死を望まれた王女は敵国で白い結婚を望む。「ご安心ください、私もあなたを愛するつもりはありません」

千紫万紅

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65 最後の手紙

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65



 全てを今ここで明らかにする為に、私はクソ親父とアリーシアを謁見の間に呼んだ。

 そうすると、縛り上げられたままのクソ親父が騎士達に抱えられて謁見の間に運び込まれた。
 
 その姿に、周囲からは驚きの声があがる。

 そしてその後ろから、強ばった表情のアリーシアが騎士に連れられてやってきた。

「……フランツェスカお姉様。私を呼び出した理由を、お聞かせいただけますか」

 まだ自分の立場がわかっていないらしく、アリーシアは苛立った声で私に詰め寄ってきた。
 自分には関係ないとでも思っているのでしょう。

「理由なら、すぐにわかります」

「だったらお早くお願いしますわ。私も暇ではありませんので」

「本当はリヒター公爵やアーレンスバッハ公爵に真実を語って欲しかったのだけれど。どうしても言いたくないようだから……彼女が最後に残した手紙に頼ることにします」

「彼女、最後ってなんですか……?」

「……これは、側妃カトリーナ様が最後に残した手紙です」

 手に持った手紙を皆に見えるよう掲げる。

「……お母様? 最後って、なに!?」

「アリーシア。貴女の母カトリーナは……自ら毒を飲んで命を絶ちました」

「なっ、嘘だッ! カトリーナがそんなはず!」

 真っ先に叫んだのは、リヒター公爵だった。
 
「そ、そんな……! お母様が……そんなわけ……!」

 一方、アリーシアは大きく目を見開いて固まり、その目からは涙がぽたぽたとこぼれ落ちる。

「……嘘ではありません。彼女は過ちを認め自らの手で終わらせたのです。そしてこれが彼女が残した手紙です」

 ――親愛なる陛下へ。
 このような形で最後のお別れをしてしまう私を、どうかお許しください。
 私は貴方に償わねばならない罪を負ったまま先にこの世を去ります。 
 それは貴方を裏切り、他の男の子を身ごもったこと。
 どう言い繕おうとも、私の弱さが招いた結果に他なりません。
 でもどうか、どうかアリーシアだけは、責めないでやってください。
 アリーシアは、私の罪とは無関係なのですから。

 ――フランツェスカ様へ。
 アダルハイダ様の事は憎んでいましたが、貴女の事は可愛らしく思っていました。
 だって、笑った顔が陛下そっくりなんですもの。
 けれど側妃という立場故、一度も貴女に優しくすることができませんでした。
 ごめんなさい、酷い事ばかり言って。
 でもだからって許してほしいわけじゃないの、ただ愛していたと知ってほしい私の我が儘。 
 けれど最後に、もう一つだけ我が儘を言わせてください。
 貴女はどうか、幸せになって。
 
 ――アリーシアへ。
 嘘をついたままでごめんなさい。
 貴女にだけは知られたくなかったの。
 最後まで弱い母でごめんなさい。
 そして、生まれてきてくれてありがとう。
 愛しい我が子。
 こんな形でしか償えない母を、どうか憎んでください。
 
 ――お父様とリヒター公爵へ。
 私は先に罪を償います。
 だから貴方達も潔く罪を認めてください。
 生き恥を晒して逃げ回るなんて恥ずかしい真似は、絶対にしないでください。
 そして私達が壊してしまったこの国が、以前のような美しい国に戻りますように。
 
 カトリーナ。

「カトリーナ、勝手なことを……!」

 アーレンスバッハ公爵が吐き出した言葉は、父としての言葉ではなかった。
 そしてその顔には、娘を亡くした悲しみよりも焦りのようなものが見えた。

「……勝手に? ここまで追い詰めたのは、貴方達です。カトリーナ様は生涯をかけての嘘を守り続け、そして罪を償った」

「ち、違う! 私は!」

「黙りなさい。この遺書には王家の血を偽った罪がはっきり記されています。これは国家への裏切り。死罪を避ける理由はどこにもありません。そしてそれを隠蔽し、王位簒奪まで企てるのは非常に悪質で減刑の余地はありません」

「それは……」

「リヒター公爵とアーレンスバッハ公爵の二人を地下牢へ。処刑の準備が整い次第貴方達には罪償ってもらいます」

「ま、待て! 私は公爵だぞ、こんな扱い!」

「カトリーナ様が『潔く認めよ』と書き残したのです。せめて最後くらい娘の言葉を聞きなさい、アーレンスバッハ公爵」
 
 ……そう、私が告げると。

「……すまん、カトリーナ……私が、父が間違っていた、すまん」
 
 アーレンスバッハ公爵の声に、ようやく後悔の色が浮かんだのです。
 
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