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25 国婚
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「フランツェスカ様、ご準備が整いました」
「……わかりました。では……行きましょうか」
そして開かれた扉の先。
眼前に広がったのは、息を呑むほどに美しい白の大聖堂だった。
青の洪水のようなステンドグラスから差し込む光は美しく、高い天井から吊るされた無数の燭台が金色の光を揺らめかせている。
荘厳で美しいその光景に、目を奪われた。
……ほう、これはお見事。
曲がりなりにも国婚といったところでしょうか。
用意されたウェディングドレスも一目見て一級品だとわかるほど上質で、私の為に作らせたと言われたらそうなのかと納得してしまうような美しいドレスだった。
パイプオルガンの重厚な音色が流れる大聖堂を私はたった一人、顔に嫋やかな淑女の笑みを張り付けて歩く。
一歩、また一歩軽やかに。
それでいて堂々と。
モルゲンロート第一王女の名に恥じぬように。
女王となるべく生きてきた過去を置き去りにして。
シュヴァルツヴァルトの貴族達が値踏みでもするような目で見守る中、バージンロードを私は一人歩いた。
そしてたどり着いた先にいたのは言わずもがな。
漆黒の軍装を纏ったシュヴァルツヴァルトの王太子、フリード・ルートヴィヒ・シュヴァルツヴァルトでした。
黒檀のような黒髪に薄氷のような青の瞳。
その顔立ちは、視界に入れた瞬間誰しもが見惚れてしまうほど恐ろしく整っている。
だから今も式に列席する令嬢たちが「素敵」やら「かっこいい」やらと、感嘆の声を漏らしている。
けれど私はそれを全く素敵だとは思えないし、どちらかといえば憎たらしく感じでしまいます。
それはこの男とのこれまでの因縁からというよりも、『愛するつもりはない』と初対面で宣ってきたからでしょう。
「フランツェスカ・モルゲンロート。あなたはこの男を健やかなるときも病めるときも、喜びの時も悲しみの時も、富める時も貧しい時も、愛し敬い、助け合い、その命ある限り愛することを誓いますか?」
「……はい。誓いますわ」
心の中で『神様ごめんなさい、愛はありません』『国の為なので許してくださいませ』と付け足します。
「フリード・ルートヴィヒ・シュヴァルツヴァルト。あなたはこの女を健やかなるときも病めるときも、喜びの時も悲しみの時も、富める時も貧しい時も、愛し敬い、助け合い、その命ある限り愛することを誓いますか?」
「はい、愛すると誓います。この命にかけて」
……いやいやいや。
『愛さない』って貴方私に言ってたでしょう?
なに命にかけてって。
神前でそんな嘘、わざわざつく必要あります……?
そして神父様が「それでは、誓いのキスを」と告げた瞬間、私は心の中で小さく深呼吸をした。
まあこれはたぶん形だけでしょう。
軽く唇を寄せて、はい終了!
なにせ相手は『愛するつもりはない』と初対面で私に宣った男ですし。
私もそんな相手とキスなんて、してやる義理はこれっぽっちもない。
だから私は目を閉じて、ほんの少しだけ顔を上げた。
――すると。
柔らかくも、決して逃がさないような……優しい温もりが唇に降りてきて。
一瞬、心臓が止まりそうになった。
……いや、いやいやいやちょっと待て!?
誰が本当にキスしろっていいました?
あ、もしやこれは観客サービス?
いやでも貴方それ、白い結婚の範疇を余裕で越えてしまっていますけど?
そして横目でちらりと後ろを見れば。
大聖堂内はシン……と、静まり返り。
列席者達の驚きの視線が一斉に、私達二人へと注がれているのが見えた。
そして遠くからはご婦人達の「まあ……! なんて素敵なの!」「私、昔を思い出しましたわ!」という感動の声が耳に聞こえてきて――。
いや、ちょっと待って?
みなさんこれは誤解です!
これは演出! そう、ただの演技!
お互いに愛なんて感情は、ほんの一欠片たりともありません!
いや本当に。
ありません、よね……?
「フランツェスカ様、ご準備が整いました」
「……わかりました。では……行きましょうか」
そして開かれた扉の先。
眼前に広がったのは、息を呑むほどに美しい白の大聖堂だった。
青の洪水のようなステンドグラスから差し込む光は美しく、高い天井から吊るされた無数の燭台が金色の光を揺らめかせている。
荘厳で美しいその光景に、目を奪われた。
……ほう、これはお見事。
曲がりなりにも国婚といったところでしょうか。
用意されたウェディングドレスも一目見て一級品だとわかるほど上質で、私の為に作らせたと言われたらそうなのかと納得してしまうような美しいドレスだった。
パイプオルガンの重厚な音色が流れる大聖堂を私はたった一人、顔に嫋やかな淑女の笑みを張り付けて歩く。
一歩、また一歩軽やかに。
それでいて堂々と。
モルゲンロート第一王女の名に恥じぬように。
女王となるべく生きてきた過去を置き去りにして。
シュヴァルツヴァルトの貴族達が値踏みでもするような目で見守る中、バージンロードを私は一人歩いた。
そしてたどり着いた先にいたのは言わずもがな。
漆黒の軍装を纏ったシュヴァルツヴァルトの王太子、フリード・ルートヴィヒ・シュヴァルツヴァルトでした。
黒檀のような黒髪に薄氷のような青の瞳。
その顔立ちは、視界に入れた瞬間誰しもが見惚れてしまうほど恐ろしく整っている。
だから今も式に列席する令嬢たちが「素敵」やら「かっこいい」やらと、感嘆の声を漏らしている。
けれど私はそれを全く素敵だとは思えないし、どちらかといえば憎たらしく感じでしまいます。
それはこの男とのこれまでの因縁からというよりも、『愛するつもりはない』と初対面で宣ってきたからでしょう。
「フランツェスカ・モルゲンロート。あなたはこの男を健やかなるときも病めるときも、喜びの時も悲しみの時も、富める時も貧しい時も、愛し敬い、助け合い、その命ある限り愛することを誓いますか?」
「……はい。誓いますわ」
心の中で『神様ごめんなさい、愛はありません』『国の為なので許してくださいませ』と付け足します。
「フリード・ルートヴィヒ・シュヴァルツヴァルト。あなたはこの女を健やかなるときも病めるときも、喜びの時も悲しみの時も、富める時も貧しい時も、愛し敬い、助け合い、その命ある限り愛することを誓いますか?」
「はい、愛すると誓います。この命にかけて」
……いやいやいや。
『愛さない』って貴方私に言ってたでしょう?
なに命にかけてって。
神前でそんな嘘、わざわざつく必要あります……?
そして神父様が「それでは、誓いのキスを」と告げた瞬間、私は心の中で小さく深呼吸をした。
まあこれはたぶん形だけでしょう。
軽く唇を寄せて、はい終了!
なにせ相手は『愛するつもりはない』と初対面で私に宣った男ですし。
私もそんな相手とキスなんて、してやる義理はこれっぽっちもない。
だから私は目を閉じて、ほんの少しだけ顔を上げた。
――すると。
柔らかくも、決して逃がさないような……優しい温もりが唇に降りてきて。
一瞬、心臓が止まりそうになった。
……いや、いやいやいやちょっと待て!?
誰が本当にキスしろっていいました?
あ、もしやこれは観客サービス?
いやでも貴方それ、白い結婚の範疇を余裕で越えてしまっていますけど?
そして横目でちらりと後ろを見れば。
大聖堂内はシン……と、静まり返り。
列席者達の驚きの視線が一斉に、私達二人へと注がれているのが見えた。
そして遠くからはご婦人達の「まあ……! なんて素敵なの!」「私、昔を思い出しましたわ!」という感動の声が耳に聞こえてきて――。
いや、ちょっと待って?
みなさんこれは誤解です!
これは演出! そう、ただの演技!
お互いに愛なんて感情は、ほんの一欠片たりともありません!
いや本当に。
ありません、よね……?
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