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34 嘘も方便、結果良ければ全て良し
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「――フランツェスカ!」
その声が王宮の中庭に響いた瞬間。
落ち着きを取り戻し始めていた空気が、再びぴんと張り詰めた。
声がした方へと視線を向ければ、そこにいたのは予想通りフリード。
そしてフリードの薄氷のような青い瞳が冷たく捉えるのは、案の定私の隣にいたクラウディーヌ公爵令嬢で。
「フリード様、どうしてここに……」
その姿を見た途端。
クラウディーヌ公爵令嬢は怯えたように身をすくませ、顔を真っ青にして震えだした。
そしてよく見ると唇を噛みしめ、両手をぎゅっと胸の前で握りしめていた。
……ああ、まずい。
せっかくいい感じで収まりそうだったのに、なぜこのタイミング。
ここでフリードがクラウディーヌ公爵令嬢を叱責すれば、全て水の泡。
「クラウディーヌ。お前……また――」
冷たい声が響く。
その声には明らかに怒気が含まれていた。
王族に対する不敬。
たとえ名門貴族の令嬢であろうと、それは許されない。
でもだからといって、好きだった相手に責められたらクラウディーヌ公爵令嬢があまりにも不憫ですし残酷過ぎます。
だからフリードの怒りの原因になっていると思われる私が、この場をなんとかしないといけません。
「フリード様、あの、私は……」
今にも泣きだしてしまいそうなクラウディーヌ公爵令嬢に一歩、フリードが近づいた。
「あら、フリード! 丁度よい所にいらっしゃいましたわ。ねぇ、お聞きになってくださいませ? 私、先ほどクラウディーヌ公爵令嬢とお友達になりましたの! シュヴァルツヴァルトにやって来てから初めてのお友達ですのよ? すごいでしょう?」
「え? 友達……」
私がそう呼びかけるとフリードは、信じられないとでも言いたげに目をパチパチと瞬かせた。
そしてその場にいた貴婦人達も声を揃えたように、「え?」という疑問の声をこぼした。
ええ、そうでしょうね。
ついさっきまで敵意むき出しで、舌戦を繰り広げていた相手と突然のお友達宣言。
――自分でもだいぶ無茶言ってると思います。
ですが嘘も方便、これで事態が収まるならいくらでも嘘をつきましょう。
「そういえば、フリードはなんの御用でこちらに? もしかして……私がいじめられているとでも思われましたの? ふふっ、フリードは心配症ですわね。皆さん私にとても優しく親切にしてくださいましたのよ?」
にっこりと微笑み、フリードに目で訴える。
嘘だと気付いていても、これで納得して。
それが一番いい、ここで揉めてもお互いにいい事がなに一つもない。
「……そうですか。それは良かった。もしフランツェスカが傷つけられるような事があれば、私は傷つけた相手を決して許す事ができません。徹底的に叩き潰すでしょう」
フリードは一瞬、クラウディーヌ公爵に視線を向けて、厳しい顔をしましたが。
――すぐに表情を緩めてくれた。
「まあ、そんな風に思っていただいていたなんて。嬉しいですわ、フリード。ですが私、自分の事は自分で守れますのでなにもご心配なく」
実際問題として。
どうして私が絡むと、フリードはいつもすぐに怒り出すのでしょうか。
私はフリードに守ってもらわなくても何ら問題ないというか、余計なお世話というか。
正直、後がとても面倒なので怒ったりするのはやめていただきたい。
「……心配しますよ、あなたは優しすぎる。それに愛する妻を守るのは夫の役目ですので」
……なにが愛する妻ですか。
演技にしても、ちょっと度を超えています。
いやまあ、私もさっき大嘘をついたので人の事をとやかく言えませんが。
本人を目の前にして、それがよく言えますね。
恥ずかしくないのでしょうか?
そんな私達の姿を見た貴婦人達からは、敬意と憧れが混じったような囁き声が聞こえてきた。
「まあ、なんて寛大なお方なのでしょう」
「王太子妃殿下がこんなにもお優しいなんて、私……感動いたしましたわ」
「王太子殿下が王太子妃殿下に夢中になられるのも、わかったような気がいたします」
そんな風に口々に誉め称えられて、なんだか少しくすぐったい。
でもまあこれで、この件に関しては一件落着。
王太子妃の立場的にも悪くない結果だし、クラウディーヌ公爵令嬢も守ることができた。
結果としては上出来でしょう。
……でもまだ問題は残っています。
「あの、フリード……それと王妃殿下。少しご相談したい事がございますの。後でお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
「ええ、私は構いませんが……母上もよろしいでしょうか? いっそ父上も呼びますか?」
「そうね、なら家族水入らずでお茶でも飲みながらお話しいたしましょうか。あれからお話する機会もございませんでしたし、丁度いいですわね!」
「ありがとうございます。ではまた後ほど、フリードと一緒にお伺いさせていただきます」
「ええ、クラウスも呼んでおくわね。ふふっ、娘から相談なんて嬉しいわ。なんでも気軽におっしゃってね! フリードの愚痴かしらね?」
王妃殿下、それ冗談が過ぎます。
けれど、その温かい笑みに少しだけ心がほぐれたのも事実でした。
「――フランツェスカ!」
その声が王宮の中庭に響いた瞬間。
落ち着きを取り戻し始めていた空気が、再びぴんと張り詰めた。
声がした方へと視線を向ければ、そこにいたのは予想通りフリード。
そしてフリードの薄氷のような青い瞳が冷たく捉えるのは、案の定私の隣にいたクラウディーヌ公爵令嬢で。
「フリード様、どうしてここに……」
その姿を見た途端。
クラウディーヌ公爵令嬢は怯えたように身をすくませ、顔を真っ青にして震えだした。
そしてよく見ると唇を噛みしめ、両手をぎゅっと胸の前で握りしめていた。
……ああ、まずい。
せっかくいい感じで収まりそうだったのに、なぜこのタイミング。
ここでフリードがクラウディーヌ公爵令嬢を叱責すれば、全て水の泡。
「クラウディーヌ。お前……また――」
冷たい声が響く。
その声には明らかに怒気が含まれていた。
王族に対する不敬。
たとえ名門貴族の令嬢であろうと、それは許されない。
でもだからといって、好きだった相手に責められたらクラウディーヌ公爵令嬢があまりにも不憫ですし残酷過ぎます。
だからフリードの怒りの原因になっていると思われる私が、この場をなんとかしないといけません。
「フリード様、あの、私は……」
今にも泣きだしてしまいそうなクラウディーヌ公爵令嬢に一歩、フリードが近づいた。
「あら、フリード! 丁度よい所にいらっしゃいましたわ。ねぇ、お聞きになってくださいませ? 私、先ほどクラウディーヌ公爵令嬢とお友達になりましたの! シュヴァルツヴァルトにやって来てから初めてのお友達ですのよ? すごいでしょう?」
「え? 友達……」
私がそう呼びかけるとフリードは、信じられないとでも言いたげに目をパチパチと瞬かせた。
そしてその場にいた貴婦人達も声を揃えたように、「え?」という疑問の声をこぼした。
ええ、そうでしょうね。
ついさっきまで敵意むき出しで、舌戦を繰り広げていた相手と突然のお友達宣言。
――自分でもだいぶ無茶言ってると思います。
ですが嘘も方便、これで事態が収まるならいくらでも嘘をつきましょう。
「そういえば、フリードはなんの御用でこちらに? もしかして……私がいじめられているとでも思われましたの? ふふっ、フリードは心配症ですわね。皆さん私にとても優しく親切にしてくださいましたのよ?」
にっこりと微笑み、フリードに目で訴える。
嘘だと気付いていても、これで納得して。
それが一番いい、ここで揉めてもお互いにいい事がなに一つもない。
「……そうですか。それは良かった。もしフランツェスカが傷つけられるような事があれば、私は傷つけた相手を決して許す事ができません。徹底的に叩き潰すでしょう」
フリードは一瞬、クラウディーヌ公爵に視線を向けて、厳しい顔をしましたが。
――すぐに表情を緩めてくれた。
「まあ、そんな風に思っていただいていたなんて。嬉しいですわ、フリード。ですが私、自分の事は自分で守れますのでなにもご心配なく」
実際問題として。
どうして私が絡むと、フリードはいつもすぐに怒り出すのでしょうか。
私はフリードに守ってもらわなくても何ら問題ないというか、余計なお世話というか。
正直、後がとても面倒なので怒ったりするのはやめていただきたい。
「……心配しますよ、あなたは優しすぎる。それに愛する妻を守るのは夫の役目ですので」
……なにが愛する妻ですか。
演技にしても、ちょっと度を超えています。
いやまあ、私もさっき大嘘をついたので人の事をとやかく言えませんが。
本人を目の前にして、それがよく言えますね。
恥ずかしくないのでしょうか?
そんな私達の姿を見た貴婦人達からは、敬意と憧れが混じったような囁き声が聞こえてきた。
「まあ、なんて寛大なお方なのでしょう」
「王太子妃殿下がこんなにもお優しいなんて、私……感動いたしましたわ」
「王太子殿下が王太子妃殿下に夢中になられるのも、わかったような気がいたします」
そんな風に口々に誉め称えられて、なんだか少しくすぐったい。
でもまあこれで、この件に関しては一件落着。
王太子妃の立場的にも悪くない結果だし、クラウディーヌ公爵令嬢も守ることができた。
結果としては上出来でしょう。
……でもまだ問題は残っています。
「あの、フリード……それと王妃殿下。少しご相談したい事がございますの。後でお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
「ええ、私は構いませんが……母上もよろしいでしょうか? いっそ父上も呼びますか?」
「そうね、なら家族水入らずでお茶でも飲みながらお話しいたしましょうか。あれからお話する機会もございませんでしたし、丁度いいですわね!」
「ありがとうございます。ではまた後ほど、フリードと一緒にお伺いさせていただきます」
「ええ、クラウスも呼んでおくわね。ふふっ、娘から相談なんて嬉しいわ。なんでも気軽におっしゃってね! フリードの愚痴かしらね?」
王妃殿下、それ冗談が過ぎます。
けれど、その温かい笑みに少しだけ心がほぐれたのも事実でした。
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