残念でした。悪役令嬢です【BL】

渡辺 佐倉

文字の大きさ
5 / 6

5

しおりを挟む
あの人は最初のとき以来、不必要にエレナともエリザベータとも口にした事がなかった。
その事に気がつかないくらい、過去にとらわれていたのは自分の方だったのかもしれない。



「あの、もし間違っていたらごめんなさい。でも……。」

転校生が話しかけてきたのは、体育館裏手の日差しの穏やかな階段に座って弁当を食べているときだった。
といっても話しかけられたのは俺じゃなくて俺の隣で飯を食べている人の方だ。

はにかみながら話しかける転校生は、文句なく可愛い。

前世でのはらわたが煮えくり返る様な感情はない。前世でのそれが恋愛の絡むものだったのか、貴族としての義憤にかられたからなのかさえももう思い出せないのだ。
だから、少なくとも今は普通に可愛いと感じられる。

それなのに前世が伯爵のご子息だった隣の男は、なんの感情もなさそうに転校生を見た。

それは前世のときエレナを見ていたときの様な表情ではなく、まるで事務的に目の前のものを目に写しているみたいに見えた。

そこで違和感はあった。だって、前世ではそんな表情でエレナの事は見ていなかったはずだ。

「前世のお話と言ったら信じてくださいますか?」

考えをまとめようとしていた思考は、転校生の言葉でばらばらになってしまった。



ああ、彼は覚えているのか。しかも可愛らしい少女になって再び自分の目の前にいる。
しかもあの時と同じように、まるで俺のことは眼中に無い様だ。

同じ登場人物のお話しはいつも同じ結末を迎える。そんな事良く分かっている。

「信じる、信じない以前に君の話しに興味がないんだよ。」

あれだけ、仲睦まじかったのにばっさりと切り捨ててしまう姿に違和感しかなかった。

それはゲイだとかの恋愛面での何かというよりもっと別のものの様に見えた。

「前世にはもう、興味がないからだ。」

だから、もう話しかけなくていいから。

ここまで強い拒絶をするとは思えなかった。
理由が分からない。

前世に意味を見出さない人間がいるのは確かだ。
じゃあ、あの告白の時の話しは?その後の嫌がらせはなんだったのだろう。

思わずマジマジと伯爵のご子息を見てしまった。

「ああ、やっとちゃんと見てくれた。」

蕩けるような笑顔で男が笑った。
それは最初の告白のときの様な顔だという事に初めて気がつく。

「……俺には前世のやり直しも、ましてや贖罪をするつもりだってないよ。
それは単なる記憶でしかないんですから。」

エレナの生まれ変わりであろう少女にはっきりとそう告げて、俺に向かって手を差し出した。
その手を思わずとってしまったのは自分自身のミスだったと思う。



彼は嬉しそうな、どこかほっとしたような顔をしていた。

「学校サボっちゃおうか。」

伯爵ご子息としても、優等生としてもありえない台詞を彼は言った。
エレナも驚いた顔でこちらを見ている。

「すごい顔ですね。」

彼は面白そうに笑った。
よくない事なのだろうけど、授業に出るよりも気になることがあった。



まだお昼休みだったので通学用鞄を持ち出す事は案外簡単だった。

二人で連れ立ってどこへ行くのかと思ったが、つれてこられたのは住宅街のど真ん中の公園だった。
お昼過ぎという時間帯の所為だろうか。人は俺たち以外誰もいない。

「前世はもういいんですか?」

誰もいないことをいいことに、二人でそれぞれブランコに座る。

「暁史《あきひと》だよ。」

返事としてはあまりにもかみ合わない言葉に思わず「は?」と素っ頓狂な声を上げてしまった。




「だから、名前ですよ。暁史って一度も呼んでくれないから。」

横でブランコに座っている男の名前くらい知っていた。別によぶ必要がなかったから言わなかっただけだ。

「暁史さん。なんで俺なんですか?」

最初から疑問はそれしかないのだ。
何故、俺なのか。

それが、勘違いか嫌がらせか、その位しか思い浮かばないのだ。
少なくとも前世で大切だったはずの人を無視してまで俺を選ぶ理由が分からなかった。

「……最初は本当に具合の悪いところを助けてくれたからだったんですが。」

君には全く信用されてませんでした。暁史さんは自嘲気味に笑った。

「前世の話を出してしまった自分がいけなかったのは分かっています。」

蒼士が伯爵の子息としてしか見てくれなくなったのも自分の所為だ。
暁史さんは断言した。

「だって、俺がエリザベータだと知って驚いていたじゃないですか?
疎ましく思っていた相手だったんですよ?」
「正直、何も思わなかったと言えば嘘になります。
だから、状況が良くない方向に進んでいるのに放置しましたから。」

なら何故?俺が聞く前に暁史さんはブランコから降りると、俺の目の前に立った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

当て馬系ヤンデレキャラになったら、思ったよりもツラかった件。

マツヲ。
BL
ふと気がつけば自分が知るBLゲームのなかの、当て馬系ヤンデレキャラになっていた。 いつでもポーカーフェイスのそのキャラクターを俺は嫌っていたはずなのに、その無表情の下にはこんなにも苦しい思いが隠されていたなんて……。 こういうはじまりの、ゲームのその後の世界で、手探り状態のまま徐々に受けとしての才能を開花させていく主人公のお話が読みたいな、という気持ちで書いたものです。 続編、ゆっくりとですが連載開始します。 「当て馬系ヤンデレキャラからの脱却を図ったら、スピンオフに突入していた件。」(https://www.alphapolis.co.jp/novel/239008972/578503599)

弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~

マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。 王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。 というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。 この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。

何度も、何度でも

渡辺 佐倉
BL
卒業式に部活の後輩から告白をされた。 何度断っても後輩はまた、告白をしてくる。 年下攻め短編です。 受け視点、攻め視点でそれぞれ1ページずつの短いお話です。

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。 妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、 彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。 だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、 なぜかアラン本人に興味を持ち始める。 「君は、なぜそこまで必死なんだ?」 「妹のためです!」 ……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。 妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。 ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。 そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。 断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。 誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。

異世界転生した悪役令息にざまぁされて断罪ルートに入った元主人公の僕がオメガバースBLゲームの世界から逃げるまで

0take
BL
ふとひらめいたオメガバースもの短編です。 登場人物はネームレス。 きっと似たような話が沢山あると思いますが、ご容赦下さい。 内容はタイトル通りです。 ※2025/08/04追記 お気に入りやしおり、イイねやエールをありがとうございます! 嬉しいです!

婚約破棄だ!〜キレた婚約者が、王子を蹴り潰したら王子がドM化した〜

ミクリ21
BL
タイトルのままです。

【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?

キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。 知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。 今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど—— 「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」 幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。 しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。 これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。 全8話。

処理中です...