難攻不落の異名を持つ乙女ゲーム攻略対象騎士が選んだのは、モブ医者転生者の俺でした。

一火

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1章

25-1

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 診療所再開を前に、早速シャーロットを新たな職場この場所へと招いた。彼女もその内装に、俺同様目を輝かせており「先生、ほんとに良かったですね……!」と俺以上に喜んでいた。
 
 明後日からの診療再開を控えシャーロットと準備に勤しんでいると、入口から見慣れた男がひょっこり顔を出した。
「お2人どうっすかー? 団長からの差し入れ持ってきたっすよ」
 優しい目元をにっこりと細めたキーファの手には、3人分のコーヒーが乗った紙トレーと何やら平たい箱が持たれていた。

「わっ、これ今話題のお店の新作ドーナツじゃないですか? 美味しそう……」
 待合室にテーブルを置き、その上でご開帳された箱の中身に、シャーロットは目を輝かせている。
「凄い……これはまた派手なドーナツ……」
 パステルカラーで装飾されたそれらは、最早食べ物である事を忘れそうな見栄えである。
「団長がわざわざ買ってきてくれたんすよ~。ホントは自分が持ってきたかったみたいなんすけど、今日は抜けられない会議があるらしくて、その命を俺が受けたっす」
 シャーロットさんはピンク色のドーナツを手に取り、俺は青いマーブル模様のものを口に含む。どぎつい見た目から少し身構えたが、予想に反してそれは優しい甘さが口いっぱいに広がる、それはそれは美味しい逸品だった。
「イーサン団長がわざわざ買ってきたんですか!? これめちゃくちゃ並ぶのに」
 シャーロットさんは既に2個目のドーナツを口に頬張りながら、目を大きく見開いている。
「そ、そうなの? 確かに美味しいし、見た目も可愛らしいから人気はありそうだけど……」
「自分がジェイスさんに言われて買いに行ったときは、2時間並びましたね」
「はぁっ!?」
 あのイーサンが、ドーナツ屋に2時間並んだって。
 驚きと同時に、彼がわざわざ長蛇の列に並んでいる姿を想像し、つい胸がきゅっと締め付けられた。ふと、2人の痛い視線が突き刺さっている事に気が付く。
 
「いやぁ、愛されてますねぇ先生。……聞きましたよぉ……イーサン団長の命血剣めいけつけん、貰ったって」
 
 オレンジ色のドーナツをもぐもぐ食すシャーロットの目は、好奇心からギラギラと輝いている。
「めい、けつけん……?」
 聞いた事無い言葉に、俺は首を傾げる。
 それにしてもシャーロットは何故それを知っているんだ、何処情報だよ。
「……っ……ごほっ、けほっっ……まじっすか!? それ俺も知らなかった。うわぁ……まじかぁ」
 黄緑色のドーナツを頬張るキーファは、驚きのあまりにせてしまったようで、シャーロットが「大丈夫ですか」とコーヒーを手渡していた。
「知らないなんて言わせませんよ先生。イーサン団長から、短剣貰ったでしょう」
「あぁ、これの事……?」
 ようやく1つ目のドーナツを食べ終わり空になった手を拭くと、腰に手を回して1本の短剣を2人の前に出した。
「うわぁ凄い、本物っ……」
 シャーロットは興奮気味に覗き込んでいるが、そんなに凄いものなんだろうか?
「まぁ、興味が無い人からしたら知らないっすよね。命血剣めいけつけんっていうのはですね、俺ら騎士が見習いから正騎士へと昇格した時の儀式で造られる、特別な短剣の名前です」
「へぇ、造るの?」
「そうっす! といっても、一般的な武器作製とは全く異なります。その造り方っていうのがですね、まず指先を少し切り、そこから出た血液を、真新しい銀色の短剣の上に垂らすんですけど……」
 キーファが箱の中にあるドーナツの1つを自分の前に運びひっくり返す。そして裏面の、何のデコレーションもされていないドーナツの上で、自分の指先を切る動きを見せた。
「ほう。それで……?」
「するとそこで魔法が発動され、その短剣は持ち主をイメージした短剣へと姿を変えるんです。その形は、この世で唯一無二のものだと言われているんす」
 ドーナツをひっくり返し、表の派手な部分を俺に見せた。
「自分の血液で仕上がった命血剣は、持ち主の半身とも言われていてですね……その生涯でただ1人、命枯れ果てるまで傍で守り続けると決めた相手に贈るんです。昔は忠義を誓った主に渡すことが一般的だったんですけど、昨今は騎士様がプロポーズの時に使うのが主流になってるんですよぉ~」
「……えっ」
 先程から溢れんばかりの笑顔を見せるシャーロットの言葉に、2個目の齧り始めたばかりのドーナツがポロリと零れ落ちる。
「いいなぁいいなぁ……マーくんは騎士じゃないから、私は貰うことが出来なかったんですけど……憧れるなぁ。好きな人から貰う命血剣って」
「はぁ~」と甘い息を吐きながら両手を合わせ、ときめきを噛み締めて居るし、キーファはキーファで「俺もジェイスさんのが欲しいなぁ」なんて、羨ましそうに手の中にあるイーサンの半身短剣を見つめていた。

 そんな事一言も言ってなかったよ!? そんな……プロポーズに使われる、って。
 思わず視線を落とし、今日も美しい輝きを放つ短剣をじっと見つめる。
 確かに、イーサンは「俺だと思って」って言ってたけど。
 途端にその短剣が愛おしくなる。
 真っ赤な顔でそれを見つめていると、なにやら横から生温い笑い声が聞こえる。
「いいですねぇ、先生。幸せそうで何よりですよ……」
「いやー、ホントにバカップルで……よかったですねぇアオさん……」
「……っっ……ちょ、買い出しに行ってくる!!」
 その場の空気に耐えられなくなった俺は、短剣を元あった腰に戻し、急いで残りのドーナツを口内に収めると逃げるよう診療所の外へと走り出した。




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