56 / 68
56 氷の微笑み
しおりを挟む
56
フリード相手に貴族らしい遠回しな言い方で聞いても、きっと時間の無駄になる。
それに少しでも言葉を誤れば、きっとフリードは巧みに躱して煙に巻いてくるでしょう。
だから私は。
――単刀直入に聞いてみることにしたのです。
「……フリード。私になにか隠し事ですか?」
フリードは一瞬驚いたように私を見たあと、苦しげな表情で視線を逸らした。
……けれどすぐ息を整え、覚悟を決めたようにこちらを見据えてきたのです。
「フランツェスカ。私は……貴女に隠し事をしたくない。ですがこれを伝えることによって貴女を苦しませてしまう。私はそんな姿、見たくありません」
「ではそれは私に関すること、なのですね?」
「ええ、そうです。そしてこれは昨夜貴女に頼まれた内容でもあります」
「……そうですか。でも、大丈夫です! 私は今、一人じゃない。ヘルマも……それにフリードも、私のそばにいてくださいますでしょう?」
私がそう答えると。
フリードはふぅ……と息を吐き。
まるで『国を揺るがすような重大な問題が発生している』とでも言いたげな顔をした。
「わかりました、話しましょう。ですが落ち着いて聞いてくださいね」
「はい」
「――実は、貴女のお父上が言っていた例の件です」
「……置き土産、ですか?」
「はい、その通りです。詳しくは……帝国の皇帝陛下からの手紙を読んでいただければ……」
帝国の皇帝陛下といえば今は亡きお母様のお兄様で、私にとっては叔父にあたる方。
そして私の誕生日には、毎年欠かさず素敵なプレゼントを贈ってくださる姪思いの優しい叔父様。
「確かに……皇帝陛下の印章が入ってますね」
フリードから手紙を受け取り、印章を確認する。
見覚えのある帝国の封蝋、間違いありません。
それにこの印章は何度も見たことがありますから、皇帝陛下の手紙で間違いないでしょう。
「はい、封蝋も間違いなく帝国のものでした。そしてこれを所持されていたのはそこにいる貴女の侍女ヘルマです」
「え、ヘルマが?」
驚いて顔を向けると、ヘルマは真剣な表情で小さく頷いた。
「これは一応私宛でしたが。実際はフランツェスカ、貴女宛てです」
手紙を受け取り、急いで文面に目を通す。
――血の気が引いた。
手紙に記されていた内容が、あまりにも酷く。
信じがたいものだったから――。
――今から二十年前。
帝国はとある条件と引き換えに、莫大な資金をモルゲンロートへ援助した。
……その条件とは。
皇女アダルハイダを正妃に迎えること。
そして、皇女アダルハイダが産んだ子を次代の王に据えること。
さらに、その約定を破った場合。
モルゲンロートは帝国の属国とされ、王族は全員処刑。
貴族は例外なく全ての財産を没収、そして爵位を剥奪されて平民へと落とされる。
――という衝撃的なものだったのです。
「は……?」
信じられない。
けれどこの印章も手紙の筆跡も、間違いなく皇帝陛下のもの。
何度も見た、見間違えるはずがない。
だからこれは紛れもなく。
――真実。
私が怒って騒ぎだすか、泣くとでも思っているのでしょう。
視界の端で、フリードが気遣わしげな顔で私の様子を伺っているのが見えました。
……でも大丈夫。
この程度で泣いたり怒ったりはいたしません。
丁寧に手紙を折り畳みそっと封筒へ戻す。
そして私は優雅に微笑んだ。
「フリード。お父様を呼んでいただけますか? ああ、それと……フリードのご両親もご一緒に」
フリード相手に貴族らしい遠回しな言い方で聞いても、きっと時間の無駄になる。
それに少しでも言葉を誤れば、きっとフリードは巧みに躱して煙に巻いてくるでしょう。
だから私は。
――単刀直入に聞いてみることにしたのです。
「……フリード。私になにか隠し事ですか?」
フリードは一瞬驚いたように私を見たあと、苦しげな表情で視線を逸らした。
……けれどすぐ息を整え、覚悟を決めたようにこちらを見据えてきたのです。
「フランツェスカ。私は……貴女に隠し事をしたくない。ですがこれを伝えることによって貴女を苦しませてしまう。私はそんな姿、見たくありません」
「ではそれは私に関すること、なのですね?」
「ええ、そうです。そしてこれは昨夜貴女に頼まれた内容でもあります」
「……そうですか。でも、大丈夫です! 私は今、一人じゃない。ヘルマも……それにフリードも、私のそばにいてくださいますでしょう?」
私がそう答えると。
フリードはふぅ……と息を吐き。
まるで『国を揺るがすような重大な問題が発生している』とでも言いたげな顔をした。
「わかりました、話しましょう。ですが落ち着いて聞いてくださいね」
「はい」
「――実は、貴女のお父上が言っていた例の件です」
「……置き土産、ですか?」
「はい、その通りです。詳しくは……帝国の皇帝陛下からの手紙を読んでいただければ……」
帝国の皇帝陛下といえば今は亡きお母様のお兄様で、私にとっては叔父にあたる方。
そして私の誕生日には、毎年欠かさず素敵なプレゼントを贈ってくださる姪思いの優しい叔父様。
「確かに……皇帝陛下の印章が入ってますね」
フリードから手紙を受け取り、印章を確認する。
見覚えのある帝国の封蝋、間違いありません。
それにこの印章は何度も見たことがありますから、皇帝陛下の手紙で間違いないでしょう。
「はい、封蝋も間違いなく帝国のものでした。そしてこれを所持されていたのはそこにいる貴女の侍女ヘルマです」
「え、ヘルマが?」
驚いて顔を向けると、ヘルマは真剣な表情で小さく頷いた。
「これは一応私宛でしたが。実際はフランツェスカ、貴女宛てです」
手紙を受け取り、急いで文面に目を通す。
――血の気が引いた。
手紙に記されていた内容が、あまりにも酷く。
信じがたいものだったから――。
――今から二十年前。
帝国はとある条件と引き換えに、莫大な資金をモルゲンロートへ援助した。
……その条件とは。
皇女アダルハイダを正妃に迎えること。
そして、皇女アダルハイダが産んだ子を次代の王に据えること。
さらに、その約定を破った場合。
モルゲンロートは帝国の属国とされ、王族は全員処刑。
貴族は例外なく全ての財産を没収、そして爵位を剥奪されて平民へと落とされる。
――という衝撃的なものだったのです。
「は……?」
信じられない。
けれどこの印章も手紙の筆跡も、間違いなく皇帝陛下のもの。
何度も見た、見間違えるはずがない。
だからこれは紛れもなく。
――真実。
私が怒って騒ぎだすか、泣くとでも思っているのでしょう。
視界の端で、フリードが気遣わしげな顔で私の様子を伺っているのが見えました。
……でも大丈夫。
この程度で泣いたり怒ったりはいたしません。
丁寧に手紙を折り畳みそっと封筒へ戻す。
そして私は優雅に微笑んだ。
「フリード。お父様を呼んでいただけますか? ああ、それと……フリードのご両親もご一緒に」
1,333
あなたにおすすめの小説
《完結》氷の侯爵令息 あなたが子供はいらないと言ったから
ヴァンドール
恋愛
氷の侯爵令息と言われたアラン。彼は結婚相手の伯爵令嬢にとにかく冷たい態度で接する。
彼女は義姉イライザから夫が子供はいらないと言ったと聞き、衝撃を受けるが気持ちを切り替え生きていく。
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
【完結】氷の令嬢は愛を請わない - 捨て子の『義妹』に愛も家族も奪われたマリーローズの逆襲
恋せよ恋
恋愛
銀髪紫眼の美貌の侯爵令嬢、マリーローズ。
完璧な淑女に育った彼女だったが、母は捨て子ジュリエットを寵愛。
婚約者の公爵家嫡男アレックスも、友人も、次々に奪われる――。
家族に裏切られ、すべてを失った彼女が下した決断は、
家族を見かぎり、国を捨て、自らの人生を取り戻すこと。
理不尽な悲恋を力に変え、運命をひっくり返す令嬢の逆転劇!
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?
詩海猫(8/29書籍発売)
恋愛
私の家は子爵家だった。
高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。
泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。
私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。
八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。
*文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*
婚約破棄されたので、もう誰の役にも立たないことにしました 〜静かな公爵家で、何もしない私の本当の人生が始まります〜
ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、
完璧であることを求められ続けてきた令嬢エリシア。
だがある日、彼女は一方的に婚約を破棄される。
理由は簡単だった。
「君は役に立ちすぎた」から。
すべてを失ったはずの彼女が身を寄せたのは、
“静かな公爵”と呼ばれるアルトゥール・クロイツの屋敷。
そこで待っていたのは――
期待も、役割も、努力の強要もない日々だった。
前に出なくていい。
誰かのために壊れなくていい。
何もしなくても、ここにいていい。
「第二の人生……いえ、これからが本当の人生です」
婚約破棄ざまぁのその先で描かれる、
何者にもならなくていいヒロインの再生と、
放っておく優しさに満ちた静かな溺愛。
これは、
“役に立たなくなった”令嬢が、
ようやく自分として生き始める物語。
私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません
藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は
愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。
夫が愛人を持つことも、
その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。
けれど――
跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。
その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。
私は悟ったのだ。
この家では、息子を守れないと。
元々、実家との間には
「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。
ならば話は簡単だ。
役目を終えた私は、離縁を選ぶ。
息子と共に、この家を去るだけ。
後悔しているようですが――
もう、私の知るところではありません。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる