6 / 6
6
しおりを挟む
「多分、蒼士は前世で国外追放になった後のことを多分知らないだろ。」
暁史さんの言っている通りだった。
「俺とエレナは上手くいかなかったし、エリザベータは別の国で幸せに暮らしたんですよ。」
「……まあ、強かな女性でしたからね。」
エリザベータのその後については別に驚く事はなかった。俺の記憶のある彼女は強かな女性だった。
きっとなんとかとかしたのだろう、という納得感はある。
自分の前世なのにまるで人事の様に思ってしまうが、彼女は俺ではないのだ。
どうしても他人事の様に思ってしまう。
「……やっぱり。
蒼士は自分の前世の事を完全に他人事だと思ってる。」
「当たり前でしょう。」
当たり前だ。誰だってそうだけれど前世の事を何もかも覚えているわけじゃない。先月の夕飯のメニューをもうほとんど覚えていないみたいに前世の事だってかなり忘れているのだ。
はあ、と大きく暁史さんは溜息をついた。
「じゃあ、なんで俺の前世が俺にとっても、もう他人事だと思わないんですか?」
「だって、それは――」
あんなにうっとりとエレナと比較をしていたじゃないか!そう叫ぶのは、まるで自分の前世での嫉妬深さを引きついているようで嫌だった。
「運命だったんじゃないんですか?」
あんなに運命だと言っていた男が、まるで自分は現実主義者でこちらがロマンチストすぎて現実が見えていないと言っているみたいだ。
俺が暁史さんを元伯爵のご子息だとしか見ていなかった事は事実だけれど、自分の認識とは逆の事をになっているとはさすがに思えない。
「勿論、運命だと思ってますよ。前世とは関係なく。」
あの時と同じ、蕩けるような笑顔だった。
だって、とか、でも、とか彼の言葉を否定するためのものばかりが喉から出てきそうになる。
「別に、君がエリザベータだったとして、何が困るんですか?だって俺はあれだけ手に入れたかった男なんでしょう?」
「アンタは勝手だ。自分から前世を持ち出しておいて今度は前世は関係ないって言う。」
暁史さんは甘やかな笑顔を浮かべた。
「当たり前でしょう。俺を聖人君主かそれとも公明正大な伯爵様とでも勘違いしていたんでしょうね。」
言っている事は傲慢なのに表情は悲しげに歪んでいる。
それを見るとこちらまで苦しくなってしまう。
「……前世の記憶に欠損がある事は珍しくないんだよ。」
そりゃあそうだ。俺だって国外追放処分以降の記憶はない。
それが、何かの拍子に思い出す事もあるみたいだねえ。のんきに暁史さんは付け加えたが、要は自分がそうだったということだろう。
「今日の“エレナ”みたいに態と忘れたフリよりはいいだろう?」
あの転校生は何かを忘れていたのだろうか。けれどそれよりも、暁史さんが何故そんな風に言うのかの方が気になった。
「御伽噺だと信じていたものが違っていたと気がついただけです。
それでも、君のことが好きなんだけど、もう信じてもらえないかもしれないね。」
暁史さんに言われて思わず首を横に振ってしまう。
意図して追放以後の話をしていない事は分かっている。
けれど、それこそ前世の事は関係のない話に思えた。
「残念でした。俺は伯爵家のご子息では、もうないよ。」
暁史さんに言われる。
「俺が言えた義理はないけど、今の俺だけみて考えて欲しい。」
いつもの様な丁寧な話し方ではなくなっていることにはさすがに気がついている。
自分がエリザベータじゃなく、単なる蒼志として暁史さんをどう思っているのか。
思わずじいっと彼のことを見てしまう。
最初に保健室に付き添ったのは、彼の顔色があまりにも悪かったからだ。
元々暁史さんは人気のある生徒だ。俺が助けなくても誰かが手を貸しただろう。
そんな事は分かっていた。だけど、声をかけずにはいられなかったのだ。
「……本当になかった事にできると思っていますか?」
「でも、最初から隠しているよりはマシでしょう?」
まあ、それもそうか。あそこで暁史さんも俺も口を滑らせなければ、罪悪感を感じていて友人にすらなれなかったかもしれない。
「仕方がないですね。付き合いますよ。」
正直最近は、この人といる時間が心地よかった。そうでなければわざわざ一緒になんか居ない。
なのに、口から出たのはまるでエリザベータの様な科白だった。
暁史さんは思わず笑い声を上げていた。
「ちょっ、今のは無し!」
思わず叫んでしまうと「これからよろしくお願いしますね。」と言い直しを許さない感じで、暁史さんは言った。
「きっと、過去よりもこれからの方が長いですから、少しずつ伝えてください。」
ニコリとまるで王子様の様に笑った。その笑顔のまぶしさだけは前世と変わらない事だった。
「じゃあ、追々。」
俺が勝ち誇ったように笑うと「そういうところは変わらないんですね。」と俺の思っている事と同じことを言う。
「前世は前世、なんでしょう?」
「まあ、そうですね。」
もうそれほど残念だと思っていない自分に気がついてもう一度笑った。
END
暁史さんの言っている通りだった。
「俺とエレナは上手くいかなかったし、エリザベータは別の国で幸せに暮らしたんですよ。」
「……まあ、強かな女性でしたからね。」
エリザベータのその後については別に驚く事はなかった。俺の記憶のある彼女は強かな女性だった。
きっとなんとかとかしたのだろう、という納得感はある。
自分の前世なのにまるで人事の様に思ってしまうが、彼女は俺ではないのだ。
どうしても他人事の様に思ってしまう。
「……やっぱり。
蒼士は自分の前世の事を完全に他人事だと思ってる。」
「当たり前でしょう。」
当たり前だ。誰だってそうだけれど前世の事を何もかも覚えているわけじゃない。先月の夕飯のメニューをもうほとんど覚えていないみたいに前世の事だってかなり忘れているのだ。
はあ、と大きく暁史さんは溜息をついた。
「じゃあ、なんで俺の前世が俺にとっても、もう他人事だと思わないんですか?」
「だって、それは――」
あんなにうっとりとエレナと比較をしていたじゃないか!そう叫ぶのは、まるで自分の前世での嫉妬深さを引きついているようで嫌だった。
「運命だったんじゃないんですか?」
あんなに運命だと言っていた男が、まるで自分は現実主義者でこちらがロマンチストすぎて現実が見えていないと言っているみたいだ。
俺が暁史さんを元伯爵のご子息だとしか見ていなかった事は事実だけれど、自分の認識とは逆の事をになっているとはさすがに思えない。
「勿論、運命だと思ってますよ。前世とは関係なく。」
あの時と同じ、蕩けるような笑顔だった。
だって、とか、でも、とか彼の言葉を否定するためのものばかりが喉から出てきそうになる。
「別に、君がエリザベータだったとして、何が困るんですか?だって俺はあれだけ手に入れたかった男なんでしょう?」
「アンタは勝手だ。自分から前世を持ち出しておいて今度は前世は関係ないって言う。」
暁史さんは甘やかな笑顔を浮かべた。
「当たり前でしょう。俺を聖人君主かそれとも公明正大な伯爵様とでも勘違いしていたんでしょうね。」
言っている事は傲慢なのに表情は悲しげに歪んでいる。
それを見るとこちらまで苦しくなってしまう。
「……前世の記憶に欠損がある事は珍しくないんだよ。」
そりゃあそうだ。俺だって国外追放処分以降の記憶はない。
それが、何かの拍子に思い出す事もあるみたいだねえ。のんきに暁史さんは付け加えたが、要は自分がそうだったということだろう。
「今日の“エレナ”みたいに態と忘れたフリよりはいいだろう?」
あの転校生は何かを忘れていたのだろうか。けれどそれよりも、暁史さんが何故そんな風に言うのかの方が気になった。
「御伽噺だと信じていたものが違っていたと気がついただけです。
それでも、君のことが好きなんだけど、もう信じてもらえないかもしれないね。」
暁史さんに言われて思わず首を横に振ってしまう。
意図して追放以後の話をしていない事は分かっている。
けれど、それこそ前世の事は関係のない話に思えた。
「残念でした。俺は伯爵家のご子息では、もうないよ。」
暁史さんに言われる。
「俺が言えた義理はないけど、今の俺だけみて考えて欲しい。」
いつもの様な丁寧な話し方ではなくなっていることにはさすがに気がついている。
自分がエリザベータじゃなく、単なる蒼志として暁史さんをどう思っているのか。
思わずじいっと彼のことを見てしまう。
最初に保健室に付き添ったのは、彼の顔色があまりにも悪かったからだ。
元々暁史さんは人気のある生徒だ。俺が助けなくても誰かが手を貸しただろう。
そんな事は分かっていた。だけど、声をかけずにはいられなかったのだ。
「……本当になかった事にできると思っていますか?」
「でも、最初から隠しているよりはマシでしょう?」
まあ、それもそうか。あそこで暁史さんも俺も口を滑らせなければ、罪悪感を感じていて友人にすらなれなかったかもしれない。
「仕方がないですね。付き合いますよ。」
正直最近は、この人といる時間が心地よかった。そうでなければわざわざ一緒になんか居ない。
なのに、口から出たのはまるでエリザベータの様な科白だった。
暁史さんは思わず笑い声を上げていた。
「ちょっ、今のは無し!」
思わず叫んでしまうと「これからよろしくお願いしますね。」と言い直しを許さない感じで、暁史さんは言った。
「きっと、過去よりもこれからの方が長いですから、少しずつ伝えてください。」
ニコリとまるで王子様の様に笑った。その笑顔のまぶしさだけは前世と変わらない事だった。
「じゃあ、追々。」
俺が勝ち誇ったように笑うと「そういうところは変わらないんですね。」と俺の思っている事と同じことを言う。
「前世は前世、なんでしょう?」
「まあ、そうですね。」
もうそれほど残念だと思っていない自分に気がついてもう一度笑った。
END
437
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
当て馬系ヤンデレキャラになったら、思ったよりもツラかった件。
マツヲ。
BL
ふと気がつけば自分が知るBLゲームのなかの、当て馬系ヤンデレキャラになっていた。
いつでもポーカーフェイスのそのキャラクターを俺は嫌っていたはずなのに、その無表情の下にはこんなにも苦しい思いが隠されていたなんて……。
こういうはじまりの、ゲームのその後の世界で、手探り状態のまま徐々に受けとしての才能を開花させていく主人公のお話が読みたいな、という気持ちで書いたものです。
続編、ゆっくりとですが連載開始します。
「当て馬系ヤンデレキャラからの脱却を図ったら、スピンオフに突入していた件。」(https://www.alphapolis.co.jp/novel/239008972/578503599)
弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~
マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。
王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。
というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。
この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。
聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています
八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。
そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。
妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。
藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。
妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、
彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。
だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、
なぜかアラン本人に興味を持ち始める。
「君は、なぜそこまで必死なんだ?」
「妹のためです!」
……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。
妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。
ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。
そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。
断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。
誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。
異世界転生した悪役令息にざまぁされて断罪ルートに入った元主人公の僕がオメガバースBLゲームの世界から逃げるまで
0take
BL
ふとひらめいたオメガバースもの短編です。
登場人物はネームレス。
きっと似たような話が沢山あると思いますが、ご容赦下さい。
内容はタイトル通りです。
※2025/08/04追記
お気に入りやしおり、イイねやエールをありがとうございます! 嬉しいです!
【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?
キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。
知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。
今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど——
「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」
幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。
しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。
これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。
全8話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる