伝えに行こうとは一応思いましたのよ? ですけれど朝からあの粗野な使用人たちの中に混ざるのは……ちょっと、ねえ?」
気の抜けた返事。
それはまるで夜会で誰かの噂話でもしているかのような、そんな話し方でした。
ヘルマの代わりの侍女ということで、モルゲンロートから連れてはきましたが。
蓋を開けてみると彼女達は侍女の仕事なんて一度もしたことがない、ただの貴族令嬢達だったのです。
どうしてただの貴族令嬢が侍女として私の輿入れについてきたのか。
その理由はただ一つ、このシュヴァルツヴァルトで良い結婚相手を探すことだったのです。
だから私の身の回りの世話なんて、最初からやる気が全くないといっていいほどありません。
着替えの手伝いも驚くほど雑で、危うくドレスの裾を踏んで転けそうになりましたし。
輿入れの荷物の整理も中途半端どころか、手を付けた気配すら全くないのです。
ここまでくると流石に呆れてきますし、モルゲンロートの本物の侍女達に悪い。
「あのね、貴女達。昨日言ったでしょう? 朝は温かいお茶と軽い食事だけでいいから用意してと……」
「もちろん承知しておりますわ! でも……この国の厨房、あまり融通が利かなくて」
「それにここの使用人達ったら、わたくしが指示を出してあげたというのに睨むんですのよ? 失礼にもほどがありますわ!」
その物言いに、頭が痛くなりました。
この侍女達は自分達が上位の人間だと、本気で思っているのです。
シュヴァルツヴァルトの王宮で、モルゲンロートの人間が優遇されるはずなんて絶対にありませんのに。
私ですらよそ者、敵国の王女として貴族達からいわれのない中傷を受けたのです。
そんな王女について来た侍女達が、この国の王宮で優遇などされるわけがない。
「もう……いいわ。下がって。朝食のことは自分でどうにかするから」
「え? でも……」
「聞こえなかった? 下がりなさい」
――その時。
コツコツコツ……と、扉を叩く音がしました。
「フランツェスカ様、失礼いたします。フリード王太子殿下がお見えでございます」
そしてシュヴァルツヴァルトの女官の、凛とした声が響く。
モルゲンロートから連れて来た侍女達のやる気のない話し方とは打って変わって、ハッキリとした物言い。
こんな人が私の侍女になってくれたらどんなに楽だろうかと思いつつ、入室の許可を出しました。
「……どうぞ」
そして『干渉しないと自分で言ったくせに、こんな朝早くから私になんの用ですか?』と、一言くらいあとで言ってやろうと考えていたら。
ゆっくりと扉が開き。
部屋に入ってきたのは、どこか疲れたような顔をしたフリード王太子でした。
「おはようございます、フランツェスカ。昨夜はよく眠れましたか。……は? なんですかこれ」
けれど部屋と私の姿を交互に見たフリード王太子は、驚いたようにわずかに目を見開いたのです。
そしてつぎの瞬間、
部屋の空気が一変してしまいました。
フリード王太子の薄氷のような青の瞳が、冷たい光を帯びたとおもったら。
部屋の隅にいた侍女たちへと、その冷たい視線は向けられて。
侍女達はカタカタと震え出したのです。
そしてなぜか、その場にいただけの私まで身体に寒気が走りました。
それは例えるなら外の冷気が一瞬にして部屋に流れ込んだかのような、そんな感覚でした。
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