難攻不落の異名を持つ乙女ゲーム攻略対象騎士が選んだのは、モブ医者転生者の俺でした。

一火

文字の大きさ
88 / 92
2章

43-1

しおりを挟む

「正気なのかクラーク!! せっかく捕まえたのに、アーク王子に引き渡さないだなんて……」

 ――誰かが、喋ってる……

「彼に渡したとて、得られる報酬なんて高々数千万――それよりもっと、大金を得られる方法があるでしょう?」


 ――あれ、この声……クラーク……?


「……まさか、お前……最初からそのつもりで」
「ふっ、さぁね。……おや、気が付きましたか?」

 薄暗い視界の中で、光に反射した眼鏡が此方に向かって歩いて来るのが見える。

「お前……くらー、く……」
「まだお目覚めには早いですよ、お姫様」

 目の前の人物は、冷たい床に横たわる俺の前で立ち止まったかと思えば、その場で跪き俺の顎を掴んで自分の方へと向かせた。

「なん、で……こんなこと……」
「何故? 面白いことを聞くのですね。そんなもの金の為に決まっているでしょう。 と言ったではありませんか」

 照明の逆光でよく見えないが彼の顔は今、欲に歪んで醜く笑っているのだろう。

「……どうして、そんな金に執着を……」
「逆に金が嫌いな人間がいるのです? 金さえあれば、人間どうにだってなる。……金さえあれば救われた人生だって……あるのです」
「っ……えっ」

 虚ろとした意識の中で見えたクラークの顔が印象的だった。

 ……それは、カフェでお茶をした時に一瞬彼が見せた、何処か寂しそうな顔と同じものだったから。
 目を見開き彼をじっと見ていると、彼の羽織るヒラヒラとした上着のポケットから、白い布が取り出される。

「もういい、再び眠ってください。おやすみなさい……アオさん。もう貴方に会うことは無いでしょう」
「っ……!! んぅう、やめ……」

 それが口元に宛てがわれると、あのツンっとした匂いが再び俺を襲う。

 ――イーサンは無事なんだろうか……

 薄れゆく意識の中で、最後に見た彼の情景が頭を掠めた。

――

「なぁ、売り飛ばす前によぉ……この貴金属だけでも奪っちまわないか? こりゃすげぇ値になるだろ」

 深紅の布切れを引き摺りながら、そう言って大男が床に倒れたアオに近寄る。
 下品な笑いを浮かべながら、薄汚れた手を彼の白い腕に伸ばした時だった。
 バチィッとけたたましい音が鳴り響き、赤黒い閃光がその場に走る。

「……っ! 痛ってぇ……おい、なんだよこりゃ」
番犬イーサンが何か術でも掛けているのでしょう。……外せないのならば、それ込みの値段にするまで……良かったですね、更にこれで価値が跳ね上がりますよ」

 眼鏡をクイッと正したクラークは、氷のような冷たい目で静かに眠るの男を見下ろしていた。

――

「おい、起きろよ」
「いつまで寝てるんだ」

 頬に走る痛みで、暗闇の中に居た俺の意識が段々と覚醒する。

「……なん、だ……」

 薄らと開いた瞳の前には、見た事もない若い男が2人……しゃがんで俺の顔をまじまじと覗き込んでいる。

「へぇ~滅茶苦茶上玉じゃん」
「なぁお兄さん……どうせ俺らこの後売り飛ばされるんだ。その前にお互いイイ思いしようぜ?」

 白いシャツを着た、これといって特徴の無い平凡な顔立ちの男たちが俺の上に馬乗りになっている。

「は? 何……なんだよアンタ達何言って……」

 完全に意識は覚醒したが、部屋の中は暗く2人の顔以外はよく見えない。
 ――背中に当たるのは固くて冷たいコンクリートの床。
 どうやら此処がのは間違いない。

「まーまー、どうせどこかの変態趣味のオッサンに買われるんだ……その前に、若い者同士で方がいいじゃん?」

 俺の腹を、知らない手が撫でた。

 途端に悪心が込み上げて来る。

 ――きもち、わるい……

「離せ! 俺に触るな!!」

 起き上がりその男を剥がそうとするも、いつの間にか頭の上に回った短髪の男が、俺の両手を握り拘束している。

「まぁまぁ、そうやって強がってないで……お互いヨくなろうぜ、な?」

 それまで腹にあった筈の手が、段々下へと動き始める。

 ――なんで俺、襲われてんだよ……ここどこなんだよ……なんでこんな事になってんだよ!!

 理解出来ない事の連続で、頭の中はグチャグチャだった。

「嫌だ! 離せ! 離せ!!」

 どうにか暴れもがくも、体格のいい2人はビクともしない。

 ――嫌だ……触るな……俺に触れていいのは、だけ……

 『アオ……今日も可愛いな』

 そんな彼のゴツゴツした――けれど綺麗で優しい手のひらとは真逆の手が俺の身体を這いずり始め、ギュッと閉じた目からは涙が滲む。

「やめ、ろ……」

 掠れる声で、そう叫んだ時だった。

「止めろよ、アンタたち。見てるこっちが不愉快だ、汚らわしい」

 力強い――けれど洗練された空気のように澄んだ声が、俺たちに投げ掛けられた。

「なんだお前……ガキはすっこんでろよ」

 上に乗ったままの男が首だけ後ろに捻り、声の方を睨みつける。

「その人、嫌がってるだろ。だからって、好きに扱っていい筈がない」

 暗闇から出てきた少年が、ツカツカとこちらに歩みを寄せその男の肩を掴む。

「あ? 触んじゃねぇすっこんでろ!!」

 掴まれた男はあからさまにイラつき、勢いよく少年の身体を突き飛ばす。

「……っっ! ちょ、何してるんですか!!」

 顔だけを上げその様子を見守っていた俺の視界に、少年の身体が思い切り壁にぶち当たるのが飛び込んでくるや、思わず大きな声を上げる。

「あぁ? うるせぇな……お前は俺達に好き勝手されてれば良いんだよ」

 「クソが邪魔しやがって」と悪態を付きながら、男は俺の下腹部に手を伸ばす。

 さっきから何なんだよこいつら、最低だな。
 ――ってか、何で……お前らが俺の身体、触ってんだよ……

「……ん………いが……さ、る……」
「あ? 何ブツブツ言ってやがんだ?」

「イーサン以外が、俺の身体に触るなァァ!!」

 自分の中で、それ迄溜め込んでいたもの全てが、爆発したような感覚に陥った。

 何で逃亡なんてしなきゃならないんだ。
 何で知らない男に襲われなきゃならないんだ。

 ……俺はただ、イーサンと……幸せに過ごしたいだけなのに……

 ――何でそんなを得る事が出来ないんだよ……

「誰だ? それ」

 ふー、ふーと息を荒らげながら睨み付ける俺を気にも止めない男は、懲りずに俺の肌に触れようとする。

「止めろって言ってんだろ!!」

 その瞬間、バチバチ!! と辺りに電流が流れた音が響いたかと思えば、右手の腕輪が急に赤黒い光を放ち、それらが雷の様に男たちの身体を薙ぎ払う。

「痛ぇぇ!!」
「なんだコイツ……バケモンか……」

 壁まで吹き飛ばされた男たちの服は、まるで焼かれたかのように黒く焦がされている。

 ――なんだ、今の……

 俺は能力者でもなんでもない。ましてや魔法すらろくに使えないただの医者の筈。

 見開いた目でおそるおそる自分の右手へと視線をやると、そこには――銀色の腕輪が、まるで何事も無かったかのように、ひっそりと俺の手首に巻き付いていた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最強推し活!!推しの為に転生して(生まれて)きました!!

藤雪たすく
BL
異世界から転移してきた勇者様と聖女様がこの世界に残した大きな功績……魔王討伐?人間族と魔族の和解?いや……【推し】という文化。 【推し】という存在が与えてくれる力は強大で【推し活】の為に転生まで成し遂げた、そんな一人の男の推し活物語。

転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています

柚吉猫
BL
生前の記憶は彼にとって悪夢のようだった。 酷い別れ方を引きずったまま転生した先は悪役令嬢がヒロインの乙女ゲームの世界だった。 性悪聖ヒロインの弟に生まれ変わって、過去の呪縛から逃れようと必死に生きてきた。 そんな彼の前に現れた竜王の化身である騎士団長。 離れたいのに、皆に愛されている騎士様は離してくれない。 姿形が違っても、魂でお互いは繋がっている。 冷然竜王騎士団長×過去の呪縛を背負う悪役弟 今度こそ、本当の恋をしよう。

異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
 病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。  言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。  小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。  しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。  湊の生活は以前のような日に戻った。  一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。  ただ、明らかに成長スピードが早い。  どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。  弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。  お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。  あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。  後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。  気づけば少年の住む異世界に来ていた。  二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。  序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!

モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。 その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。 魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。 その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?! ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした

こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。

猫になった俺、王子様の飼い猫になる

あまみ
BL
 車に轢かれそうになった猫を助けて死んでしまった少年、天音(あまね)は転生したら猫になっていた!?  猫の自分を受け入れるしかないと腹を括ったはいいが、人間とキスをすると人間に戻ってしまう特異体質になってしまった。  転生した先は平和なファンタジーの世界。人間の姿に戻るため方法を模索していくと決めたはいいがこの国の王子に捕まってしまい猫として可愛がられる日々。しかも王子は人間嫌いで──!?   *性描写は※ついています。 *いつも読んでくださりありがとうございます。お気に入り、しおり登録大変励みになっております。 これからも応援していただけると幸いです。 11/6完結しました。

処理中です...