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64 苛立ち
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モルゲンロート王宮に着いてすぐ、私は不在の間の国政を洗い直した。
……すると案の定、腐敗に次ぐ腐敗と犯罪の数々。
隠す気すらもうないのか、帳簿を数ページめくるだけで不正な資金の流れが浮かび上がった。
「まずは、リヒター公爵」
ただ名を呼んだだけで、リヒター公爵の肩がびくりと跳ねた。
その姿に、苛立ちを覚えた。
「貴方は、自国の王家を貶め、国政を乱し、他国との協定を破った。違いますか?」
「そ、そんなつもりは……!」
「……まだ嘘を吐き続けるのですか? どうせ貴方は処刑となるのです、最後くらい潔い態度を見せてはどうです?」
そう問いかけてリヒター公爵を見据えれば。
公爵はなにも言いかえせず、ただ口をぱくぱくとさせて視線を逸らした。
……本当に見苦しい。
これで国を奪えるつもりだったのでしょうか。
笑わせないでもらいたい。
「アーレンスバッハ公爵及び、そこに並んでいる貴方達も同罪です。後ほど、ひとりずつ話を伺いましょう」
あとでゆっくり。
……己の過ちを後悔していただきましょう。
「ち、違……私達は……」
「これはリヒターが……!」
「第一王女殿下、どうかお慈悲を……」
貴族達は口々に許しを請うてくるが、私の知ったことではない。
泣こうが叫ぼうが関係ない。
モルゲンロートを食い物にした者への慈悲など、あるわけがない。
「そして……レナード。貴方の罪はとても重いものです。わかっていますね?」
王位簒奪。
それは決して許されぬ罪。
「…………」
レナードの肩が小さく震えた。
「私は貴方のことを信頼していました。共に未来を歩むものだと、ずっと……そう思っていた」
「っ、ごめん……」
「……謝ったところで貴方が犯した罪は消えません。そしてその償いには、それ相応の対価が必要です」
私は一歩、レナードに近づいた。
靴音が謁見の間に響く。
「対価……?」
「私が貴方に望むのは……真実を語り、断頭台へ自らの足で向かうこと。ただ、それだけです」
――そう告げた、瞬間。
「第一王女殿下! そうです、この全てはレナードとリヒター公爵が仕組んだこと! 我々は彼らに逆らえず、やむを得ず従っていただけで……」
アーレンスバッハ公爵が、足枷についた鎖を引きずりながら叫んだ。
「……それで?」
「王位簒奪を企てたのはリヒター公爵でして! 私どもは協力させられたにすぎませんっ!」
他の貴族達も次々と声を上げる。
……人間とは、ここまで醜悪になれるのか。
呆れてものがいえない。
「リヒター公爵とレナードが、ですか?」
「は、はい! リヒター公爵が我々を……」
「では、リヒター公爵が主導したという証拠を、今ここで提示していただけますか?」
しん、と空気が止まった。
「……え?」
「証拠があるのでしょう? リヒター公爵が貴方達を脅して命じ、主導した証拠。まさか、口だけではありませんよね? なければ貴方達がただ罪を認めただけになりますが……」
「え、あ、その……」
アーレンスバッハ公爵の額に汗が浮かぶ。
彼が口ごもるのを見て、私はゆっくりと腰に手を当てた。
「貴方はこの場で嘘を吐けるほど愚かではないと思っていましたが……そうではないようですね」
「嘘だなんて! わ、私は……」
ああ、本当に救いようがない。
「ではこちらの証拠を一緒にご覧になって頂いてから、もう一度お話を伺いましょう」
指を鳴らすと、後ろに控えていた騎士が帳簿と書簡の束を差し出した。
そして私はその一冊を手に取り、ぱらりとページをめくった。
「国庫の資金移動の指示。これは貴方の署名ですね、アーレンスバッハ公爵? でもこの資金どこにいったのかしら? 行き先が不明ですね」
「それはその……」
「そして……シュヴァルツヴァルトとの戦争ですが。……なぜ罪もないシュヴァルツヴァルトの村を焼いたのです?」
「っ……!」
アーレンスバッハ公爵の喉が、ごくりと鳴った。
「……答えは簡単。金鉱山から好き放題採掘したかったかったから……ですよね?」
「さらに、この金鉱山と密接に取引し利益を得ていた商会の一覧。あら? 戦争で莫大な利益を得た商会と……同じですね。しかも、それらは皆さんが経営している商会……これはどういうことかしら」
「そ、それは……その……」
貴族たちの顔色がみるみるうちに変わっていく。
「……そしてこちら。私の殺害を指示した書簡。筆跡はリヒター公爵、貴方自身のものです」
「あ、いや……違っ……」
「まだ続きますが、よろしいですか? 側妃と、第二王女アリーシアの出自について……」
「そ、それは!」
焦ったようにリヒター公爵が前に出てくる。
それを騎士が鎖を引いて静止する。
その姿にレナードの瞳が大きく揺れた。
アリーシアについての話題がここで出てくるとは、思っていなかったのでしょう。
そしてリヒター公爵はレナードの前で、アリーシアについて話されるのは嫌と見える。
それもそのはず、レナードとアリーシアは異母兄妹。
なのにこの男はそれを承知の上で、結婚させたのだから。
……私から王位を奪うために。
モルゲンロート王宮に着いてすぐ、私は不在の間の国政を洗い直した。
……すると案の定、腐敗に次ぐ腐敗と犯罪の数々。
隠す気すらもうないのか、帳簿を数ページめくるだけで不正な資金の流れが浮かび上がった。
「まずは、リヒター公爵」
ただ名を呼んだだけで、リヒター公爵の肩がびくりと跳ねた。
その姿に、苛立ちを覚えた。
「貴方は、自国の王家を貶め、国政を乱し、他国との協定を破った。違いますか?」
「そ、そんなつもりは……!」
「……まだ嘘を吐き続けるのですか? どうせ貴方は処刑となるのです、最後くらい潔い態度を見せてはどうです?」
そう問いかけてリヒター公爵を見据えれば。
公爵はなにも言いかえせず、ただ口をぱくぱくとさせて視線を逸らした。
……本当に見苦しい。
これで国を奪えるつもりだったのでしょうか。
笑わせないでもらいたい。
「アーレンスバッハ公爵及び、そこに並んでいる貴方達も同罪です。後ほど、ひとりずつ話を伺いましょう」
あとでゆっくり。
……己の過ちを後悔していただきましょう。
「ち、違……私達は……」
「これはリヒターが……!」
「第一王女殿下、どうかお慈悲を……」
貴族達は口々に許しを請うてくるが、私の知ったことではない。
泣こうが叫ぼうが関係ない。
モルゲンロートを食い物にした者への慈悲など、あるわけがない。
「そして……レナード。貴方の罪はとても重いものです。わかっていますね?」
王位簒奪。
それは決して許されぬ罪。
「…………」
レナードの肩が小さく震えた。
「私は貴方のことを信頼していました。共に未来を歩むものだと、ずっと……そう思っていた」
「っ、ごめん……」
「……謝ったところで貴方が犯した罪は消えません。そしてその償いには、それ相応の対価が必要です」
私は一歩、レナードに近づいた。
靴音が謁見の間に響く。
「対価……?」
「私が貴方に望むのは……真実を語り、断頭台へ自らの足で向かうこと。ただ、それだけです」
――そう告げた、瞬間。
「第一王女殿下! そうです、この全てはレナードとリヒター公爵が仕組んだこと! 我々は彼らに逆らえず、やむを得ず従っていただけで……」
アーレンスバッハ公爵が、足枷についた鎖を引きずりながら叫んだ。
「……それで?」
「王位簒奪を企てたのはリヒター公爵でして! 私どもは協力させられたにすぎませんっ!」
他の貴族達も次々と声を上げる。
……人間とは、ここまで醜悪になれるのか。
呆れてものがいえない。
「リヒター公爵とレナードが、ですか?」
「は、はい! リヒター公爵が我々を……」
「では、リヒター公爵が主導したという証拠を、今ここで提示していただけますか?」
しん、と空気が止まった。
「……え?」
「証拠があるのでしょう? リヒター公爵が貴方達を脅して命じ、主導した証拠。まさか、口だけではありませんよね? なければ貴方達がただ罪を認めただけになりますが……」
「え、あ、その……」
アーレンスバッハ公爵の額に汗が浮かぶ。
彼が口ごもるのを見て、私はゆっくりと腰に手を当てた。
「貴方はこの場で嘘を吐けるほど愚かではないと思っていましたが……そうではないようですね」
「嘘だなんて! わ、私は……」
ああ、本当に救いようがない。
「ではこちらの証拠を一緒にご覧になって頂いてから、もう一度お話を伺いましょう」
指を鳴らすと、後ろに控えていた騎士が帳簿と書簡の束を差し出した。
そして私はその一冊を手に取り、ぱらりとページをめくった。
「国庫の資金移動の指示。これは貴方の署名ですね、アーレンスバッハ公爵? でもこの資金どこにいったのかしら? 行き先が不明ですね」
「それはその……」
「そして……シュヴァルツヴァルトとの戦争ですが。……なぜ罪もないシュヴァルツヴァルトの村を焼いたのです?」
「っ……!」
アーレンスバッハ公爵の喉が、ごくりと鳴った。
「……答えは簡単。金鉱山から好き放題採掘したかったかったから……ですよね?」
「さらに、この金鉱山と密接に取引し利益を得ていた商会の一覧。あら? 戦争で莫大な利益を得た商会と……同じですね。しかも、それらは皆さんが経営している商会……これはどういうことかしら」
「そ、それは……その……」
貴族たちの顔色がみるみるうちに変わっていく。
「……そしてこちら。私の殺害を指示した書簡。筆跡はリヒター公爵、貴方自身のものです」
「あ、いや……違っ……」
「まだ続きますが、よろしいですか? 側妃と、第二王女アリーシアの出自について……」
「そ、それは!」
焦ったようにリヒター公爵が前に出てくる。
それを騎士が鎖を引いて静止する。
その姿にレナードの瞳が大きく揺れた。
アリーシアについての話題がここで出てくるとは、思っていなかったのでしょう。
そしてリヒター公爵はレナードの前で、アリーシアについて話されるのは嫌と見える。
それもそのはず、レナードとアリーシアは異母兄妹。
なのにこの男はそれを承知の上で、結婚させたのだから。
……私から王位を奪うために。
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