死を望まれた王女は敵国で白い結婚を望む。「ご安心ください、私もあなたを愛するつもりはありません」

千紫万紅

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66 悔恨

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 騎士達に両脇を固められ連れられていくリヒター公爵とアーレンスバッハ公爵、そしてレナード。
 その後ろ姿には以前のような威厳は欠片も残っておらず、悔恨の念だけが感じられた。

 ……当然でしょう。
 今さら悔やんだところで、意味はないのだから。

 そして謁見の間の重い扉がゆっくりと閉まり、その姿が完全に見えなくなった後。
 
 私は視線をアリーシアへと向けた。
 
「……さて。次は貴女です、アリーシア」

 名を呼ぶと、アリーシアの肩がびくりと跳ねる。
 
 無理もありません。
 母を喪った衝撃と遺書に書かれた真実、いくつもの現実が一度に押し寄せているのだから。
 そこに立っているだけで精一杯なのでしょう。

「フランツェスカお姉様……! 私はなにも知りませんでした。お母様がそんな……」

 涙に濡れた瞳で、私に助けを求めている。

「アリーシア。残念だけど……『知らなかった』では、済ませれないところまできています。それに貴女はわかっていたでしょう? あの王位継承が間違っていたことを……」

「そ、れは……」
 
 そう告げるとアリーシアは、震える手で口元を押さえ嗚咽を漏らす。
 けれどその姿に、同情の声が以前のように上がることはない。

「泣きたければ好きなだけ泣きなさい。ですが泣いたところで貴女の罪が消えてなくなることはありません。貴女はこの後、王族の身分を失い修道院へ送られます。本当は貴女も処刑するはずでしたが……カトリーナ様の最後の願いです」

「お母様の……」

「ええ。だから貴女の命だけは奪わないと決めました」
 
「……ッ」

「……ですが、勘違いしないことです。貴女の罪を軽くしたのは、カトリーナ様の為であって……貴女の為ではありません。正直、私は今も迷っています……貴女を生かしておくべきかどうか」

 アリーシアの顔がくしゃりと歪む。
 演技をする余裕すらもうないのでしょう、アリーシアは憎々しそうに私を睨む。

「でも……! 私は本当に……知らなくて……っ」

「母を喪った悲しみは理解します。ですが私に縋られても困りますし、私は答えられない。貴女が聞くべき相手は、そこにいます」

 そして私は視線を向ける。
 ――クソ親父に。

「お父様……?」

「そこの貴方。縄を解いて差し上げて」

「はっ!」

 騎士の手によって縄がほどかれる。
 けれど……クソ親父はその場から立ち上がろうともしない。
 
 ……この期に及んで、情けない。

「お父様、お母様は……どうして……?」

 そんなクソ親父にアリーシアは、震える声で問う。

「……アリーシア、すまない。お前の母を追い詰めたのは……この私だ」

 クソ親父がようやく吐き出したその言葉に、私は憤りを抑えられなかった。
 
 ……この期に及んで、悲劇の主人公気取りですか?
 虫唾が走る。
 
「今さら殊勝ぶらないでいただけます? 聞いていて吐き気がします。なにが『追い詰めたのは私』ですか。そんな当たり前のことをそんな悲しげな顔で言わないでください。貴方が全部……招いた結果でしょう」

 ……思わず、口から出た。
 でも後悔はありません、事実ですし。

「フランツェスカ……」

「……最後くらい、父親らしくしたらどうです? これが今生の別れなのですから」

 クソ親父は塔に幽閉することが決まっている、だからこれが二人が会話を交わす最後。

「父親らしくか……」

「ええ。まあ、私は今さら貴方達と家族ごっこするつもりはないので、お暇しますが。ではどうぞごゆっくり、最後の時をお楽しみください」

 そう告げて、私は二人に背を向けた。
 振り返ることは二度とない。

 もう全部、終わったのだから――。
 
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