死を望まれた王女は敵国で白い結婚を望む。「ご安心ください、私もあなたを愛するつもりはありません」

千紫万紅

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23 破滅への前触れ

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「――賛成多数。よって継承法は改正、リヒター公爵家のレナード・リヒターを次期国王とする」

 議長の声が議会に響きわたり。
 フランツェスカの元婚約者レナードが、次期国王に指名されたことが高らかに宣言された。
 
 モルゲンロート王国議会に議員達の形式的な拍手が響く。

 中には反対の意見を示す勇気ある議員もいたが、圧倒的な数の前ではどうすることもできず。
 継承法の改正並びに次期国王の指名まで行われてしまう結果となった。
 
「おめでとうございます、リヒター公爵! ご子息が次期国王に指名なされるとは……鼻高々ですな!」

「いやはや、これも皆の助力があってこそ……」

「なにをご謙遜を!」

「レナード王太子殿下、とお呼びした方がいいですかな?」

「まだ気が早いですよ。ですがもうすぐなので、楽しみにしていてください」

 その笑みは勝者のもの。
 あの日フランツェスカを王位継承から退けた時点で、レナードは勝利したと思っていた。
 
 ――だが、そう簡単に問屋は卸さなかった。
 その宣言がされた翌朝、王都の広場や王宮の前に溢れんばかりの民衆が押し寄せたのである。
 
「第一王女殿下を、正当なる王位継承者を女王に」
 
「裏切者を王にするな」

「誰が国を守ってくれたのか、忘れたのか」

 王都中に飛び交う怒号は朝の鐘すらかき消すほど。
 けれどそれは反乱というほど組織的ではなく国民一人一人の意志で、誰かに煽られたものではない。

 モルゲンロート国王は騎士団を街中に出して鎮圧を試みたが、また別の場所に群衆が移動するだけで収まる気配はなく。

 政務は停滞し、頼みの議会も沈黙。
 貴族達は互いにこの責任を押し付け合い、問題から目をそらす。

 レナードには理解できなかった。
 なぜだ、フランツェスカが良くてなぜ自分では駄目なんだ。
 
 国民にとっては国王など誰がなっても同じのはず。
 なのになぜ民衆はフランツェスカの名を口々に叫ぶのか。
 
 フランツェスカなんて男勝りで可愛げのひとつもなく。
 暇さえあれば王都にお忍びで散策へ出て遊んでいたし、剣術の訓練とかなんとかいいつつ騎士達に囲まれて喜んでいた。
 そんな王女のどこがいいのか。
 
 レナードとしては『自分の方が社交界で顔が広いし、貴族達からの人望もあって優秀』だと思っていて。
 国民からフランツェスカが支持されている事実がどうしても納得がいかなかった。

 けれどフランツェスカのお忍びで散策も慈善活動の為だったり、国民から直接国への意見や要望を聞く為だった。
 そして剣術の訓練も女王となって国を守る為には必要なことで、実際戦場ではその訓練が大いに役に立っている。

「なぜだ、なにが駄目なんだ」

 レナードの問いに答える者はここにはいない。
 
 書簡の束は山のように積み重なり、誰も裁こうとはしない。
 命じれば従うはずの文官達はレナードの政務室に寄り付こうともしないし、話しかけても曖昧な笑みを浮かべて逃げ去っていく。

 それにフランツェスカの側近だった貴族の子弟達も早々に側近の座を辞退していき、レナードには側近と呼べるものはたった一人もいなかった。

 かつて、レナードがフランツェスカの傍らで見ていた政務室の光景はどこにもない。
 
 もしここにフランツェスカがいれば。
 『この結果は当たり前ですわ、ざまぁみろ』とか、『この程度で勝った気になっていたなんてお馬鹿さん』とかなんとか鼻で笑いながら言っていただろう。
 
 だがここにはもうフランツェスカはいない。
 レナードに現実を教えてくれる唯一の存在だったのに。
 
 
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