難攻不落の異名を持つ乙女ゲーム攻略対象騎士が選んだのは、モブ医者転生者の俺でした。

一火

文字の大きさ
17 / 92
1章

9-1

しおりを挟む
 瞼を刺激する白光で、俺は目を覚ました。
「ん、……あ、さ……?」
 静かな部屋の中、俺はゆっくりと身体を起こす。素肌にシーツが触れる感触の心地よさと言ったら。

 あれ、何で裸。

 腰に残る鈍い痛みが、昨日の情事を全て思い出させた。
「俺、イーサンと……その」
 確か昨夜、イーサンと繋がったはず。だがこの手狭な部屋には誰もいる気配はないし、身体だけでなくシーツもかのように綺麗になっている。
「もしかして夢だった?」
 そうだとしたら、欲求不満にも程がある。

 取り敢えず起き上がり、水でも飲もうとベッドから立ち上がった。
 フラフラしながらふと、昨日イーサンの手料理を食べたテーブルに、1枚の紙と布が掛けられた何かが置かれていることに気が付いた。

 『騎士団から呼び出しがあった。朝飯作っておいたから、ちゃんと食べろよ』

 綺麗な字で書かれたそのメモを持ったまま、テーブルの上の布を取り払う。そこには美味しそうな卵料理とサラダ、ハムとパン。おまけに昨日とは違うスープまで用意されていた。

「うそ、だろ」
 思いもしない展開に、本当に頭がついていかない。
「聞いてないよ、イーサンがこんな優しいって……」
 片手に持ったままのメモを、そっと胸に押し当てる。
 何年ぶりだろうか。誰かに朝食を作ってもらったのなんて。
 服を着てパンとスープを温め、前世でやっていたように食前に両手を合わせてそれらに口を付ける。
「……おいしい」
 その日の朝食は、世界でいちばん暖かくて美味しくて。

 ――身体も心も、全て満たされた気がした。



>>>

「なんであんなことになったんだろ」
 腹を満たし、そのまま動くのが億劫になった俺はソファで横になった。
 俺が前世を思い出してから。ここが、ゲームの世界だって気付いてから。
 ――イーサン・ガイ・クライヴに出会ってから。
 色々な事が目まぐるしく過ぎ去り、気持ちも頭も置いてきぼりになっている。
 仰向けになれば、蘇る彼の……色っぽい声と顔。
『可愛い、アオ』
 幻聴が聞こえた気がして、慌てて身体を横に直す。何が厄介って、全くもって嫌じゃなかった昨夜の行為。それに今日の……暖かで美味しい朝食。
 
 ――俺、脊髄で恋するタイプだった?
  たった1回……身体を重ねただけで。

「……ダメだろ。イーサンは攻略対象ヒロインのものなんだって」
 口ではそう言いながらも、脳裏に残る彼の姿が消える事はない。
「逞しい身体だったよな、流石騎士。腹筋バッキバキに割れてたし、なんか……滅茶苦茶上手かったし」
 「何が」とは言わないが。
 まだ腹部に、彼の熱が残っているような気がして。そっと手のひらでそこを撫でてしまう。
「いや、だから……何考えてるの俺」
 興奮が冷めやまない様子の自分に呆れ、どうにか思考を正気に戻そうと「少し外の空気でも吸うか」と、重い体を起こした。

 着替えようとクローゼットに向かう途中、ベッドの下で何かが光った気がした。
「なんだろう。何か光ったよね」
 おそるおそる屈んで手を伸ばすと、そこにあるのは1本の短剣。
「これ、イーサンの?」
 真っ黒の短剣は、鞘と柄の部分にイーサンの瞳と同じ色の宝石があしらわれ、金色の細かい装飾が施されている。
「うーん、身に覚えはないし。もしかしたら、モブが護身用か何かに持っていた可能性が無くはない……けど」

 豪華絢爛の主張が激しいつるぎは、その持ち主を、を彷彿とさせるようだった。

「無いと仕事に差し支えるんじゃないか?」
 騎士団団長が一体どんな仕事をしているか、想像すらつかないが、武器は騎士の命とも呼べる代物じゃないか。無くて良いものではない気がする……とはいえ、彼の連絡先など知るはずも無い。
「……散歩がてら届けに行くか」
 一旦その短剣をテーブルの上に置き、当初の目的であった着替えを済ますこととした。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最強推し活!!推しの為に転生して(生まれて)きました!!

藤雪たすく
BL
異世界から転移してきた勇者様と聖女様がこの世界に残した大きな功績……魔王討伐?人間族と魔族の和解?いや……【推し】という文化。 【推し】という存在が与えてくれる力は強大で【推し活】の為に転生まで成し遂げた、そんな一人の男の推し活物語。

転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています

柚吉猫
BL
生前の記憶は彼にとって悪夢のようだった。 酷い別れ方を引きずったまま転生した先は悪役令嬢がヒロインの乙女ゲームの世界だった。 性悪聖ヒロインの弟に生まれ変わって、過去の呪縛から逃れようと必死に生きてきた。 そんな彼の前に現れた竜王の化身である騎士団長。 離れたいのに、皆に愛されている騎士様は離してくれない。 姿形が違っても、魂でお互いは繋がっている。 冷然竜王騎士団長×過去の呪縛を背負う悪役弟 今度こそ、本当の恋をしよう。

異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
 病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。  言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。  小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。  しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。  湊の生活は以前のような日に戻った。  一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。  ただ、明らかに成長スピードが早い。  どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。  弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。  お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。  あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。  後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。  気づけば少年の住む異世界に来ていた。  二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。  序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!

モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。 その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。 魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。 その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?! ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした

こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。

猫になった俺、王子様の飼い猫になる

あまみ
BL
 車に轢かれそうになった猫を助けて死んでしまった少年、天音(あまね)は転生したら猫になっていた!?  猫の自分を受け入れるしかないと腹を括ったはいいが、人間とキスをすると人間に戻ってしまう特異体質になってしまった。  転生した先は平和なファンタジーの世界。人間の姿に戻るため方法を模索していくと決めたはいいがこの国の王子に捕まってしまい猫として可愛がられる日々。しかも王子は人間嫌いで──!?   *性描写は※ついています。 *いつも読んでくださりありがとうございます。お気に入り、しおり登録大変励みになっております。 これからも応援していただけると幸いです。 11/6完結しました。

処理中です...