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1章
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「アオ何食う? お前の好きなポテサラはもう頼んでおいたぞ。飲み物はビールでいいか? このカクテルも美味いぞ。飲んでみろ」
それはそれは甘い声が耳に掛る。
「あ、あの……えっと、ビールで良いです」
イーサンはまるで2人きりでいる時と変わらない、砂糖を煮込んだような態度で俺に接する。しかし皆がいる手前どう反応して良いかわからない俺は、その場で小さくなってしまった。
「凄いなぁ。今日『報告書が読めたもんじゃないふざけんな。お前ホントに脳みそあんのか』って小一時間説教されて、心が粉砕してたマイラ君に見せてあげたいっすねぇ……この光景」
ストローでオレンジ色のジュースを飲むキーファから、そんな言葉が飛んでくる。
「その姿、絶対に隊員の前では見せないで下さいね。第2騎士団の威厳に関わります」
「寧ろ見せた方がいいんじゃねーか? 皆、必要以上にイーサンにビビり散らかしてるんだし。ここで親しみやすい上司にキャラチェンとかどうよ」
ジェイスは厳しい視線を俺たちに投げ掛けているし、ギルバートはゲラゲラ笑っている。
「えっと、イーサン。近くないですか、ここ酒場……」
「は? いつもより距離あんだろ。これでも遠慮してんだ」
「遠、慮……」
確かにここは丸テーブルに長椅子が2つ向かい合わせに並んだ席だし、当たり前のように隣に座ってる俺たちの距離はゼロに出来るよ? だからって、腰を抱いて……頬を擦り付けるのはどうかと思うなぁ!?
膝の上に乗せてないだけマシだろと言いたいのだろうか、この男は。
「ずっと思ってたんすけど、美人さんですよね。アオさんって」
くっついたり離れたり、目の前で繰り広げられる漫才もどきを眺めるキーファが、じっと俺を見つめポロッとそう呟いた。
「「「「は?」」」」
驚き顔の俺とギルバート、そしてこめかみに浮き出た血管が、今にも張り裂けそうなイーサンとジェイスの視線が一斉に彼へと向けられる。
「「おい、表出ろキーファ」」
上司と部下。息のあった台詞を吐きながら、恐らく護身用にと持っている短剣を片手に2人が立ち上がる。
「ちょっ、2人とも落ち着いてください」
「はーー!! 最高だなキーファ!! まっ、骨は拾ってやるから安心しろよ!」
慌てて2人を宥める俺の向かいで、ギルバートは腹を抱えて笑っている。
「い、いや……変な意味で言ったわけじゃないっすよ。ジェイスさんの強め美人とはまた違った、儚い系な美人じゃないですか。下まつげ長いし、笑いボクロはエロいし、困り顔似合うし」
いや、そんなの人生で初めて言われたが。たしかにジェイスは美人だ、だがそれと同列に扱っては彼に失礼だろう。あと多分下まつげは関係ない。
降参とばかりに両手を振り、慌てて「下心とかないっすよー」と2人にアピールするキーファの姿を確認した2人は、まだどこか不満げに腰を降ろす。
「口は災いの元って言うのを、体を張って表現しなぁ~キーファよぉ」
笑いが止まらないギルバートの横で、変わらずキーファを強く睨みつけるジェイスの姿に「この2人の関係性って?」なんて考えていると、横から凄まじい勢いで抱き締められた。
「俺のアオだぞ? 美人に決まってんだろ。何言ってんだお前、減給な」
絵に書いたようなパワハラ上司イーサンに、全身を包まれるように強く抱き締められ、俺はその場で瞬きのひとつも出来ないほどに固まってしまった。
「そうだ、このチーズ美味いんだ。アオの口にも合うと思うぞ」
キーファが「軽率な発言には気を付けます」と反省した後も微動だにしない俺へ、イーサンはテーブルの上にあるお洒落な黒い長皿を自分たちの方に手繰り寄せる。そして彼は、カットされた1口サイズのチーズを銀の楊枝で刺し、俺の口へと運んだ。
「ちょ、ちょっと!」
いやだから! どうして「あーん」をしたがる!
先程の険悪な雰囲気が吹き飛んだ2人と、加えてギルバートの視線を感じてしまば、そう易々と応じるなんて出来るはずもない。そんな俺に焦れたイーサンが下唇にそれを押し当て始める。暫く攻防を続けたが、一向に諦める素振りを見せない相手に「これは俺が折れるしかないのか」と観念し、口を開く事にした。
口に含んだそのチーズの味は、それはそれは極上なもの。つい顔を綻ばせて「おいしい」と呟くと、イーサンのご尊顔が瞬く間に緩んでいった。
その顔に、心がキュンっと掴まれてしまう。
――つまるところ、俺も既に手遅れなのだ。
そして向かいに座る3人は、この茶番劇を見るやいなや声を殺して笑っている。
「だめ、だ。団長、デレ超えてもやはオカンじゃん……腹痛いっす……」
キーファとジェイスは、手にした飲み物が上手く飲めないご様子。ギルバートは「メシがうめぇ」と言わんばかりにジョッキのビールを飲み干していた。
これはもう、飲むしかない。
そうだ……もう、飲んで忘れよう。
そう思うやいなや、俺は目の前に出されたビールを、一気に飲み干した。
それはそれは甘い声が耳に掛る。
「あ、あの……えっと、ビールで良いです」
イーサンはまるで2人きりでいる時と変わらない、砂糖を煮込んだような態度で俺に接する。しかし皆がいる手前どう反応して良いかわからない俺は、その場で小さくなってしまった。
「凄いなぁ。今日『報告書が読めたもんじゃないふざけんな。お前ホントに脳みそあんのか』って小一時間説教されて、心が粉砕してたマイラ君に見せてあげたいっすねぇ……この光景」
ストローでオレンジ色のジュースを飲むキーファから、そんな言葉が飛んでくる。
「その姿、絶対に隊員の前では見せないで下さいね。第2騎士団の威厳に関わります」
「寧ろ見せた方がいいんじゃねーか? 皆、必要以上にイーサンにビビり散らかしてるんだし。ここで親しみやすい上司にキャラチェンとかどうよ」
ジェイスは厳しい視線を俺たちに投げ掛けているし、ギルバートはゲラゲラ笑っている。
「えっと、イーサン。近くないですか、ここ酒場……」
「は? いつもより距離あんだろ。これでも遠慮してんだ」
「遠、慮……」
確かにここは丸テーブルに長椅子が2つ向かい合わせに並んだ席だし、当たり前のように隣に座ってる俺たちの距離はゼロに出来るよ? だからって、腰を抱いて……頬を擦り付けるのはどうかと思うなぁ!?
膝の上に乗せてないだけマシだろと言いたいのだろうか、この男は。
「ずっと思ってたんすけど、美人さんですよね。アオさんって」
くっついたり離れたり、目の前で繰り広げられる漫才もどきを眺めるキーファが、じっと俺を見つめポロッとそう呟いた。
「「「「は?」」」」
驚き顔の俺とギルバート、そしてこめかみに浮き出た血管が、今にも張り裂けそうなイーサンとジェイスの視線が一斉に彼へと向けられる。
「「おい、表出ろキーファ」」
上司と部下。息のあった台詞を吐きながら、恐らく護身用にと持っている短剣を片手に2人が立ち上がる。
「ちょっ、2人とも落ち着いてください」
「はーー!! 最高だなキーファ!! まっ、骨は拾ってやるから安心しろよ!」
慌てて2人を宥める俺の向かいで、ギルバートは腹を抱えて笑っている。
「い、いや……変な意味で言ったわけじゃないっすよ。ジェイスさんの強め美人とはまた違った、儚い系な美人じゃないですか。下まつげ長いし、笑いボクロはエロいし、困り顔似合うし」
いや、そんなの人生で初めて言われたが。たしかにジェイスは美人だ、だがそれと同列に扱っては彼に失礼だろう。あと多分下まつげは関係ない。
降参とばかりに両手を振り、慌てて「下心とかないっすよー」と2人にアピールするキーファの姿を確認した2人は、まだどこか不満げに腰を降ろす。
「口は災いの元って言うのを、体を張って表現しなぁ~キーファよぉ」
笑いが止まらないギルバートの横で、変わらずキーファを強く睨みつけるジェイスの姿に「この2人の関係性って?」なんて考えていると、横から凄まじい勢いで抱き締められた。
「俺のアオだぞ? 美人に決まってんだろ。何言ってんだお前、減給な」
絵に書いたようなパワハラ上司イーサンに、全身を包まれるように強く抱き締められ、俺はその場で瞬きのひとつも出来ないほどに固まってしまった。
「そうだ、このチーズ美味いんだ。アオの口にも合うと思うぞ」
キーファが「軽率な発言には気を付けます」と反省した後も微動だにしない俺へ、イーサンはテーブルの上にあるお洒落な黒い長皿を自分たちの方に手繰り寄せる。そして彼は、カットされた1口サイズのチーズを銀の楊枝で刺し、俺の口へと運んだ。
「ちょ、ちょっと!」
いやだから! どうして「あーん」をしたがる!
先程の険悪な雰囲気が吹き飛んだ2人と、加えてギルバートの視線を感じてしまば、そう易々と応じるなんて出来るはずもない。そんな俺に焦れたイーサンが下唇にそれを押し当て始める。暫く攻防を続けたが、一向に諦める素振りを見せない相手に「これは俺が折れるしかないのか」と観念し、口を開く事にした。
口に含んだそのチーズの味は、それはそれは極上なもの。つい顔を綻ばせて「おいしい」と呟くと、イーサンのご尊顔が瞬く間に緩んでいった。
その顔に、心がキュンっと掴まれてしまう。
――つまるところ、俺も既に手遅れなのだ。
そして向かいに座る3人は、この茶番劇を見るやいなや声を殺して笑っている。
「だめ、だ。団長、デレ超えてもやはオカンじゃん……腹痛いっす……」
キーファとジェイスは、手にした飲み物が上手く飲めないご様子。ギルバートは「メシがうめぇ」と言わんばかりにジョッキのビールを飲み干していた。
これはもう、飲むしかない。
そうだ……もう、飲んで忘れよう。
そう思うやいなや、俺は目の前に出されたビールを、一気に飲み干した。
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