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「多分、蒼士は前世で国外追放になった後のことを多分知らないだろ。」
暁史さんの言っている通りだった。
「俺とエレナは上手くいかなかったし、エリザベータは別の国で幸せに暮らしたんですよ。」
「……まあ、強かな女性でしたからね。」
エリザベータのその後については別に驚く事はなかった。俺の記憶のある彼女は強かな女性だった。
きっとなんとかとかしたのだろう、という納得感はある。
自分の前世なのにまるで人事の様に思ってしまうが、彼女は俺ではないのだ。
どうしても他人事の様に思ってしまう。
「……やっぱり。
蒼士は自分の前世の事を完全に他人事だと思ってる。」
「当たり前でしょう。」
当たり前だ。誰だってそうだけれど前世の事を何もかも覚えているわけじゃない。先月の夕飯のメニューをもうほとんど覚えていないみたいに前世の事だってかなり忘れているのだ。
はあ、と大きく暁史さんは溜息をついた。
「じゃあ、なんで俺の前世が俺にとっても、もう他人事だと思わないんですか?」
「だって、それは――」
あんなにうっとりとエレナと比較をしていたじゃないか!そう叫ぶのは、まるで自分の前世での嫉妬深さを引きついているようで嫌だった。
「運命だったんじゃないんですか?」
あんなに運命だと言っていた男が、まるで自分は現実主義者でこちらがロマンチストすぎて現実が見えていないと言っているみたいだ。
俺が暁史さんを元伯爵のご子息だとしか見ていなかった事は事実だけれど、自分の認識とは逆の事をになっているとはさすがに思えない。
「勿論、運命だと思ってますよ。前世とは関係なく。」
あの時と同じ、蕩けるような笑顔だった。
だって、とか、でも、とか彼の言葉を否定するためのものばかりが喉から出てきそうになる。
「別に、君がエリザベータだったとして、何が困るんですか?だって俺はあれだけ手に入れたかった男なんでしょう?」
「アンタは勝手だ。自分から前世を持ち出しておいて今度は前世は関係ないって言う。」
暁史さんは甘やかな笑顔を浮かべた。
「当たり前でしょう。俺を聖人君主かそれとも公明正大な伯爵様とでも勘違いしていたんでしょうね。」
言っている事は傲慢なのに表情は悲しげに歪んでいる。
それを見るとこちらまで苦しくなってしまう。
「……前世の記憶に欠損がある事は珍しくないんだよ。」
そりゃあそうだ。俺だって国外追放処分以降の記憶はない。
それが、何かの拍子に思い出す事もあるみたいだねえ。のんきに暁史さんは付け加えたが、要は自分がそうだったということだろう。
「今日の“エレナ”みたいに態と忘れたフリよりはいいだろう?」
あの転校生は何かを忘れていたのだろうか。けれどそれよりも、暁史さんが何故そんな風に言うのかの方が気になった。
「御伽噺だと信じていたものが違っていたと気がついただけです。
それでも、君のことが好きなんだけど、もう信じてもらえないかもしれないね。」
暁史さんに言われて思わず首を横に振ってしまう。
意図して追放以後の話をしていない事は分かっている。
けれど、それこそ前世の事は関係のない話に思えた。
「残念でした。俺は伯爵家のご子息では、もうないよ。」
暁史さんに言われる。
「俺が言えた義理はないけど、今の俺だけみて考えて欲しい。」
いつもの様な丁寧な話し方ではなくなっていることにはさすがに気がついている。
自分がエリザベータじゃなく、単なる蒼志として暁史さんをどう思っているのか。
思わずじいっと彼のことを見てしまう。
最初に保健室に付き添ったのは、彼の顔色があまりにも悪かったからだ。
元々暁史さんは人気のある生徒だ。俺が助けなくても誰かが手を貸しただろう。
そんな事は分かっていた。だけど、声をかけずにはいられなかったのだ。
「……本当になかった事にできると思っていますか?」
「でも、最初から隠しているよりはマシでしょう?」
まあ、それもそうか。あそこで暁史さんも俺も口を滑らせなければ、罪悪感を感じていて友人にすらなれなかったかもしれない。
「仕方がないですね。付き合いますよ。」
正直最近は、この人といる時間が心地よかった。そうでなければわざわざ一緒になんか居ない。
なのに、口から出たのはまるでエリザベータの様な科白だった。
暁史さんは思わず笑い声を上げていた。
「ちょっ、今のは無し!」
思わず叫んでしまうと「これからよろしくお願いしますね。」と言い直しを許さない感じで、暁史さんは言った。
「きっと、過去よりもこれからの方が長いですから、少しずつ伝えてください。」
ニコリとまるで王子様の様に笑った。その笑顔のまぶしさだけは前世と変わらない事だった。
「じゃあ、追々。」
俺が勝ち誇ったように笑うと「そういうところは変わらないんですね。」と俺の思っている事と同じことを言う。
「前世は前世、なんでしょう?」
「まあ、そうですね。」
もうそれほど残念だと思っていない自分に気がついてもう一度笑った。
END
暁史さんの言っている通りだった。
「俺とエレナは上手くいかなかったし、エリザベータは別の国で幸せに暮らしたんですよ。」
「……まあ、強かな女性でしたからね。」
エリザベータのその後については別に驚く事はなかった。俺の記憶のある彼女は強かな女性だった。
きっとなんとかとかしたのだろう、という納得感はある。
自分の前世なのにまるで人事の様に思ってしまうが、彼女は俺ではないのだ。
どうしても他人事の様に思ってしまう。
「……やっぱり。
蒼士は自分の前世の事を完全に他人事だと思ってる。」
「当たり前でしょう。」
当たり前だ。誰だってそうだけれど前世の事を何もかも覚えているわけじゃない。先月の夕飯のメニューをもうほとんど覚えていないみたいに前世の事だってかなり忘れているのだ。
はあ、と大きく暁史さんは溜息をついた。
「じゃあ、なんで俺の前世が俺にとっても、もう他人事だと思わないんですか?」
「だって、それは――」
あんなにうっとりとエレナと比較をしていたじゃないか!そう叫ぶのは、まるで自分の前世での嫉妬深さを引きついているようで嫌だった。
「運命だったんじゃないんですか?」
あんなに運命だと言っていた男が、まるで自分は現実主義者でこちらがロマンチストすぎて現実が見えていないと言っているみたいだ。
俺が暁史さんを元伯爵のご子息だとしか見ていなかった事は事実だけれど、自分の認識とは逆の事をになっているとはさすがに思えない。
「勿論、運命だと思ってますよ。前世とは関係なく。」
あの時と同じ、蕩けるような笑顔だった。
だって、とか、でも、とか彼の言葉を否定するためのものばかりが喉から出てきそうになる。
「別に、君がエリザベータだったとして、何が困るんですか?だって俺はあれだけ手に入れたかった男なんでしょう?」
「アンタは勝手だ。自分から前世を持ち出しておいて今度は前世は関係ないって言う。」
暁史さんは甘やかな笑顔を浮かべた。
「当たり前でしょう。俺を聖人君主かそれとも公明正大な伯爵様とでも勘違いしていたんでしょうね。」
言っている事は傲慢なのに表情は悲しげに歪んでいる。
それを見るとこちらまで苦しくなってしまう。
「……前世の記憶に欠損がある事は珍しくないんだよ。」
そりゃあそうだ。俺だって国外追放処分以降の記憶はない。
それが、何かの拍子に思い出す事もあるみたいだねえ。のんきに暁史さんは付け加えたが、要は自分がそうだったということだろう。
「今日の“エレナ”みたいに態と忘れたフリよりはいいだろう?」
あの転校生は何かを忘れていたのだろうか。けれどそれよりも、暁史さんが何故そんな風に言うのかの方が気になった。
「御伽噺だと信じていたものが違っていたと気がついただけです。
それでも、君のことが好きなんだけど、もう信じてもらえないかもしれないね。」
暁史さんに言われて思わず首を横に振ってしまう。
意図して追放以後の話をしていない事は分かっている。
けれど、それこそ前世の事は関係のない話に思えた。
「残念でした。俺は伯爵家のご子息では、もうないよ。」
暁史さんに言われる。
「俺が言えた義理はないけど、今の俺だけみて考えて欲しい。」
いつもの様な丁寧な話し方ではなくなっていることにはさすがに気がついている。
自分がエリザベータじゃなく、単なる蒼志として暁史さんをどう思っているのか。
思わずじいっと彼のことを見てしまう。
最初に保健室に付き添ったのは、彼の顔色があまりにも悪かったからだ。
元々暁史さんは人気のある生徒だ。俺が助けなくても誰かが手を貸しただろう。
そんな事は分かっていた。だけど、声をかけずにはいられなかったのだ。
「……本当になかった事にできると思っていますか?」
「でも、最初から隠しているよりはマシでしょう?」
まあ、それもそうか。あそこで暁史さんも俺も口を滑らせなければ、罪悪感を感じていて友人にすらなれなかったかもしれない。
「仕方がないですね。付き合いますよ。」
正直最近は、この人といる時間が心地よかった。そうでなければわざわざ一緒になんか居ない。
なのに、口から出たのはまるでエリザベータの様な科白だった。
暁史さんは思わず笑い声を上げていた。
「ちょっ、今のは無し!」
思わず叫んでしまうと「これからよろしくお願いしますね。」と言い直しを許さない感じで、暁史さんは言った。
「きっと、過去よりもこれからの方が長いですから、少しずつ伝えてください。」
ニコリとまるで王子様の様に笑った。その笑顔のまぶしさだけは前世と変わらない事だった。
「じゃあ、追々。」
俺が勝ち誇ったように笑うと「そういうところは変わらないんですね。」と俺の思っている事と同じことを言う。
「前世は前世、なんでしょう?」
「まあ、そうですね。」
もうそれほど残念だと思っていない自分に気がついてもう一度笑った。
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