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1章
25-2
そんなこんなで町へと買い出しに赴き、騎士団本部へと戻ると、なにやら建物の前が騒がしい。
何かを囲むように、騎士団の皆が野次馬の列を成している。「なんだろう」と視線をそちらに向けて歩いていると「おーい。アオちゃん! こっちこっちー」と聞き慣れた声に呼ばれた。
黒山の人だかりの中からひょっこり顔を覗かせたキルバートは俺の姿を見つけるやいなや「おいでー」と手招きをした。
「何ですか、これ。なにか催し物でもあるんですか」
「まーまー、ちょっと面白いもん見られるからさ」
「アオくんの身長じゃ前が見えないだろ。私の前に来たらどうだ」
……まさかのアレフさんまでいる。
悲しいかな、彼の言うとおり周りに集まった隊士達は皆高身長。170センチ程しか無い自分は、当然のように埋もれてしまう。
2人に腕を引かれ、開けた視界の先に漸く目の前の光景が俺の目に飛び込んで来た。
1人の甲冑姿の男が、漆黒の軍服を着た男に剣を向けている。
「あれって……キーファ!?」
剣を突き付けられている男は、ハニーブラウンの髪を揺らしフワフワとした笑顔を浮かべている……紛れもない、キーファその人であった。
「キーファ・カイル・ハーマン。今こそ決着を付ける時が来た!」
「いや、決着も何も、アンタと因縁なんかないし、そもそも誰なんすかー?」
甲冑を身に付けた短髪の男は本部中に響き渡る威勢の良い声で、目の前に立つ男を威嚇しているようにも見える。対してキーファは先程から頭を掻き、見覚えの無い相手に首を傾げていた。
「えっ、なんの戦いなんですか。止めなくていいんですか!?」
診療所からの帰り道で捕まったのだろうか、目の前で始まろうとしている「決闘」に俺は思わずあたふたし、後ろに立つ壁のような2人を交互に見上げた。
「これはなァ……ジェイスを賭けた男の闘いだ」
「……は?」
顎に手を当て、にやけ顔でギルバートは俺にそう告げた。
「ジェイスはこの騎士団の華だからな。定期的にキーファはこうやって、彼のファンから喧嘩を売られるんだよ」
口元に手を置いたアレフは、先程から笑いが止まらない様子。
「は、はぁ……いや、にしたって危ないでしょキーファ。丸腰だし……」
戦場さながらのガチガチ装備で身を固めた相手に対して、キーファはいつもの軍服を身に纏っているだけ。武器らしい物を持っている様子もない。
「まーまー、見てなって」
ポンッと2人に両肩を叩かれ、俺は半信半疑で今から始まろうとしている戦いに顔を向ける
「取り敢えず、怪我でもしようものなら即座に助けないと……」と、青い宝石の光る左手をぎゅっと握った。
「いつもいつもジェイス様の周りをちょろちょろと……いい加減目障りなんだよッッ」
「はぁ。ジェイスさんから相手にされないからって、僻むの辞めてもらっていいっすか。そんなんだからジェイスさんが見向きもしないんじゃないんすかね。もうちょい色々見直した方がいいっすよー」
いい笑顔でそう言うキーファの言葉に、目の前の男の顔は沸騰寸前。
あー、あれだ。キーファって無自覚で相手煽るタイプか。
「こンの!!」
甲冑男が大きく剣を振りかぶると、それをさぞ面倒くさそうに欠伸をしながら、キーファはパチンッと宙で指を鳴らす。
すると、勢いよく飛びかかろうとする男の動きがピタリと止まってしまった。
「な、なんだよこれ……」
いつの間にか男の足には、木の根のようなものが幾重にも絡み付いており、全く身動きが取れない様子。
「あんま派手にやると団長に怒られるんで、今日のところはそのくらいでいいっすかね?」
太股の辺りまで這いずった根は、更に腰の辺りまで伸びてゆき、男の行動を抑制し続ける。
一瞬で勝敗は決まった。
「す、凄くないですか……キーファ……」
ヘラヘラした優男なのに、実は滅茶苦茶強いのでは無かろうか。
「まぁ、こんなものに負けるような奴なら、あのイーサンがご指名でキーファを幹部に招き入れたりはしないさ」
この茶番を見守るアレフが、ふっと鼻で笑いながらそう俺に告げた。
「唯一のイーサン推薦なんだよなァ、キーファって」
「アオさんに副団長……アレフ団長じゃないっすか~! ちょ、何覗き見してんすかぁ」
事の中心である彼が、俺たちの姿を見付けたようで、手を振りながら笑顔でこちらに駆け寄ってくる。
「……チッ」
未だ胸から下に根っこが巻き付いた男の方から、舌打ちする声が聞こえてきたかと思えば、銀色に輝くものが彼の背中に向かって飛ばされた。
「危ないっ……キーファ後ろ!!」
それが男の手にしていた剣だと気が付いた俺は、慌てて大きな声を出す。「え?」と振り向いた彼の背後まで、既にその剣は迫っていた。
「刺さるっ」そう思った瞬間に、一筋の赤黒い閃光が走ったかと思えば、キィィィン!! と耳を劈くような金属音が鼓膜へと飛び込んできた。
「馬鹿かキーファ。拘束の基本がなっていない。後で説教だ」
強い声でそんな台詞を放ち、低い態勢でカチッと腰に下げた鞘へと日本刀を収める……本日の主役の姿が、そこにあった。
いつも多彩な表情を持ち合わせてはいないジェイスだが、今の彼は無表情で瞳孔が開き、先程の閃光さながらの赤黒いオーラを全身に纏っているように見える。
戦いというものがまるで分らない素人の俺ですら感じる程の、ピリピリとした殺気立った空気がその場に流れていた。
「おーおー、珍しくジェイスが本気でブチ切れてんなぁ」
ポツリとギルバートが呟くと、引き攣り笑いを浮かべた俺は「めちゃくちゃ怖いんですが雰囲気……」と返すのが精一杯だった。
「ジェイスさん!!」
キーファはそんな彼の姿が視界に入るやいなや一目散に駆け寄る。
……おかしいな、モフモフの尻尾が彼の臀部に見える気がする。
殺気増し増しのジェイスの様子なんて構いもせず彼に飛び付くと、途端にジェイスの表情が穏やかなものへと変わり始めた。
「お前は鍛え直しだ、キーファ。……そして、お前」
ジェイスに抱き着こうと腕を広げたキーファの頬は平手で打たれ、跳ね返され地面へと落ちた剣の横で無様な声を上げる甲冑姿の男を、ジェイスは冷たい目で見下ろした。
「……お前は騎士団幹部への反逆者として、俺が直々に処罰する」
「その処罰、私も参加しようじゃないか」
俺の真後ろからそんな不穏な声が上がり、一気にこちらへと注目が集まる。おそるおそる後ろを振り向くと、そこにあるのはアレフのイイ笑顔。
「アレフ第1団長のお手を借りられるとは……」
最初は驚きの表情を浮かべていたジェイスの顔が、段々と歪み始める。
「当然。潔い闘いならば見守って居たものを…卑怯な真似は私の騎士道に反する。しかもソレはウチの隊員だ。……じっくりと教育し直そうじゃないか」
しっかりと両口角は上がって入るものの、その目は1ミリも笑ってはおらず……代わりにどす黒い影を携えている様に「あ、怒らせたらいけない人だな」とその日俺は心に刻んだ。
「凄かったよキーファ! めちゃくちゃ強いんだね」
「やめてくださいよ~アオさん、恥ずかしいなぁ」
ジェイスとアレフ、ついでにギルバートの手により男が地下牢へと連行されると、黒山の人だかりは瞬く間に散って行き、結局その場には俺とキーファだけが残された。
「っ、ふふ……」
先程の光景を思い出し俺が吹き出すと、キーファは少し怪訝そうに眉を寄せた。
「なに、どうしたんすかアオさーん」
「いや……ジェイスさんってさ、キーファの事大好きだよね。あんなに怒って……」
あのジェイスの様子。あれはどう見ても大事なものに手を出され怒りに満ちたものだった。普段キーファを怒ってばかりだけれど、愛情の裏返しなんだろうなぁ……としみじみ頷いていると、隣のキーファが「いやいやいや」と、ブンブン手を大きく横に振った。
「それは無いっすよアオさん~!! どうせまた馬鹿みたいな理由売られた喧嘩を買うなとか、風紀乱すなとか、そんな感じでジェイスさん怒ってただけっすから~」
「えー?いや、違うでしょ。……ジェイスさんは絶対、キーファのこと好きだと思うけどなぁ」
俺がそう呟くと、キーファは鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔になり、その場で固まってしまった。
>>>
「なんて事があったんだよね」
「俺の自由が効かない日に限って、そんな面白い事が起きてたのかよ」
互いの仕事が終わった夜、部屋の黒いソファに座りイーサンが振舞ってくれた夜食に手を付けながら、今日の出来事を早速報告していた。
「好きな人を賭けた闘いとか……本当にあるんだなぁ」
見目鮮やかなバゲットを口に含む。チーズとバジル、そして生ハムが織り成す三重奏に思わず「おいし……」と頬を緩ませた。
「……もし、俺を賭けた闘いを挑まれたら……アオはどうする?」
口角に残ったチーズをイーサンが指で掬いそのまま自分の口内と運びながら、そんな質問を俺に投げかけた。
突然の事に「えっ」と言葉を詰まらせるも、その問いの答えは俺の中で1つしか存在しない。
「闘うよ、勿論。闘ったことなんて無いけど……それでも闘う」
その言葉は、珍しく芯を持ち俺の口から放たれた。
するとイーサンは「ふふっ」と鼻で笑いながらも、俺の銀髪を愛おしそうに撫でる。
「そうか。まぁ、そんな事が絶対無いと言い切れはしないから、何かアオも戦う術を身に付けなければな」
「あるの!?」
いやまぁ、絶世の色男だもんな、無くはない……のか? いやでも、騎士団の皆は彼にビビり散らかしてるって聞くし、隠れファンとか?
「ありそう」と思わず呟いた俺の思考はお見通しなのか、彼は尚もクスクスと笑う。
「さぁ? まぁ、備えあれば憂いなしと言うからな」
「イーサン、は……?」
「うん?」
頭に置かれた手に自分の手を重ね、その指先をきゅっと握る。
「有り得るわけないけど、……俺を賭けた闘いとか……あったら、どうする?」
何の気なしに聞いた事を、後悔した。
だって、見上げたそこにあるのは……完全なる殺人鬼の顔貌。歪む片口角が更に高い位置へと上っている。
「当然受けるだろ。そして生きている事を後悔させてやるよ……存分にな」
良かった、俺がモブで本当に! ひとつの不幸を回避できた‼
「そっそっ、そういえば! ありがとう。ドーナツと……その、命血剣、も」
足されたワインに口を付けながら、イーサンに視線を向けると、彼も同じように深いボルドー色の液体を口に運んでいた。
「あぁ、聞いたのかその話」
「ワイン飲んでるだけなのに、なんでこんなにかっこいいんだろ」なんて思いながら、彼の言葉に頷く。
「うん、……ホントに俺が貰っていいの?」
「当たり前だろ。お前以外誰がいるんだよ」
「……嬉しい」
無事、妖艶な美男に返り咲いたイーサンが俺の手からワイングラスを取り上げ、ぎゅっと抱き締めてくれる。
「なら、大事にしてくれ。俺の次にな」
「もちろん。……大好き、イーサン」
照れ笑いながら言った言葉の返事は、優しい甘味を含むキスで返された。
何かを囲むように、騎士団の皆が野次馬の列を成している。「なんだろう」と視線をそちらに向けて歩いていると「おーい。アオちゃん! こっちこっちー」と聞き慣れた声に呼ばれた。
黒山の人だかりの中からひょっこり顔を覗かせたキルバートは俺の姿を見つけるやいなや「おいでー」と手招きをした。
「何ですか、これ。なにか催し物でもあるんですか」
「まーまー、ちょっと面白いもん見られるからさ」
「アオくんの身長じゃ前が見えないだろ。私の前に来たらどうだ」
……まさかのアレフさんまでいる。
悲しいかな、彼の言うとおり周りに集まった隊士達は皆高身長。170センチ程しか無い自分は、当然のように埋もれてしまう。
2人に腕を引かれ、開けた視界の先に漸く目の前の光景が俺の目に飛び込んで来た。
1人の甲冑姿の男が、漆黒の軍服を着た男に剣を向けている。
「あれって……キーファ!?」
剣を突き付けられている男は、ハニーブラウンの髪を揺らしフワフワとした笑顔を浮かべている……紛れもない、キーファその人であった。
「キーファ・カイル・ハーマン。今こそ決着を付ける時が来た!」
「いや、決着も何も、アンタと因縁なんかないし、そもそも誰なんすかー?」
甲冑を身に付けた短髪の男は本部中に響き渡る威勢の良い声で、目の前に立つ男を威嚇しているようにも見える。対してキーファは先程から頭を掻き、見覚えの無い相手に首を傾げていた。
「えっ、なんの戦いなんですか。止めなくていいんですか!?」
診療所からの帰り道で捕まったのだろうか、目の前で始まろうとしている「決闘」に俺は思わずあたふたし、後ろに立つ壁のような2人を交互に見上げた。
「これはなァ……ジェイスを賭けた男の闘いだ」
「……は?」
顎に手を当て、にやけ顔でギルバートは俺にそう告げた。
「ジェイスはこの騎士団の華だからな。定期的にキーファはこうやって、彼のファンから喧嘩を売られるんだよ」
口元に手を置いたアレフは、先程から笑いが止まらない様子。
「は、はぁ……いや、にしたって危ないでしょキーファ。丸腰だし……」
戦場さながらのガチガチ装備で身を固めた相手に対して、キーファはいつもの軍服を身に纏っているだけ。武器らしい物を持っている様子もない。
「まーまー、見てなって」
ポンッと2人に両肩を叩かれ、俺は半信半疑で今から始まろうとしている戦いに顔を向ける
「取り敢えず、怪我でもしようものなら即座に助けないと……」と、青い宝石の光る左手をぎゅっと握った。
「いつもいつもジェイス様の周りをちょろちょろと……いい加減目障りなんだよッッ」
「はぁ。ジェイスさんから相手にされないからって、僻むの辞めてもらっていいっすか。そんなんだからジェイスさんが見向きもしないんじゃないんすかね。もうちょい色々見直した方がいいっすよー」
いい笑顔でそう言うキーファの言葉に、目の前の男の顔は沸騰寸前。
あー、あれだ。キーファって無自覚で相手煽るタイプか。
「こンの!!」
甲冑男が大きく剣を振りかぶると、それをさぞ面倒くさそうに欠伸をしながら、キーファはパチンッと宙で指を鳴らす。
すると、勢いよく飛びかかろうとする男の動きがピタリと止まってしまった。
「な、なんだよこれ……」
いつの間にか男の足には、木の根のようなものが幾重にも絡み付いており、全く身動きが取れない様子。
「あんま派手にやると団長に怒られるんで、今日のところはそのくらいでいいっすかね?」
太股の辺りまで這いずった根は、更に腰の辺りまで伸びてゆき、男の行動を抑制し続ける。
一瞬で勝敗は決まった。
「す、凄くないですか……キーファ……」
ヘラヘラした優男なのに、実は滅茶苦茶強いのでは無かろうか。
「まぁ、こんなものに負けるような奴なら、あのイーサンがご指名でキーファを幹部に招き入れたりはしないさ」
この茶番を見守るアレフが、ふっと鼻で笑いながらそう俺に告げた。
「唯一のイーサン推薦なんだよなァ、キーファって」
「アオさんに副団長……アレフ団長じゃないっすか~! ちょ、何覗き見してんすかぁ」
事の中心である彼が、俺たちの姿を見付けたようで、手を振りながら笑顔でこちらに駆け寄ってくる。
「……チッ」
未だ胸から下に根っこが巻き付いた男の方から、舌打ちする声が聞こえてきたかと思えば、銀色に輝くものが彼の背中に向かって飛ばされた。
「危ないっ……キーファ後ろ!!」
それが男の手にしていた剣だと気が付いた俺は、慌てて大きな声を出す。「え?」と振り向いた彼の背後まで、既にその剣は迫っていた。
「刺さるっ」そう思った瞬間に、一筋の赤黒い閃光が走ったかと思えば、キィィィン!! と耳を劈くような金属音が鼓膜へと飛び込んできた。
「馬鹿かキーファ。拘束の基本がなっていない。後で説教だ」
強い声でそんな台詞を放ち、低い態勢でカチッと腰に下げた鞘へと日本刀を収める……本日の主役の姿が、そこにあった。
いつも多彩な表情を持ち合わせてはいないジェイスだが、今の彼は無表情で瞳孔が開き、先程の閃光さながらの赤黒いオーラを全身に纏っているように見える。
戦いというものがまるで分らない素人の俺ですら感じる程の、ピリピリとした殺気立った空気がその場に流れていた。
「おーおー、珍しくジェイスが本気でブチ切れてんなぁ」
ポツリとギルバートが呟くと、引き攣り笑いを浮かべた俺は「めちゃくちゃ怖いんですが雰囲気……」と返すのが精一杯だった。
「ジェイスさん!!」
キーファはそんな彼の姿が視界に入るやいなや一目散に駆け寄る。
……おかしいな、モフモフの尻尾が彼の臀部に見える気がする。
殺気増し増しのジェイスの様子なんて構いもせず彼に飛び付くと、途端にジェイスの表情が穏やかなものへと変わり始めた。
「お前は鍛え直しだ、キーファ。……そして、お前」
ジェイスに抱き着こうと腕を広げたキーファの頬は平手で打たれ、跳ね返され地面へと落ちた剣の横で無様な声を上げる甲冑姿の男を、ジェイスは冷たい目で見下ろした。
「……お前は騎士団幹部への反逆者として、俺が直々に処罰する」
「その処罰、私も参加しようじゃないか」
俺の真後ろからそんな不穏な声が上がり、一気にこちらへと注目が集まる。おそるおそる後ろを振り向くと、そこにあるのはアレフのイイ笑顔。
「アレフ第1団長のお手を借りられるとは……」
最初は驚きの表情を浮かべていたジェイスの顔が、段々と歪み始める。
「当然。潔い闘いならば見守って居たものを…卑怯な真似は私の騎士道に反する。しかもソレはウチの隊員だ。……じっくりと教育し直そうじゃないか」
しっかりと両口角は上がって入るものの、その目は1ミリも笑ってはおらず……代わりにどす黒い影を携えている様に「あ、怒らせたらいけない人だな」とその日俺は心に刻んだ。
「凄かったよキーファ! めちゃくちゃ強いんだね」
「やめてくださいよ~アオさん、恥ずかしいなぁ」
ジェイスとアレフ、ついでにギルバートの手により男が地下牢へと連行されると、黒山の人だかりは瞬く間に散って行き、結局その場には俺とキーファだけが残された。
「っ、ふふ……」
先程の光景を思い出し俺が吹き出すと、キーファは少し怪訝そうに眉を寄せた。
「なに、どうしたんすかアオさーん」
「いや……ジェイスさんってさ、キーファの事大好きだよね。あんなに怒って……」
あのジェイスの様子。あれはどう見ても大事なものに手を出され怒りに満ちたものだった。普段キーファを怒ってばかりだけれど、愛情の裏返しなんだろうなぁ……としみじみ頷いていると、隣のキーファが「いやいやいや」と、ブンブン手を大きく横に振った。
「それは無いっすよアオさん~!! どうせまた馬鹿みたいな理由売られた喧嘩を買うなとか、風紀乱すなとか、そんな感じでジェイスさん怒ってただけっすから~」
「えー?いや、違うでしょ。……ジェイスさんは絶対、キーファのこと好きだと思うけどなぁ」
俺がそう呟くと、キーファは鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔になり、その場で固まってしまった。
>>>
「なんて事があったんだよね」
「俺の自由が効かない日に限って、そんな面白い事が起きてたのかよ」
互いの仕事が終わった夜、部屋の黒いソファに座りイーサンが振舞ってくれた夜食に手を付けながら、今日の出来事を早速報告していた。
「好きな人を賭けた闘いとか……本当にあるんだなぁ」
見目鮮やかなバゲットを口に含む。チーズとバジル、そして生ハムが織り成す三重奏に思わず「おいし……」と頬を緩ませた。
「……もし、俺を賭けた闘いを挑まれたら……アオはどうする?」
口角に残ったチーズをイーサンが指で掬いそのまま自分の口内と運びながら、そんな質問を俺に投げかけた。
突然の事に「えっ」と言葉を詰まらせるも、その問いの答えは俺の中で1つしか存在しない。
「闘うよ、勿論。闘ったことなんて無いけど……それでも闘う」
その言葉は、珍しく芯を持ち俺の口から放たれた。
するとイーサンは「ふふっ」と鼻で笑いながらも、俺の銀髪を愛おしそうに撫でる。
「そうか。まぁ、そんな事が絶対無いと言い切れはしないから、何かアオも戦う術を身に付けなければな」
「あるの!?」
いやまぁ、絶世の色男だもんな、無くはない……のか? いやでも、騎士団の皆は彼にビビり散らかしてるって聞くし、隠れファンとか?
「ありそう」と思わず呟いた俺の思考はお見通しなのか、彼は尚もクスクスと笑う。
「さぁ? まぁ、備えあれば憂いなしと言うからな」
「イーサン、は……?」
「うん?」
頭に置かれた手に自分の手を重ね、その指先をきゅっと握る。
「有り得るわけないけど、……俺を賭けた闘いとか……あったら、どうする?」
何の気なしに聞いた事を、後悔した。
だって、見上げたそこにあるのは……完全なる殺人鬼の顔貌。歪む片口角が更に高い位置へと上っている。
「当然受けるだろ。そして生きている事を後悔させてやるよ……存分にな」
良かった、俺がモブで本当に! ひとつの不幸を回避できた‼
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足されたワインに口を付けながら、イーサンに視線を向けると、彼も同じように深いボルドー色の液体を口に運んでいた。
「あぁ、聞いたのかその話」
「ワイン飲んでるだけなのに、なんでこんなにかっこいいんだろ」なんて思いながら、彼の言葉に頷く。
「うん、……ホントに俺が貰っていいの?」
「当たり前だろ。お前以外誰がいるんだよ」
「……嬉しい」
無事、妖艶な美男に返り咲いたイーサンが俺の手からワイングラスを取り上げ、ぎゅっと抱き締めてくれる。
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