死を望まれた王女は敵国で白い結婚を望む。「ご安心ください、私もあなたを愛するつもりはありません」

千紫万紅

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55 隠し事

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「王太子妃殿下、起きてくださいませ」
 
 その声にふと目が覚めると、ベッドの周りには侍女が数人私を見下ろすように待機していた。

「どうか……なさいまして?」

「王太子妃殿下にお客様がお見えでございます」

「こんな朝早くにお客様……? えっと、それは……いったいどなたかしら?」

「帝国よりのお客様だと、お聞きしております」

 帝国、その言葉に心臓がどきりと跳ねた。
 
 まさか、そんな……きっと違う。
 私の想像した人とはたぶん違う、ぬか喜びしても後が辛いだけ。

 きっと帝国から結婚の祝いでも持って使者がきただけ。
 帝国は亡くなったお母様の母国だから。

「……わかりました。すぐに支度いたしましょう」

 侍女たちの手を借りて急いで髪を整え、ドレスに袖を通す。
 鏡の中の自分が、いつもよりわずかにそわそわとしているのがわかった。
 
 期待しても無駄なのに。
 頭ではそう思うのに、どうしても心が期待してしまう。

 準備を整えて足早に部屋を出た。
 
 そして扉を開けた先。
 そこには、懐かしい笑顔が待っていた。
 
「姫様」
 
「っ……ヘルマ!?」

 迷うことなく私はヘルマのそばに駆け寄った。
 そして互いの手を取り合った。

 もう二度と触れられないと思っていた、その温もり。
 モルゲンロートで過ごした日々が、一気に蘇る。

「お元気そうで、よろしゅうございました」

「ヘルマ……どうして、帝国に帰ったのでは……?」

 突然の再会に、信じられない思いと喜びで胸がいっぱいになった。
 
 ……けれどどうして。
 どうしてヘルマがここに?
 
 だってヘルマは帝国に帰らされたはず、なのにどうして。
 
 ――そんな疑問を解いてくれたのは。

「フランツェスカ。彼女を呼んだのは……私です」
 
 フリードの穏やかな声が背後から聞こえた。

「え、どうして……」

「以前、フランツェスカが大切な侍女だとおっしゃっていたので。帝国に書簡を出させていただき、もう一度フランツェスカの傍に仕えさせていただけないかお願いをしていました。来ていただけるかどうか確証がなく、ご報告が遅れてしまいました。大変申し訳ありません」

「フリード、ありがとう。貴方にはなんとお礼を言っていいのか……」

「いえ、そんな……大したことではありませんので」

 そう言いながら、フリードは穏やかな笑みを浮かべていた。
 けれど、その笑顔の奥にほんのわずかな違和感があった。

 フリードは私になにかを悟られまいとして笑っている。
 なにを隠しているのかその笑顔からは見当もつかない。
 けれどそれが重要なことであることだけは、なんとなく推察できる。

「フリード。私になにか隠し事ですか?」

 ――だから。
 単刀直入に聞いてみることにしたのです。
 

 
 
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