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君がダンスに誘われなかったのは当然だよ
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「中に居るんだろう? 開けてよ。最後に少し、話をしよう」
ヨナス様が言う。辺りは静寂に包まれていた。
(嫌だ)
けれど、このまま居留守を使うことも出来ない。ゆっくりと息を整えてから立ち上がる。緊張で足が竦んだ。
「ヨナス様とお会いすることは、陛下から禁じられていますもの。開けません。何より、ハンネス様に誤解されたくありません」
扉の向こうでヨナス様が息を呑む。ややして、仰々しいため息が聞こえた。
「誤解じゃないだろう? 僕とエラは確かに愛し合っていた。口付けしたあの夜を覚えていないの?」
ヨナス様が口にする。
(そんなの、忘れられる筈がないじゃない)
あの夜の私は幸せだった。想いが届いたんだって。ヨナス様に選ばれたんだって、嬉しかった。
だけど、そんな私を裏切ったのは他でもない。ヨナス様だ。
期待しないようずっと自分を律してきたのに、そんな私の箍を外した。恨みはしないものの、酷いとは思う。
「僕はね、エラ。君が僕だけを見て、僕だけを愛するようになれば良いと常々思っていたんだ」
まるで歌でも歌うかのような調子で、ヨナス様が口にする。思わず耳を塞ぎたくなったその瞬間、ヨナス様は思わぬことを口にした。
「今まで誰も君をダンスに誘わなかったのは当然だよ。僕がそうするよう、指示をしたんだから」
「…………え?」
あまりのことに、私は自分の耳を疑った。心臓が握りつぶされたかのように痛い。目の前が真っ暗だった。
「大変だったんだよ? 皆が君と踊りたがるんだもの。縁談だって、幾つ握りつぶしたか分からない。本当に骨が折れたよ」
ヨナス様は全く悪びれる様子がない。さも当然の如く言い放つ。
「ヨナス様が? ……本当に? どうして? どうしてそんなことをしたんですか?」
「どうして? 言っただろう。僕はエラを独り占めしたかったんだ。僕以外の誰にも目を向けられなかったら、君は僕だけを頼りにするだろう? 愛するだろう? 事実、エラは僕を愛した。僕の妃になることを期待した。そんな君を見ることが、僕は堪らなく幸せだったんだ」
絶望が胸を突く。心臓がバクバクと鳴り響いた。
(そんな……信じられない)
この二年間、ずっと悩んでいた。誰からも声を掛けてもらえないこと。縁談が持ち上がらないこと。
まるで自分の存在価値がないみたいで、辛くて、苦しくて堪らなかった。消えちゃいたいって思ったことも、一度や二度じゃない。
私の何がいけないんだろう、何が足りないんだろうって、そう思って。
(それなのに、全部仕組まれていただなんて)
悔しさのあまり、涙がポロポロ零れ落ちる。扉の向こうで笑っているであろうヨナス様が、心底憎らしかった。
「だったら……そんなに好きなら、私を妃にすれば良かったじゃありませんか! そうすれば誰も苦しまなかった! クラウディア様だって、辛い思いをしなくて済んだ筈なのに」
「そうだね。エラの言う通りだよ。だけど僕は、公爵家の後ろ盾が何としても欲しかった。僕ではなく、弟を後継者に推す声があることを知っていたからね。決まり手が欲しい――――政治的にやむを得ない決断だった。
それでも、僕がエラを諦める筈がないだろう? 『誰にも声を掛けられないエラ』を憐み、愛妾に迎えたっていう筋書きなら、周囲からの理解も得やすい。それに、罪悪感と劣等感を抱えていれば、君は僕だけを見続けるだろう? 下手に妃として迎えるより、ずっと良いと思ったんだ」
最早、返す言葉が見つからない。あまりの息苦しさに胸を押さえた。
「ねえ、開けてよ。話をしよう。そうすれば、僕がどれだけ君を想っているか、エラにもちゃんと分かる筈だから」
問いかけに、大きく首を横に振る。
分からない。聞きたくない。どれだけ話を聞いたところで、ヨナス様の考えは、私には絶対理解できる筈がなかった。
「よく考えてごらんよ、エラ。君のあの男への想いは、僕が作り上げた偽物なんだよ? 初めて声を掛けてくれた彼に救われただけ。好きだって勘違いしているだけ。本当は誰でも良かったのに――――誰でも良いのに。エラは自分を選んでくれる人なら、彼じゃなくても良いんだよ」
「そんなこと……!」
ない、と言おうとしたその時、カチャカチャと金属の触れ合うような音がした。何だろうと思っていたら、鍵穴が静かに音を立てる。
(まさか)
反射的に身を翻す。怖い。逃げようにも、出口を塞がれているからどうにもならない。
扉が開く。鍵を片手にヨナス様がニコリと微笑んでいる。
「大丈夫。今度は間違えないよ。僕は君だけを選んであげる。だからエラも僕を選んで?」
引きちぎれんばかりに首を横に振る。すると、ヨナス様は私の側にそっと屈んだ。
「残念だなあ。だったら、君をここから連れ出さないとね。二度とあの男に会えないように――――ううん、エラはもう、他の誰にも会わなくて良いよ。僕だけが居れば良い。心配しないで、しょっちゅう会いに行くから」
腕を無理やり強く引かれる。
「っ痛……! 嫌です! 手を放してください!」
「すぐに嫌じゃなくなるよ」
ヨナス様はそう言って、懐から布切れを取り出した。私の口を塞ぐようにして手を伸ばす。身を捩って躱したその時、背後からゴッと鈍い音が響いた。
恐る恐る目を開ける。ハンネス様がそこに居た。
ヨナス様が言う。辺りは静寂に包まれていた。
(嫌だ)
けれど、このまま居留守を使うことも出来ない。ゆっくりと息を整えてから立ち上がる。緊張で足が竦んだ。
「ヨナス様とお会いすることは、陛下から禁じられていますもの。開けません。何より、ハンネス様に誤解されたくありません」
扉の向こうでヨナス様が息を呑む。ややして、仰々しいため息が聞こえた。
「誤解じゃないだろう? 僕とエラは確かに愛し合っていた。口付けしたあの夜を覚えていないの?」
ヨナス様が口にする。
(そんなの、忘れられる筈がないじゃない)
あの夜の私は幸せだった。想いが届いたんだって。ヨナス様に選ばれたんだって、嬉しかった。
だけど、そんな私を裏切ったのは他でもない。ヨナス様だ。
期待しないようずっと自分を律してきたのに、そんな私の箍を外した。恨みはしないものの、酷いとは思う。
「僕はね、エラ。君が僕だけを見て、僕だけを愛するようになれば良いと常々思っていたんだ」
まるで歌でも歌うかのような調子で、ヨナス様が口にする。思わず耳を塞ぎたくなったその瞬間、ヨナス様は思わぬことを口にした。
「今まで誰も君をダンスに誘わなかったのは当然だよ。僕がそうするよう、指示をしたんだから」
「…………え?」
あまりのことに、私は自分の耳を疑った。心臓が握りつぶされたかのように痛い。目の前が真っ暗だった。
「大変だったんだよ? 皆が君と踊りたがるんだもの。縁談だって、幾つ握りつぶしたか分からない。本当に骨が折れたよ」
ヨナス様は全く悪びれる様子がない。さも当然の如く言い放つ。
「ヨナス様が? ……本当に? どうして? どうしてそんなことをしたんですか?」
「どうして? 言っただろう。僕はエラを独り占めしたかったんだ。僕以外の誰にも目を向けられなかったら、君は僕だけを頼りにするだろう? 愛するだろう? 事実、エラは僕を愛した。僕の妃になることを期待した。そんな君を見ることが、僕は堪らなく幸せだったんだ」
絶望が胸を突く。心臓がバクバクと鳴り響いた。
(そんな……信じられない)
この二年間、ずっと悩んでいた。誰からも声を掛けてもらえないこと。縁談が持ち上がらないこと。
まるで自分の存在価値がないみたいで、辛くて、苦しくて堪らなかった。消えちゃいたいって思ったことも、一度や二度じゃない。
私の何がいけないんだろう、何が足りないんだろうって、そう思って。
(それなのに、全部仕組まれていただなんて)
悔しさのあまり、涙がポロポロ零れ落ちる。扉の向こうで笑っているであろうヨナス様が、心底憎らしかった。
「だったら……そんなに好きなら、私を妃にすれば良かったじゃありませんか! そうすれば誰も苦しまなかった! クラウディア様だって、辛い思いをしなくて済んだ筈なのに」
「そうだね。エラの言う通りだよ。だけど僕は、公爵家の後ろ盾が何としても欲しかった。僕ではなく、弟を後継者に推す声があることを知っていたからね。決まり手が欲しい――――政治的にやむを得ない決断だった。
それでも、僕がエラを諦める筈がないだろう? 『誰にも声を掛けられないエラ』を憐み、愛妾に迎えたっていう筋書きなら、周囲からの理解も得やすい。それに、罪悪感と劣等感を抱えていれば、君は僕だけを見続けるだろう? 下手に妃として迎えるより、ずっと良いと思ったんだ」
最早、返す言葉が見つからない。あまりの息苦しさに胸を押さえた。
「ねえ、開けてよ。話をしよう。そうすれば、僕がどれだけ君を想っているか、エラにもちゃんと分かる筈だから」
問いかけに、大きく首を横に振る。
分からない。聞きたくない。どれだけ話を聞いたところで、ヨナス様の考えは、私には絶対理解できる筈がなかった。
「よく考えてごらんよ、エラ。君のあの男への想いは、僕が作り上げた偽物なんだよ? 初めて声を掛けてくれた彼に救われただけ。好きだって勘違いしているだけ。本当は誰でも良かったのに――――誰でも良いのに。エラは自分を選んでくれる人なら、彼じゃなくても良いんだよ」
「そんなこと……!」
ない、と言おうとしたその時、カチャカチャと金属の触れ合うような音がした。何だろうと思っていたら、鍵穴が静かに音を立てる。
(まさか)
反射的に身を翻す。怖い。逃げようにも、出口を塞がれているからどうにもならない。
扉が開く。鍵を片手にヨナス様がニコリと微笑んでいる。
「大丈夫。今度は間違えないよ。僕は君だけを選んであげる。だからエラも僕を選んで?」
引きちぎれんばかりに首を横に振る。すると、ヨナス様は私の側にそっと屈んだ。
「残念だなあ。だったら、君をここから連れ出さないとね。二度とあの男に会えないように――――ううん、エラはもう、他の誰にも会わなくて良いよ。僕だけが居れば良い。心配しないで、しょっちゅう会いに行くから」
腕を無理やり強く引かれる。
「っ痛……! 嫌です! 手を放してください!」
「すぐに嫌じゃなくなるよ」
ヨナス様はそう言って、懐から布切れを取り出した。私の口を塞ぐようにして手を伸ばす。身を捩って躱したその時、背後からゴッと鈍い音が響いた。
恐る恐る目を開ける。ハンネス様がそこに居た。
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