死を望まれた王女は敵国で白い結婚を望む。「ご安心ください、私もあなたを愛するつもりはありません」

千紫万紅

文字の大きさ
57 / 68

57 超えてはならない一線。

しおりを挟む
56

 ――その日の午後。
 ささやかなお茶会を開いた。

 主催はもちろん、私フランツェスカ。

 麗らかな午後の日差しが差し込む王宮の一室。
 テーブルの上には、冬の花をあしらった白磁のティーセット。
 香ばしく焼かれた焼き菓子の甘い香りと、お茶の香りが優雅に漂う。

 場の雰囲気は我ながら完璧で、至って普通のお茶会に見えることでしょう。
 
 このお茶会に招待したのは。
 この国、シュヴァルツヴァルトの国王クラウスと、その妃リーゼロッテ。
 そして……我が父ルドルフの三人。
 
「お忙しい中、お越しいただきありがとうございます」

 笑顔を浮かべて席へ案内すると。
 皆様、予想通りご機嫌です。

「ご招待ありがとう、フランツェスカさん。とっても嬉しいわ」

「私まで呼んで貰えるとはな? 娘をもつというのはこんな感じなのか。ルドルフ」

「……いや、私も娘の茶会に呼ばれたのはこれが初めてだ。そういえばフランツェスカが茶会など開いているのを、私は一度もみたことがないな?」

 私の茶会に招かれたことが皆様大層嬉しいようで、笑顔を浮かべ口々に感謝を述べている。
 
 ……だけど。
 私が視線を向けると居心地が途端に悪くなるらしく、次第に目を合わせてくれなくなりました。

 白磁のポットから注がれる茶の香りが、ゆるやかに立ちのぼる。
 その華やかな甘い香りとは裏腹に、場の空気は次第に重くなっていく。

 国王夫妻は優雅な笑みを浮かべているけれど、やっぱりどこか居心地が悪いようで。
 互いに視線を交わしていらっしゃいます。
 
 そして我が父ルドルフも私の笑顔になにか違和感を覚えているようで、どこか落ち着きがありません。
 
「……さて。本日は、皆様にどうしてもお伺いしたいことがありまして。お招きいたしました」

 手に持ったカップをソーサーにそっと戻して。
 私は柔らかな笑顔を浮かべ、話し始める。

「まあ……なにかしら? なんでも言ってちょうだい。フランツェスカさんの頼みならなんでも答えてさしあげましてよ? だって私達、もう家族でしょう?」
 
「そうだな。なんでも言ってみると言い、遠慮はいらんぞ」

 シュヴァルツヴァルト国王夫妻は優しげな声で、私に続きを促します。
 そして父ルドルフは、少し戸惑いながらも私の様子を窺っております。

「急に改まってどうした。なにか、あったのか……?」

 そして父ルドルフはといえば。
 私のこういった態度は初めてなので、少し驚いているようでした。

「まぁ、嬉しい! ではお伺いしてもよろしいですか? 帝国とモルゲンロートの条約が違反された場合についての制裁内容」

「っ……なんだそれは?」

 父ルドルフの顔が一瞬、凍り付く。
 けれどすぐに元の軽薄な笑みに戻ります。
 
「……お父様は制裁についてもご存知だったのしょう? この間、帝国の援助についてお話になっていらっしゃいましたもの」

「さぁ、なんだったかな……?」

「……約定を破った場合、その制裁としてモルゲンロートは帝国の属国とされ、王族は全員処刑。貴族は例外なく全ての財産を没収、そして爵位を剥奪されて平民へと落とされる。というものですわ」

「……それを、誰に聞いた」
 
 私がそう問えば。
 父ルドルフの声が低くなり、顔からどこか投げやりで軽薄な笑みが消え去っていく。

 その様子に私はさらに笑みを深める。

 ……やはりこれが例の置き土産の正体。
 よくもまあこんなことを隠していたものです。 
 
「ある方からお手紙をいただきました。さて、お父様。その罰則があるとわかった上で私をこの国に嫁がせた……その真意をお聞かせ願えないでしょうか?」

「お前には関係のないことだ。お前はもうシュヴァルツヴァルトの王太子妃なんだから……」

「……関係ない? 笑わせないでいただけますか、このクソ親父」

「な……!?」

 ――その瞬間、場の空気が一瞬で張り詰めた。 

 そして私の暴言に父ルドルフはぎょっとして、言葉を詰まらせる。

 そんな私達親子の様子に。
 話を黙って聞いていた国王クラウスとリーゼロッテ王妃も思わず息を呑んでいらっしゃいます。 

「シュヴァルツヴァルトに嫁にこようが、モルゲンロートが私の大事な国である事になんら変わりはありません。なのに……なに勝手に属国に落とそうとしてやがりますの?」

「フランツェスカ……?」

「あまり私の事を怒らせないでいただけます? いくら実の父親でも……許しませんよ」

 ……絶対に許しません。
 超えてはならない一線を超えたのだから。
 
しおりを挟む
感想 348

あなたにおすすめの小説

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?

詩海猫(8/29書籍発売)
恋愛
私の家は子爵家だった。 高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。 泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。 私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。 八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。 *文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*

《完結》氷の侯爵令息 あなたが子供はいらないと言ったから

ヴァンドール
恋愛
氷の侯爵令息と言われたアラン。彼は結婚相手の伯爵令嬢にとにかく冷たい態度で接する。 彼女は義姉イライザから夫が子供はいらないと言ったと聞き、衝撃を受けるが気持ちを切り替え生きていく。

【完結】氷の令嬢は愛を請わない - 捨て子の『義妹』に愛も家族も奪われたマリーローズの逆襲

恋せよ恋
恋愛
銀髪紫眼の美貌の侯爵令嬢、マリーローズ。 完璧な淑女に育った彼女だったが、母は捨て子ジュリエットを寵愛。 婚約者の公爵家嫡男アレックスも、友人も、次々に奪われる――。 家族に裏切られ、すべてを失った彼女が下した決断は、 家族を見かぎり、国を捨て、自らの人生を取り戻すこと。 理不尽な悲恋を力に変え、運命をひっくり返す令嬢の逆転劇! 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

【完結済】王女に夢中な婚約者様、さようなら 〜自分を取り戻したあとの学園生活は幸せです! 〜

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
王立学園への入学をきっかけに、領地の屋敷から王都のタウンハウスへと引っ越した、ハートリー伯爵家の令嬢ロザリンド。婚約者ルパートとともに始まるはずの学園生活を楽しみにしていた。 けれど現実は、王女殿下のご機嫌を取るための、ルパートからの理不尽な命令の連続。 「かつらと黒縁眼鏡の着用必須」「王女殿下より目立つな」「見目の良い男性、高位貴族の子息らと会話をするな」……。 ルパートから渡された「禁止事項一覧表」に縛られ、ロザリンドは期待とは真逆の、暗黒の学園生活を送ることに。 そんな日々の中での唯一の救いとなったのは、友人となってくれた冷静で聡明な公爵令嬢、ノエリスの存在だった。 学期末、ロザリンドはついにルパートの怒りを買い、婚約破棄を言い渡される。 けれど、深く傷つきながら長期休暇を迎えたロザリンドのもとに届いたのは、兄の友人であり王国騎士団に属する公爵令息クライヴからの婚約の申し出だった。 暗黒の一学期が嘘のように、幸せな長期休暇を過ごしたロザリンド。けれど新学期を迎えると、エメライン王女が接触してきて……。 ※10万文字超えそうなので長編に変更します。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

処理中です...