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1章
24-2
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――そんな生活が10日目に差し掛かろうとしたある日の事。
「おーい、イーサン。あれの準備が出来たぞー」
イーサンが非番の本日。
ソファで縺れ合うように抱き合っていた俺たちに向かって、開いたドアをノックしニヤニヤしながらそう伝えるギルバートの姿に、俺の顔が早速大爆発する。
「早かったな。……アオ、お前を連れて行きたい場所がある」
「俺を? どこだろう……」
そんな真っ赤になった俺の頬を撫で、いつになく優しい表情でそう告げるイーサンに、思わず首を傾げた。
>>>
2人に連れて来られた場所は、宿舎の目と鼻の先にある騎士団本部だった。
正門を入ると、軍服を身に纏ったキーファがぴょんぴょん跳ね、隣にそれを「落ち着け」と制止するジェイスの姿があった。
「だーんちょ、アオさん! 待ってましたよぉ」
「キーファ……ジェイスさんも」
「どうも。どうです、宿舎での生活には慣れましたか? 団長には言い難い困り事などあれば、いつでも言ってください」
「まぁ……ぼちぼち。ありがとうございます、ジェイスさん。優しいな……」
何だかんだで俺に優しく接してくれるジェイスの気遣いに、ほわっとした笑顔で返事をしていると、後ろから誰かに両肩を勢いよく掴まれた。
「……っっ!! き、キーファか。驚いた」
「へへっ! アオさん、こっちっすよぉ」
子供の様にはしゃぐキーファが、俺の手を掴んで駆け出す。
「ちょ、ちょっと待って」
イーサンの「おい、アオに触るな」という言葉を背に受けながら、覚束無い足をどうにか動かして、その後を追った。
キーファに手を引かれ、ぞろぞろと第2騎士団幹部を引き連れて向かった場所は、本部の建物左側にあるこじんまりとした石造りの建物だった。
「……っっ!! こ、れ……」
そう大きくは無い平屋建ての入口には「本日休診」の看板が掛けられている。
「ここは元々使っていない建物で、第2騎士団が物置として使っていたんだが、先日キーファが『ここを新しいアオの診療所にしたらどうか』と言い出してな」
呆然とそれを見つめる俺の横に立ったイーサンが、優しく肩に腕を回しそう教えてくれる。
「本部の敷地内ならば何かあってもすぐ対応できるので、アオさんも市民の皆さんも……なにより団長が1番安心かと思ったんすよね~」
……何故そこでイーサンが。
いや、ツッコむだけ無駄だろう。現に彼は今、キーファの言葉に「うんうん」と首を大きく縦に振っている。
「騎士団上層部に団長が掛け合ったところ、敷地内に診療所があれば隊員も利用が出来るので問題ないとの返答を頂き、こうして実現に至ったのです。まぁ、騎士団内にも従医師はいますが、隊員の数と比べて圧倒的に少ないですから……正直助かります」
ジェイスはそう告げると、入口のドアを開き「どうぞ中へ」と手を伸ばした。
招かれるまま足を踏み入れると、そこは元あった俺の診療所と大差無い光景が広がっていた。
「凄い。広さもレイアウトまで殆ど同じ……」
受付カウンターの場所も、そこから扉で区切られた奥にある診察室も全く同じだった。差があるとすれば、入口脇とコの字に置かれた待合ソファの間に観葉植物が置かれ、爽やかな空間になっている事位だった。
「全く別の物に……とも考えたが、同じ方がアオも動き易いだろうと思ってな」
目を輝かせる俺の横に立ったイーサンが、自信ありげにそう言う。
「って言ってるけど、コイツは物の配置を命令しただけで、実際動いたのは俺とキーファだからね」
俺を挟んでイーサンの反対側に立つギルバートは苦笑しながら、こっそり耳打ちで教えてくれた。
「観葉植物を置いた方が良いと提案したのは俺です」
後ろからジェイスのそんな声が聞こえると、俺の顔から思わず笑みが零れた。
「本当に……ありがとうございます、皆さん。こんなに嬉しいことないよ……」
鼻先がジーンして瞳が潤む。
俺は皆の方に身体を向けると、深々と頭を下げた。
素直に嬉しかった。
俺なんかの為に、皆がここまでしてくれるなんて。
「シャーロットにも今後の勤務はここで行うと伝えてある。アオの好きなタイミングで再開させたら良い」
なかなか上げることの出来ない頭を、イーサンが優しく撫でてくれる。
「うん、ありがとうイーサン。本当にありがとう皆さん。ここまでしてくれるなんて、もう何てお礼を言ったらいいか……」
「良いってことよ! アオちゃんはもう、第2騎士団幹部の一員みたいなもんなんだからさ。水くさいこと言うなって、な?」
じわっと込み上げる涙を指で拭う俺の肩にギルバートは腕回しを、反対の手でワシャワシャと銀髪が絡まる程に撫でると、すぐさま「近い、馴れ馴れしい、触るな」とイーサンに腕を掴まれてしまう。「まじ痛い離せって! もう、ジェイス助けてぇ」とジェイスに泣きつくも「自業自得じゃないですか」とあしらわれ、そんなに彼をキーファが優しく慰めている。
――そんないつもの光景が、俺の胸を温かくさせた。
「んじゃー、無事お披露目出来たって事で。2人今日は残業無しだろ? 飲みに行くぞォ」
ギルバートの元気な声を皮切りに、各々が部屋を出ていく。
「おい、アオ。何してる早く来いよ」
そうイーサンが声を掛けるまで、夕陽が差し込むオレンジ色の室内をずっと見つめていた。
「おーい、イーサン。あれの準備が出来たぞー」
イーサンが非番の本日。
ソファで縺れ合うように抱き合っていた俺たちに向かって、開いたドアをノックしニヤニヤしながらそう伝えるギルバートの姿に、俺の顔が早速大爆発する。
「早かったな。……アオ、お前を連れて行きたい場所がある」
「俺を? どこだろう……」
そんな真っ赤になった俺の頬を撫で、いつになく優しい表情でそう告げるイーサンに、思わず首を傾げた。
>>>
2人に連れて来られた場所は、宿舎の目と鼻の先にある騎士団本部だった。
正門を入ると、軍服を身に纏ったキーファがぴょんぴょん跳ね、隣にそれを「落ち着け」と制止するジェイスの姿があった。
「だーんちょ、アオさん! 待ってましたよぉ」
「キーファ……ジェイスさんも」
「どうも。どうです、宿舎での生活には慣れましたか? 団長には言い難い困り事などあれば、いつでも言ってください」
「まぁ……ぼちぼち。ありがとうございます、ジェイスさん。優しいな……」
何だかんだで俺に優しく接してくれるジェイスの気遣いに、ほわっとした笑顔で返事をしていると、後ろから誰かに両肩を勢いよく掴まれた。
「……っっ!! き、キーファか。驚いた」
「へへっ! アオさん、こっちっすよぉ」
子供の様にはしゃぐキーファが、俺の手を掴んで駆け出す。
「ちょ、ちょっと待って」
イーサンの「おい、アオに触るな」という言葉を背に受けながら、覚束無い足をどうにか動かして、その後を追った。
キーファに手を引かれ、ぞろぞろと第2騎士団幹部を引き連れて向かった場所は、本部の建物左側にあるこじんまりとした石造りの建物だった。
「……っっ!! こ、れ……」
そう大きくは無い平屋建ての入口には「本日休診」の看板が掛けられている。
「ここは元々使っていない建物で、第2騎士団が物置として使っていたんだが、先日キーファが『ここを新しいアオの診療所にしたらどうか』と言い出してな」
呆然とそれを見つめる俺の横に立ったイーサンが、優しく肩に腕を回しそう教えてくれる。
「本部の敷地内ならば何かあってもすぐ対応できるので、アオさんも市民の皆さんも……なにより団長が1番安心かと思ったんすよね~」
……何故そこでイーサンが。
いや、ツッコむだけ無駄だろう。現に彼は今、キーファの言葉に「うんうん」と首を大きく縦に振っている。
「騎士団上層部に団長が掛け合ったところ、敷地内に診療所があれば隊員も利用が出来るので問題ないとの返答を頂き、こうして実現に至ったのです。まぁ、騎士団内にも従医師はいますが、隊員の数と比べて圧倒的に少ないですから……正直助かります」
ジェイスはそう告げると、入口のドアを開き「どうぞ中へ」と手を伸ばした。
招かれるまま足を踏み入れると、そこは元あった俺の診療所と大差無い光景が広がっていた。
「凄い。広さもレイアウトまで殆ど同じ……」
受付カウンターの場所も、そこから扉で区切られた奥にある診察室も全く同じだった。差があるとすれば、入口脇とコの字に置かれた待合ソファの間に観葉植物が置かれ、爽やかな空間になっている事位だった。
「全く別の物に……とも考えたが、同じ方がアオも動き易いだろうと思ってな」
目を輝かせる俺の横に立ったイーサンが、自信ありげにそう言う。
「って言ってるけど、コイツは物の配置を命令しただけで、実際動いたのは俺とキーファだからね」
俺を挟んでイーサンの反対側に立つギルバートは苦笑しながら、こっそり耳打ちで教えてくれた。
「観葉植物を置いた方が良いと提案したのは俺です」
後ろからジェイスのそんな声が聞こえると、俺の顔から思わず笑みが零れた。
「本当に……ありがとうございます、皆さん。こんなに嬉しいことないよ……」
鼻先がジーンして瞳が潤む。
俺は皆の方に身体を向けると、深々と頭を下げた。
素直に嬉しかった。
俺なんかの為に、皆がここまでしてくれるなんて。
「シャーロットにも今後の勤務はここで行うと伝えてある。アオの好きなタイミングで再開させたら良い」
なかなか上げることの出来ない頭を、イーサンが優しく撫でてくれる。
「うん、ありがとうイーサン。本当にありがとう皆さん。ここまでしてくれるなんて、もう何てお礼を言ったらいいか……」
「良いってことよ! アオちゃんはもう、第2騎士団幹部の一員みたいなもんなんだからさ。水くさいこと言うなって、な?」
じわっと込み上げる涙を指で拭う俺の肩にギルバートは腕回しを、反対の手でワシャワシャと銀髪が絡まる程に撫でると、すぐさま「近い、馴れ馴れしい、触るな」とイーサンに腕を掴まれてしまう。「まじ痛い離せって! もう、ジェイス助けてぇ」とジェイスに泣きつくも「自業自得じゃないですか」とあしらわれ、そんなに彼をキーファが優しく慰めている。
――そんないつもの光景が、俺の胸を温かくさせた。
「んじゃー、無事お披露目出来たって事で。2人今日は残業無しだろ? 飲みに行くぞォ」
ギルバートの元気な声を皮切りに、各々が部屋を出ていく。
「おい、アオ。何してる早く来いよ」
そうイーサンが声を掛けるまで、夕陽が差し込むオレンジ色の室内をずっと見つめていた。
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