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24 その采配に拍手喝采
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「――王太子妃殿下、こちら少し詰めますね」
「はい」
仕立て屋のマダムが私の背後に立ちそう告げる。
正面の大きな鏡の中では純白のウェディングを纏った自分が、所在なさげな顔をして立っていた。
シュヴァルツヴァルトに来てからというもの、なにやら色々とありすぎてすっかり忘れていましたが。
あと数日でフリード王太子と私の結婚式があるんでした。
白い結婚に純白のウェディングドレス。
いやはや、なかなかに皮肉が効いています。
そんなつまらないことを考えていると。
女官なのに私の侍女をしてくれているレイチェルが、控えめに声を掛けてきました。
「フランツェスカ様、モルゲンロートよりお手紙が届いております」
「私に手紙? はて、誰でしょうか……宛名はどなたになっていますか?」
「バナード・ブラウンと……」
バナードと言えば、モルゲンロート第三騎士団の団長で戦場では私を支えてくれた恩人。
手紙を手に持ってみれば、封蝋には確かにブラウン侯爵家の紋章が押してあった。
シュヴァルツヴァルトにやってきてからまだ数日、なにかあったのかなと封を切った。
手紙にざっと目を通せば。
その内容に乾いた笑いがこぼれた。
「これはまた、なんともいえない」
手紙の内容は、あの日クソ親父が言っていた通り。
継承法が王国議会で賛成多数で改正。
それに合わせてリヒター公爵家のレナード・リヒターが次期国王に指名。
それで案の定、国民がその決定に猛反発し王都は混乱。
王宮前では抗議活動が起こり、継承法改正に賛成しなかった一部の貴族達もそれに加わって騒いでいるということでした。
……ああ。本当にやりやがった。
クソ親父は国の根幹をなんだと思っているのか。
しかもなぜよりによってレナードなのか、彼には国王は務まらない。
レナードは顔が広く社交界では人気者で、王配にするにはちょうど良かった。
だけどレナードは下の者を見下す所がある。
結果下の者からは嫌われるし、だれも彼にはついてこない。
王にするならば、いっそアリーシアの方が幾分かマシです。
あの子には人を見下していても、それを悟らせない演技力がありますから。
そんなこと、わかっているはずなのに。
もしかして……あのクソ親父、国を潰すつもりでしょうか?
それならば見事な采配です。
内部からじわじわと崩壊、完璧ですね。
いっそ拍手でも送りましょうか?
「あの、フランツェスカ様? お手紙、なにかありましたか?」
「……あ、いえ。大したことではありません」
母国の恥など、自分の口からわざわざ話したくはありません。
本当に愚かとしか言いようがない。
王宮がどうなろうと私の知ったことではありませんけれど、罪のない民を巻き込むなんて。
脳裏に浮かんだのは王都の街で出会った人々の顔。
真冬の凍える空の下、教会の前で炊き出しを手伝ってくれた孤児院の子ども達。
いつも街で声をかけてくれたパン屋のおばさま。
前線に送られる前日「姫様、必ず生きて帰ってきてください」と手を握ってくれた老婦人。
彼らは今、いったいどんな顔をしているのでしょう。
想像するだけで胸が苦しくなりました。
あの国の上に立つ者たちは自分のことしか考えていない。
名誉と財産、その為だけに国民に負担を強いる。
「あの、王太子妃殿下? お加減がすぐれませんか?」
「いえ、なんでもありません。どうぞ続けてください、お願いしますわ」
仕立て屋のマダムが気遣わしそうな声を出す。
クソ親父やレナードの事を思い出していたからきっと、顔が怖かったのでしょう。
にこりと微笑んで、私は鏡の中の自分に視線を戻しました。
うん、完璧な笑顔。
……異母妹アリーシアには負けますが。
「――王太子妃殿下、こちら少し詰めますね」
「はい」
仕立て屋のマダムが私の背後に立ちそう告げる。
正面の大きな鏡の中では純白のウェディングを纏った自分が、所在なさげな顔をして立っていた。
シュヴァルツヴァルトに来てからというもの、なにやら色々とありすぎてすっかり忘れていましたが。
あと数日でフリード王太子と私の結婚式があるんでした。
白い結婚に純白のウェディングドレス。
いやはや、なかなかに皮肉が効いています。
そんなつまらないことを考えていると。
女官なのに私の侍女をしてくれているレイチェルが、控えめに声を掛けてきました。
「フランツェスカ様、モルゲンロートよりお手紙が届いております」
「私に手紙? はて、誰でしょうか……宛名はどなたになっていますか?」
「バナード・ブラウンと……」
バナードと言えば、モルゲンロート第三騎士団の団長で戦場では私を支えてくれた恩人。
手紙を手に持ってみれば、封蝋には確かにブラウン侯爵家の紋章が押してあった。
シュヴァルツヴァルトにやってきてからまだ数日、なにかあったのかなと封を切った。
手紙にざっと目を通せば。
その内容に乾いた笑いがこぼれた。
「これはまた、なんともいえない」
手紙の内容は、あの日クソ親父が言っていた通り。
継承法が王国議会で賛成多数で改正。
それに合わせてリヒター公爵家のレナード・リヒターが次期国王に指名。
それで案の定、国民がその決定に猛反発し王都は混乱。
王宮前では抗議活動が起こり、継承法改正に賛成しなかった一部の貴族達もそれに加わって騒いでいるということでした。
……ああ。本当にやりやがった。
クソ親父は国の根幹をなんだと思っているのか。
しかもなぜよりによってレナードなのか、彼には国王は務まらない。
レナードは顔が広く社交界では人気者で、王配にするにはちょうど良かった。
だけどレナードは下の者を見下す所がある。
結果下の者からは嫌われるし、だれも彼にはついてこない。
王にするならば、いっそアリーシアの方が幾分かマシです。
あの子には人を見下していても、それを悟らせない演技力がありますから。
そんなこと、わかっているはずなのに。
もしかして……あのクソ親父、国を潰すつもりでしょうか?
それならば見事な采配です。
内部からじわじわと崩壊、完璧ですね。
いっそ拍手でも送りましょうか?
「あの、フランツェスカ様? お手紙、なにかありましたか?」
「……あ、いえ。大したことではありません」
母国の恥など、自分の口からわざわざ話したくはありません。
本当に愚かとしか言いようがない。
王宮がどうなろうと私の知ったことではありませんけれど、罪のない民を巻き込むなんて。
脳裏に浮かんだのは王都の街で出会った人々の顔。
真冬の凍える空の下、教会の前で炊き出しを手伝ってくれた孤児院の子ども達。
いつも街で声をかけてくれたパン屋のおばさま。
前線に送られる前日「姫様、必ず生きて帰ってきてください」と手を握ってくれた老婦人。
彼らは今、いったいどんな顔をしているのでしょう。
想像するだけで胸が苦しくなりました。
あの国の上に立つ者たちは自分のことしか考えていない。
名誉と財産、その為だけに国民に負担を強いる。
「あの、王太子妃殿下? お加減がすぐれませんか?」
「いえ、なんでもありません。どうぞ続けてください、お願いしますわ」
仕立て屋のマダムが気遣わしそうな声を出す。
クソ親父やレナードの事を思い出していたからきっと、顔が怖かったのでしょう。
にこりと微笑んで、私は鏡の中の自分に視線を戻しました。
うん、完璧な笑顔。
……異母妹アリーシアには負けますが。
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