難攻不落の異名を持つ乙女ゲーム攻略対象騎士が選んだのは、モブ医者転生者の俺でした。

一火

文字の大きさ
71 / 85
1章

35-2

しおりを挟む
 「……えっ……?」



 その言葉を最後に、2人はそこから跡形もなく消え去ってしまった。

「おい、お前ら!!」
 慌ててギルバートが駆け寄るも、時すでに遅し。何事も無かったかのように、そこには堅い石の床と背丈の短くなった蝋燭が燃えているだけであった。

「団長、アオさん!!」
 ジェイスが部屋に飛び込み、少し遅れてアレフがその場に合流した。
「……何があった」
 俺とイーサン、そしてギルバートのただならぬ表情に、部屋に入るなりアレフが怪訝そうに眉を寄せた。
「……フタバの正体は、アーク第2王子だった。気付いてたんだろう、兄貴」
 俺を腕に抱いたまま、2人が消え去った場所を見つめイーサンが口を開く。
「やはり、そうだったか……」
 顎に手を当て目線を下に向けるアレフは、何かを考えているるのか言葉を詰まらせる。そんな彼に、ギルバートはズカズカと近寄ると胸ぐらを掴み詰め寄った。
「やっぱりって、どういう事だよアレフ!! お前何か知って……」
「あの、グスタフという人。あの人を俺……知っています」
 決して良いとは言えない雰囲気の中、手の中の腕輪をぎゅっと握りながら、震える声で俺は呟いた。
「アオ……?」
 そんな俺の言葉に驚きを隠せないイーサンは、今まで以上に目を開いてこちらを見つめている。
「レオン・ブラッド。……プロの殺し屋です」
「はぁ!? っもう、何が何だか訳わかんねー」
 アレフを解放したギルバートは、その手でぐしゃぐしゃと自分の頭を搔く。


「……残念ですが、ここで悠長にしている暇は無いようです」
 開けたままになっていた扉の向こうを、先程から気に掛けていたジェイスが、慌てた様子で走ってくるキーファの姿を見つけ俺たちにそう告げる。「はぁ、はぁ……」と息を切らしながら部屋に駆け込んで来たキーファの姿に、俺たちの視線は一斉に集まった。
「建物周囲に防護壁を張っておいたんですが……敵が……狂信者達が……もう持たないっす」
「どういう事だ? 敵は来る道中、全てほふったはずだろう」
 イーサンの一際厳しい声が、彼に飛ぶ。

 俺が来た道には、誰も居なかったはずなのに。
 戦えない俺が間違いなくここに辿り着けるよう、全て奴らの計算だったのか。
 今更敵の術中に、まんまと嵌った事に気が付き、ギリッと拳を握る所作に力が入る。

「それが……狂信者と化した人間や、魔法で召喚されたアンデッド系の騎士が綺麗に全てまるっと復活したみたいで、囲まれてんすよぉ」
 泣きそうな声で放たれた言葉は、全員に重い影を落とした。

「そん、な……」

 一体外は、どうなっているんだ。もしかしなくても、かなりヤバい状況なんじゃないか。
 そんな俺の不安を助長するかのように、アレフが深いため息を付く。

「一先ず此処を離れるしかないな……」

 それにはそこに居る誰もが、首を縦に降った。そんな中キーファが、申し訳なさそうに項垂れる。
「道中での戦闘と大規模防護壁の展開で、全員が脱出出来る程の召喚獣をすぐ出すには、魔力が足らないっす……」

「それはいい。また全てを斬りながら、前に進めばいいだけだ」

 そう言ってスっと立ち上がったイーサンの手には真っ青な剣がしっかり握られていた。
「まっ、脳筋戦法は俺らの十八番おはこだからね~がんばりますか」
 「ははっ」と彼らしい軽い笑いを浮かべたギルバートが肩を竦めながら槍を手にし、襟を正したアレフもグッと大剣を握り混んだ。
「だからその脳筋戦法を止めるよう、俺がいつも戦略を立ててたんですけどね。……緊急事態の今は、それに乗っかるとしましょう」
 そう言いながらキーファに近寄ったジェイスは「いつまでそうしてる。しっかりしろ!」と彼の背中を叩き活を入れていた。
 つられて立ち上がった俺の手を、イーサンはぎゅっと強く握ってくれる。
 
「アオ、お前のことは俺が絶対に守る。だから何があっても傍を離れるな」
 
 これまで以上の真剣な表情に、俺は強く頷く。
 大丈夫。
 こんな心強い仲間がいるんだ、絶対に切り抜けられる。
 自分を奮い立たせるように、自らもグッとイーサンの手を握り返した。
「ピッピーー」
 肩にピーちゃんが乗った所で、準備は万全。

「よし。行くぞォお前ら!! 死ぬ気で斬り倒せ!!」

 イーサンの勇ましい声と共に、一気に外への脱出が始まる。


 ――知らない、蒼生は。こんな場面エンディング

 それは不安か武者震いか。
 小刻みに震える俺を、イーサンが一際強く自分の方へと引き寄せた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています

柚吉猫
BL
生前の記憶は彼にとって悪夢のようだった。 酷い別れ方を引きずったまま転生した先は悪役令嬢がヒロインの乙女ゲームの世界だった。 性悪聖ヒロインの弟に生まれ変わって、過去の呪縛から逃れようと必死に生きてきた。 そんな彼の前に現れた竜王の化身である騎士団長。 離れたいのに、皆に愛されている騎士様は離してくれない。 姿形が違っても、魂でお互いは繋がっている。 冷然竜王騎士団長×過去の呪縛を背負う悪役弟 今度こそ、本当の恋をしよう。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

処理中です...