難攻不落の異名を持つ乙女ゲーム攻略対象騎士が選んだのは、モブ医者転生者の俺でした。

一火

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1章

35-1

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「ピーッッピピーー!!」

 バサバサという羽音と共に、耳をつんざくような鳥の鳴き声が耳に飛び込んで来た。

「っチッ……ンだよこいつ。どっから入って……」
 突如として俺を拘束していた腕の力が緩む。
 何事かと、目を開き後ろを振り向くと、グスタフの顔面に見た事のある白いフワフワした塊が張り付いていた。
「ぴ、ピーちゃん!?」
 間違いない。フェニックスの代わりに召喚されたヒヨコのピーちゃんが、フードで覆われた顔面に張り付いている。どうにかそれを引き剥がそうとグスタフが腕を大きく動かした時、左手に持たれて居た腕輪が宙へと放り出された。

 放射状に飛ぶ銀の軌跡を、思わず視線で追う。
 その時向かいから、ザッと人が動く音が聞こえた。横目で確認すると、フタバが今まさに腕輪を奪わんと身体を飛び出している。

「ダメっ!!」
 ダメだ。何故だかわからないけど、あれは絶対フタバに渡したらいけない気がする。

 そう脳が考えるより早く、俺の足も指輪に向かって飛び出していた。

「おい、ふざけん……」
 漸く鳥を取り払ったのであろうグスタフが怒声を上げてはいるが、何故かその言葉は途切れてしまっている。

「……お前、……俺のアオを随分可愛がってくれたみたいだな……」

「はっ、随分と遅いご到着で?」

 背中から何より聞きたかった愛しい声が聞こえる。今すぐ振り向きたい、その姿を確認したい。
 ――でも今は、それよりも先に……!!
 高い場所に放られた腕輪目掛け、腕を伸ばし思い切り飛び上がる。

「あと少し……あと少しで届く……」

 伸ばされた右手中指の先が銀色に輝く縁へと触れた瞬間、顔面に堅いものが思い切りぶつかった。
「……痛っ」
「……邪魔するなァァ」
 それが、俺と同じ様に飛び出したフタバだと気付いたのは、2人が思い切りぶつかり合い、床に転がった後だった。
「……っ、石頭すぎる……」
「アオ!!」
 ぶつけた額を手で抑えながら、どうにか上体を起こすと、フワッと慣れたあの甘い香りが俺の身体を包んだ。
 ゆっくり顔を上げると、そこにはイーサンが俺を片手に抱き、もう片方に握られた真っ青な剣を、向かいでうずくまる男に向けていた。
「イー、サン……なんで……」
「説明は後だ。怪我は? 頭打ったのか」
 驚き呆ける俺とは裏腹に、彼はフタバを睨み付けたまま、グッと俺を抱く腕に力を込めた。
「だい、じょうぶ。……そうだ腕輪!!」
 ハッとして自分の右手に目をやる。そこには深紅の布と一緒に、銀色に輝く例の腕輪がしっかり握られていた。
 「良かった……」と胸を撫で下ろすも同時に、手に握られたローブの向こうから、蹲った男が「んっ……」と声を上げながら起き上がろうとしていた。
 その姿を見たイーサンと俺は……言葉を失う。
 姿を隠したローブが取り払われた男の姿は、俺たちがよく知っている「フタバ」の姿とはまるで別人。

 「いてて……嫌だな、見ないでくれる? 今日は変化へんげをしていないんだから……」

 ――少年のような顔立ち、ミルクティーベージュの髪の向こうには、翠色エメラルドの瞳。

「うそ、だろ?」
 だって……だって君は……
 背後から「おい、ふざけんなお前!!」と叫ぶギルバートの声が聞こえ、次のグスタフの言葉に、目の前にいる男が思っている人物で間違いないと確信に変えた。

「アーク! 怪我は!?」

その姿は紛れもない、アーク・ローレンス・レナード第2王子だった。

 流石のイーサンも、目を大きく開き固まって。だが俺は、次に飛び込んで来た男の姿で、瞳が零れ落ちそうになる。
 ギルバートの拘束を振り切る際に、グスタフはローブも仮面も捨てたのだろう。
 漆黒の髪に、殆ど白に近いグレーの瞳を携えた切れ長の目。「フタバ」を抱き締めその身を案じる「グスタフ」の顔は……俺が知っている顔だったんだから。

「あぁ、心配ないレオン」

 レオン・ブラッド
幻想夜想曲ファンタジーノクターン、攻略対象者6名の中の1人、殺し屋。


「どう……なっているんだ……」
 フタバがアーク王子で……グスタフがレオン……?
 飛び込んで来た情報が多すぎて、まるで脳の処理が追い付かない。
「っ……は? どうなってンだよ……一体……」
 俺たちと同じく、言葉を失うギルバートの声が聞こえる。


「団長ッッアオさん! どこです、無事ですか!?」
 遠くの方から、ジェイスが俺たちを探す声が聞こえると、レオンが「チッ」と舌打ちをし、アークを抱いたまま宙に手を翳す。するとすぐに彼らの下の魔法陣が煌々と光り始めた。
「一旦引くよ、アーク。君の治療が先だ」
 床へと転げ落ちた時に打ち付けたのか、額から血を流すアークを抱き締めたレオンがそう言うやいなや、2人の体は光に包まれ始める。

「おい、アオ……全部お前の所為だからな。お前の所為で、こいつらは生きる場所どころか、命を失うんだ。はは! はははは!!」

 レオンに抱かれたまま狂気に満ち溢れた声で笑うアークは、いつか茶会に同席した時に見た、人見知りで恥じらう笑顔が可愛らしい姿とはまるで別人。瞳孔が開き、人を嘲笑うかのように開かれた大きな口は、ただただ恐怖を俺に与えた。

「アオ、聞くな!!」
 イーサンがグイッと俺の頭に腕を回し、その声から遠ざけるよう自分の胸へと押し付ける。

「さようなら。アオ、イーサン」

「……待てよ!!」

 輝きが強くなる魔法陣の中で、別れの言葉を告げるアークに、思わず叫び声を上げる。
「何……」
 思ってもいない俺の行動に、アークは狂気の笑いから煩わしい表情へと面持ちを変える。
 俺は息を飲み、ぎゅっと胸の辺りで拳を握った。

「お前らがどれだけ他人を傷付けても、全部救ってみせる。……俺は、医者だ」

 ――それは、決意の言葉だった。
 俺は武力で戦う事なんて出来ない。だけど、救う事は出来る。ならば、俺なりの『戦い』をお前達としようじゃないか。

 俺はもう、所詮モブだと自分をさげすむのを止めたんだ。

 眉を釣り上げ、じっと彼の目の奥を見詰める。するとアークは、一瞬「ふっ」と真顔になったかと思えば、すぐその表情をくしゃっと崩した。



「……知ってるよ、


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