難攻不落の異名を持つ乙女ゲーム攻略対象騎士が選んだのは、モブ医者転生者の俺でした。

一火

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1章

こぼれ話.可愛い思い出

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『ねぇにいさま。ぼくも、にいさまのようなつよいおとこになる』

 いつも私の後ろを付いてきては何かにつけて泣く、泣き虫イーサンがそんな事を言い出したのは、彼が5歳の頃だったろうか。

 ギルバートと共に鍛練を終え部屋に戻ると、待ち構えていたイーサンがそんな事を口にした。
『どうしたイーサン、突然だな』
『……にいさま、ギルやウィルとばっかりあそんでてずるい。つよくなったらいっしょにあそんでくれるでしょ』
 腰に抱き着いて離れない彼の頭を「よしよし」と撫でてやると、俯いたままそう静かに呟いた。

 ……仲間はずれで、さみしかったのか。

 「ぐすっ」と声を上げるイーサンの姿が何とも可愛らしくて、私の口から思わず笑みが零れる。「いい子だから1回離そうな」と彼の身体を離し、しゃがむと眉を下げ目を真っ赤にして懸命に涙が零れるのを耐えている彼と目が合う。
『私とギル、そしてウィルは遊んでいるわけじゃないんだよイーサン。騎士になる為の訓練をしているんだ』
 長袖で目元をゴシゴシと拭い顔を上げたイーサンは、クリクリの大きな目をさらに大きく開き、首を傾げている。
『きし……とうさまみたいな?』
 私たち兄弟が「騎士」と言われて真っ先に思い浮かぶのが、父親の姿だった。
 王国騎士・第1騎士団長の父親は、いつもは穏やかな笑顔を浮かべる人の良い男だったが、ひとたび騎士の制服に袖を通せば勇猛果敢で立派な存在へと変わる。その大きな背中に憧れ、私は物心ついた頃「父のようになりたい」と自ら騎士になる事を志願した。
『そうだよ。父様みたいな強くてかっこよくて、誰かを守る事ができる。私はそんな騎士になりたいんだ』

 目線を合わせたまま、両手でイーサンの両肩をぎゅっと掴むと、あれ程泣き虫だった彼の顔が急に凛々しいものへと変わった。

『……ぼくも、なりたい』
『イーサン?』
『とうさまもにいさまも、すごくかっこいい。ぼくもそうなりたい』

 そこにあるのは、決意を宿した瞳だった。
 何度かイーサンと、父親の仕事ぶりを見に騎士団本部へ言ったことがある。そこで見た勇ましい父の姿は、当然のようにイーサンの瞼にも焼き付いていたのだろう。

 まだ小さなその手のひらを力強く握る彼に、思わず笑みが零れる。
 
『そうか、イーサン。ならば一緒に訓練が出来るよう父様に言っておこう。……それと騎士になりたいなら、そんな泣き虫ではダメだぞ』
『わかった。ぼくもう、ぜったいなかない。やくそくする』
『そうか。ならば、私とここで約束を交わそう』

 互いの小指を絡め「誰よりも強い男になろうな」とこの時誓い合った。



>>>

「なんて言うのがな、この写真を撮る前にあったんだ。懐かしいな」
 テーブルの上には、自分の身丈より大きな剣を持つ紺碧の強い瞳を放つ子供と、その両脇を挟んでレンズ越しに笑顔を贈る兄たちの姿を切り取った、1枚の写真が置かれていた。

 俺は、両手で顔を覆い隠した。

 可愛い……すぎるだろ。その写真のイーサンも可愛すぎるが、なんだよそのエピソード。

「そんなピュアで可愛いの塊だった子供が、何をどう間違えたらあんな天上天下唯我独尊男になるんですか……」
「はは、アオくんも言うねぇ」

 休日のある日。
 珍しくイーサンと休みが合わず「何をしよう」と宿舎の庭に置かれたベンチへ座り、ゆっくりと流れる雲を眺めている時だった。何故か第2騎士団の宿舎内から出てきたアレフと鉢合わせ「アオくん暇そうだね。良ければいつかの約束を果たさないか?」と、声を掛けられそれを快諾した。
 こうしてやって来た第1騎士団の宿舎は第2騎士団のそれと大差がなく、こちらも4階に置かれているアレフの部屋へとお邪魔することとなった。

 にしたって、イーサン……美少年過ぎるだろ。

 出された紅茶に口をつけながら、並べられた他の写真に手を伸ばす。
「しかし、イーサンが泣き虫だったなんて信じられないな」
 手元の、満面の笑みでこちらを見るイーサン(5)を見つめるのが止まらない。
「いつだったか、登った木から降りられなくなって大号泣した事もあったな」
「なんですか!! そのとっても素晴らしエピソード」
 想像しただけで笑みが零れる。思わず、彼の写真を抱き締め悶えてしまった。

「そういえば、ウィルって……誰なんですか?聞いた事無いな」
 ふと、アレフが口にした聞き覚えの無い名前が気になった。
「あぁ、ウィル……ウィリアムは我々の幼馴染のひとりでな。ある理由で数年前、この騎士団から退いた男だ」
 そう言って差し出された写真には、4人の少年達が仲睦まじく並んでいる。

「この褐色肌の子が、ウィリアムですか?」
 イーサンの隣で互いの肩を抱く、金色の少年を指さす。
「あぁ、そうだ。イーサンとは歳が近いのもあってか、仲が良くてな、親友の様な存在だったよ」

 イーサン、友達……居たんだ。
 少し意外だった。彼が幹部の人達以外と慣れ親しむ所を見たことが無かったから。

 ……ん?ウィリアム……何処かで聞いた事あるな?何処だったっけ。
 
 腕を組み唸る俺を見ながら、アレフは足を組みかえチラッとドアの方に目線を向けた。
「他にもエピソードは何個もあるが……残念。今日はどうやらタイムリミットのようだな」
「へっ? どうい……」
 
「アオはここか!!」
 
 俺が言い終わる前に、部屋の分厚い扉が勢いよく開かれた。

 背後から発せられた大声に驚き振り向くと、そこには息を荒くしたイーサンが立っていた。いつも涼しい顔をしている彼の額に、珍しく汗が滲んでいる。
「イー、サン?」
「探したろ……どこ行っても姿見えないから……」
 一目散に俺の元に駆け寄ってきたイーサンは、驚きのあまり立ち上がった俺の身体をぎゅっと抱き締めた。

 手の中に握られた写真の彼が、こんなにも大きくなったのかと思うと、何故か胸が熱くなった。
 ――いや、俺は親か。

「おや、イーサン。随分早かったな」
 部屋の主は、抱き合う俺たちの様子なんか構いもせず、優雅に紅茶を嗜んでいる。
「っ、兄貴……アオを連れ込んで何を……っっ!?」
 アレフを一瞥しようとした彼の目に、テーブルに置かれた何枚もの思い出メモリアルが飛び込んだのだろう。俺から手を離し、勢いよくそれに手を伸ばす。
 
「それはだめ!!」
 
 聞いた事のない程の大声と、運動不足とは思えない瞬発力でイーサンのド肝を抜いた俺は、どうにかその可愛らしいイーサン(5)を死守した。

 「なっ、……アオ、いい子だからそれ……返せ」
 ポンっと肩に手を置き、圧をかけるイーサンに「いやいや」と写真をぎゅっと胸に抱き締めた。
「これはだめ。これはもう俺のです。何があってもイーサンには渡しません」
 珍しく眉を釣り上げ、じっと睨み付ける様に「えっ……え?」と当の本人イーサンはたじろいでいるし、紅茶を置いたアレフは声を殺して笑っている。
「いや、そこに写ってるの俺なんだから、俺のだろ」
「嫌です。無理に取ったりなんかしたら、俺は今日家に帰りません。アレフさんの所に泊まります」
 「ぶふっ……」と、ここで遂にアレフさんの口から押し殺せなかった笑い声が漏れてしまった。
「構わないよ。アオくんならば大歓迎だ。……今宵は熱い夜にしようじゃないか」
 人の悪い笑みでそう言いのけるアレフに、イーサンの血管は破裂寸前。
 俺の腕を掴むと「帰るぞ!!」とズカズカ部屋を出て行ってしまった。



>>>

「可愛いなぁ。これ、診療室のデスクに飾ろう」
「止めろ。なんだその公開処刑は」

 部屋に帰って仲良くソファに並んで座っても、俺がイーサン(5)を愛でるのが止まらない。口元を手で覆いチラッと俺を見たイーサンは、空いた手で俺が眺めていた写真をピッと取り上げてしまった。
「あ、ちょっと何するの!!」
「んなガキの頃の写真見て、何が楽しいんだよ」
 それを再び自分の手に取り戻し、俺は再びほわっとした笑顔を写真に向けた。
「楽しいよ。……好きな人の昔を知れるって、凄く……楽しい」
 パッと顔を上げた先にあったのは、頬を赤らめ視線を泳がせるご尊顔。
「……っ、……何言ってんだ……」
「ねぇ、イーサン照れてる? 照れてる、よね?」
 何時になく強気な俺が詰め寄ると、そのはしゃいだ唇はすぐさま塞がれ黙らされてしまう。
「……お前のガキん時の話も聞かせろ」
「えっ? うーん、前世の時のでいいかな」

 その日は夜遅くまで、互いの思い出話に花が咲いたのであった。


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