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2章
43-1
しおりを挟む「正気なのかクラーク!! せっかく捕まえたのに、アーク王子に引き渡さないだなんて……」
――誰かが、喋ってる……
「彼に渡したとて、得られる報酬なんて高々数千万――それよりもっと、大金を得られる方法があるでしょう?」
――あれ、この声……クラーク……?
「……まさか、お前……最初からそのつもりで」
「ふっ、さぁね。……おや、気が付きましたか?」
薄暗い視界の中で、光に反射した眼鏡が此方に向かって歩いて来るのが見える。
「お前……くらー、く……」
「まだお目覚めには早いですよ、お姫様」
目の前の人物は、冷たい床に横たわる俺の前で立ち止まったかと思えば、その場で跪き俺の顎を掴んで自分の方へと向かせた。
「なん、で……こんなこと……」
「何故? 面白いことを聞くのですね。そんなもの金の為に決まっているでしょう。 諦めませんよと言ったではありませんか」
照明の逆光でよく見えないが彼の顔は今、欲に歪んで醜く笑っているのだろう。
「……どうして、そんな金に執着を……」
「逆に金が嫌いな人間がいるのです? 金さえあれば、人間どうにだってなる。……金さえあれば救われた人生だって……あるのです」
「っ……えっ」
虚ろとした意識の中で見えたクラークの顔が印象的だった。
……それは、カフェでお茶をした時に一瞬彼が見せた、何処か寂しそうな顔と同じものだったから。
目を見開き彼をじっと見ていると、彼の羽織るヒラヒラとした上着のポケットから、白い布が取り出される。
「もういい、再び眠ってください。おやすみなさい……アオさん。もう貴方に会うことは無いでしょう」
「っ……!! んぅう、やめ……」
それが口元に宛てがわれると、あのツンっとした匂いが再び俺を襲う。
――イーサンは無事なんだろうか……
薄れゆく意識の中で、最後に見た彼の情景が頭を掠めた。
――
「なぁ、売り飛ばす前によぉ……この貴金属だけでも奪っちまわないか? こりゃすげぇ値になるだろ」
深紅の布切れを引き摺りながら、そう言って大男が床に倒れたアオに近寄る。
下品な笑いを浮かべながら、薄汚れた手を彼の白い腕に伸ばした時だった。
バチィッとけたたましい音が鳴り響き、赤黒い閃光がその場に走る。
「……っ! 痛ってぇ……おい、なんだよこりゃ」
「番犬が何か術でも掛けているのでしょう。……外せないのならば、それ込みの値段にするまで……良かったですね、更にこれで価値が跳ね上がりますよ」
眼鏡をクイッと正したクラークは、氷のような冷たい目で静かに眠る銀髪の男を見下ろしていた。
――
「おい、起きろよ」
「いつまで寝てるんだ」
頬に走る痛みで、暗闇の中に居た俺の意識が段々と覚醒する。
「……なん、だ……」
薄らと開いた瞳の前には、見た事もない若い男が2人……しゃがんで俺の顔をまじまじと覗き込んでいる。
「へぇ~滅茶苦茶上玉じゃん」
「なぁお兄さん……どうせ俺らこの後売り飛ばされるんだ。その前にお互いイイ思いしようぜ?」
白いシャツを着た、これといって特徴の無い平凡な顔立ちの男たちが俺の上に馬乗りになっている。
「は? 何……なんだよアンタ達何言って……」
完全に意識は覚醒したが、部屋の中は暗く2人の顔以外はよく見えない。
――背中に当たるのは固くて冷たいコンクリートの床。
どうやら此処が良い場所でないのは間違いない。
「まーまー、どうせどこかの変態趣味のオッサンに買われるんだ……その前に、若い者同士で清め合った方がいいじゃん?」
俺の腹を、知らない手が撫でた。
途端に悪心が込み上げて来る。
――きもち、わるい……
「離せ! 俺に触るな!!」
起き上がりその男を剥がそうとするも、いつの間にか頭の上に回った短髪の男が、俺の両手を握り拘束している。
「まぁまぁ、そうやって強がってないで……お互いヨくなろうぜ、な?」
それまで腹にあった筈の手が、段々下へと動き始める。
――なんで俺、襲われてんだよ……ここどこなんだよ……なんでこんな事になってんだよ!!
理解出来ない事の連続で、頭の中はグチャグチャだった。
「嫌だ! 離せ! 離せ!!」
どうにか暴れもがくも、体格のいい2人はビクともしない。
――嫌だ……触るな……俺に触れていいのは彼、だけ……
『アオ……今日も可愛いな』
そんな彼のゴツゴツした――けれど綺麗で優しい手のひらとは真逆の手が俺の身体を這いずり始め、ギュッと閉じた目からは涙が滲む。
「やめ、ろ……」
掠れる声で、そう叫んだ時だった。
「止めろよ、アンタたち。見てるこっちが不愉快だ、汚らわしい」
力強い――けれど洗練された空気のように澄んだ声が、俺たちに投げ掛けられた。
「なんだお前……ガキはすっこんでろよ」
上に乗ったままの男が首だけ後ろに捻り、声の方を睨みつける。
「その人、嫌がってるだろ。商品だからって、好きに扱っていい筈がない」
暗闇から出てきた少年が、ツカツカとこちらに歩みを寄せその男の肩を掴む。
「あ? 触んじゃねぇすっこんでろ!!」
掴まれた男はあからさまにイラつき、勢いよく少年の身体を突き飛ばす。
「……っっ! ちょ、何してるんですか!!」
顔だけを上げその様子を見守っていた俺の視界に、少年の身体が思い切り壁にぶち当たるのが飛び込んでくるや、思わず大きな声を上げる。
「あぁ? うるせぇな……お前は俺達に好き勝手されてれば良いんだよ」
「クソが邪魔しやがって」と悪態を付きながら、男は俺の下腹部に手を伸ばす。
さっきから何なんだよこいつら、最低だな。
――ってか、何で……お前らなんかが俺の身体、触ってんだよ……
「……ん………いが……さ、る……」
「あ? 何ブツブツ言ってやがんだ?」
「イーサン以外が、俺の身体に触るなァァ!!」
自分の中で、それ迄溜め込んでいたもの全てが、爆発したような感覚に陥った。
何で逃亡なんてしなきゃならないんだ。
何で知らない男に襲われなきゃならないんだ。
……俺はただ、イーサンと……幸せに過ごしたいだけなのに……
――何でそんな普通を得る事が出来ないんだよ……
「誰だ? それ」
ふー、ふーと息を荒らげながら睨み付ける俺を気にも止めない男は、懲りずに俺の肌に触れようとする。
「止めろって言ってんだろ!!」
その瞬間、バチバチ!! と辺りに電流が流れた音が響いたかと思えば、右手の腕輪が急に赤黒い光を放ち、それらが雷の様に男たちの身体を薙ぎ払う。
「痛ぇぇ!!」
「なんだコイツ……バケモンか……」
壁まで吹き飛ばされた男たちの服は、まるで焼かれたかのように黒く焦がされている。
――なんだ、今の……
俺は能力者でもなんでもない。ましてや魔法すらろくに使えないただの医者の筈。
見開いた目でおそるおそる自分の右手へと視線をやると、そこには――銀色の腕輪が、まるで何事も無かったかのように、ひっそりと俺の手首に巻き付いていた。
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