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2.非現実的な提案(2)
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「――――何がですの?」
すると、扉の向こう側からそんな声が聞こえてきた。わたしと全く同じ高さ、同じ声質。けれど、その声音はわたしのものよりも品良く、凛と響く。
「華凛」
そう声を掛けると、穏やかな微笑みを浮かべた少女――――華凛が優雅な足取りでこちらへと向かってきた。わたしと全く同じ顔を持つ、双子の妹。それが華凛だ。
「憂炎はもう帰ったのですか? 二人きりで話がしたいなんて、珍しいこと」
華凛はそう言って穏やかに微笑む。わたしとは異なる上品で女性らしい口調だ。
「まぁね。――――何の話をしていたか、聞きたい?」
「そうですわね……少しだけ興味があります。姉さまがそんな表情をしているのも珍しいことですから」
(そんな表情って、どんな表情よ)
心の中でツッコミをいれながら、わたしはため息を吐く。
華凛のいう『少し』っていうのは、『すごく』という意味だ。好奇心旺盛だが、令嬢としての自分を大事にしている妹は、よくこういう物の言い方をする。聞きたいことがあればストレートに尋ねるタイプのわたしとは正反対だ。
「――――憂炎が実はわたし達の従弟じゃなく帝の子で、皇太子になることが決まっていて、だからわたしに妃になれ……っていう訳の分からない話だった」
先程の話を要約しながら、わたしは唇を尖らせる。
従兄弟だと思っていた人間が実は皇子だって時点で非現実的だし、そいつが自分を妃として望むだなんて、おとぎ話でも聞かないレベルだ。本気であり得ない。
「まぁ、そうでしたの」
けれど華凛は疑問を呈すことなく、あっさりとわたしの話を呑み込んだ。
「……そうでしたの、ってあんた」
「それで? 姉さまは憂炎の話を断って、断り切れなくて、困り果てていらっしゃる……こんなところでしょうか?」
妹の物事を見通す力は凄まじい。コクリと頷きながら、わたしは眉間に皺を寄せた。
「良いお話ではございませんか。妃になれるだなんて、またとない機会ですわ。お父様もお喜びになるでしょうし」
華凛はそう言って朗らかに微笑んだ。ウットリとした表情。本気でそう思っているらしいことがよく分かる。
「冗談……わたしにとっては最悪の話よ。
だって、妃になったら外に出られなくなるんでしょう? 後宮で飼い殺しになるなんて――――自由がないなんて嫌。煌びやかな衣装も妃の身分も、何一つ欲しいとは思わないし」
答えながら、本日何度目になるか分からないため息を吐く。
後宮の妃たちがどんな生活を送っているのかわたしは知らない。だけど、窮屈でドロドロした場所だろうってことは容易に想像が出来た。
(考えてみると、生まれたばかりの皇子が命を狙われるなんて異常だよな)
殺されないよう、十八年近くもの間、身を隠して生きなければならない――――そんな場所が夢溢れる楽しい場所である筈がない。
第一、我が国は一夫多妻制で、現皇帝には百を超える妃がいる。世継ぎを効率よく残す必要があるからだ。
(それなのに皇子が憂炎一人しかいないってのが何とも皮肉な話だけど)
とはいえ、その慣例は憂炎にだって斉しく引き継がれる。奴はこれから何十人もの妃を迎え入れる筈だ。
だったらわたしが妃になる必要は無い。きっぱり断ったんだし、切り替えて他を当たれば良い話だ。
「まぁ……欲がない。女の頂点に立てるかもしれませんのよ? 自由がないぐらい、なんてことないじゃありませんか」
華凛はそう言って首を傾げた。瞳が野心に輝いている。
わたしは華凛のことを見つめつつ、ゆっくりと前に躍り出た。
「――――そう思うなら、わたしと入れ替わって。わたしには本気で無理。憂炎とどうこうとか、考えたくもない」
「お安い御用ですわ」
華凛はそう言ってニコリと笑った。その瞳は楽し気に細められ、一切の迷いがない。
「わたくしが憂炎の妃として後宮に入りましょう」
華凛の返答に、わたしはゆっくりと口角を上げた。
すると、扉の向こう側からそんな声が聞こえてきた。わたしと全く同じ高さ、同じ声質。けれど、その声音はわたしのものよりも品良く、凛と響く。
「華凛」
そう声を掛けると、穏やかな微笑みを浮かべた少女――――華凛が優雅な足取りでこちらへと向かってきた。わたしと全く同じ顔を持つ、双子の妹。それが華凛だ。
「憂炎はもう帰ったのですか? 二人きりで話がしたいなんて、珍しいこと」
華凛はそう言って穏やかに微笑む。わたしとは異なる上品で女性らしい口調だ。
「まぁね。――――何の話をしていたか、聞きたい?」
「そうですわね……少しだけ興味があります。姉さまがそんな表情をしているのも珍しいことですから」
(そんな表情って、どんな表情よ)
心の中でツッコミをいれながら、わたしはため息を吐く。
華凛のいう『少し』っていうのは、『すごく』という意味だ。好奇心旺盛だが、令嬢としての自分を大事にしている妹は、よくこういう物の言い方をする。聞きたいことがあればストレートに尋ねるタイプのわたしとは正反対だ。
「――――憂炎が実はわたし達の従弟じゃなく帝の子で、皇太子になることが決まっていて、だからわたしに妃になれ……っていう訳の分からない話だった」
先程の話を要約しながら、わたしは唇を尖らせる。
従兄弟だと思っていた人間が実は皇子だって時点で非現実的だし、そいつが自分を妃として望むだなんて、おとぎ話でも聞かないレベルだ。本気であり得ない。
「まぁ、そうでしたの」
けれど華凛は疑問を呈すことなく、あっさりとわたしの話を呑み込んだ。
「……そうでしたの、ってあんた」
「それで? 姉さまは憂炎の話を断って、断り切れなくて、困り果てていらっしゃる……こんなところでしょうか?」
妹の物事を見通す力は凄まじい。コクリと頷きながら、わたしは眉間に皺を寄せた。
「良いお話ではございませんか。妃になれるだなんて、またとない機会ですわ。お父様もお喜びになるでしょうし」
華凛はそう言って朗らかに微笑んだ。ウットリとした表情。本気でそう思っているらしいことがよく分かる。
「冗談……わたしにとっては最悪の話よ。
だって、妃になったら外に出られなくなるんでしょう? 後宮で飼い殺しになるなんて――――自由がないなんて嫌。煌びやかな衣装も妃の身分も、何一つ欲しいとは思わないし」
答えながら、本日何度目になるか分からないため息を吐く。
後宮の妃たちがどんな生活を送っているのかわたしは知らない。だけど、窮屈でドロドロした場所だろうってことは容易に想像が出来た。
(考えてみると、生まれたばかりの皇子が命を狙われるなんて異常だよな)
殺されないよう、十八年近くもの間、身を隠して生きなければならない――――そんな場所が夢溢れる楽しい場所である筈がない。
第一、我が国は一夫多妻制で、現皇帝には百を超える妃がいる。世継ぎを効率よく残す必要があるからだ。
(それなのに皇子が憂炎一人しかいないってのが何とも皮肉な話だけど)
とはいえ、その慣例は憂炎にだって斉しく引き継がれる。奴はこれから何十人もの妃を迎え入れる筈だ。
だったらわたしが妃になる必要は無い。きっぱり断ったんだし、切り替えて他を当たれば良い話だ。
「まぁ……欲がない。女の頂点に立てるかもしれませんのよ? 自由がないぐらい、なんてことないじゃありませんか」
華凛はそう言って首を傾げた。瞳が野心に輝いている。
わたしは華凛のことを見つめつつ、ゆっくりと前に躍り出た。
「――――そう思うなら、わたしと入れ替わって。わたしには本気で無理。憂炎とどうこうとか、考えたくもない」
「お安い御用ですわ」
華凛はそう言ってニコリと笑った。その瞳は楽し気に細められ、一切の迷いがない。
「わたくしが憂炎の妃として後宮に入りましょう」
華凛の返答に、わたしはゆっくりと口角を上げた。
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