9 / 12
9.伯父様のお土産
しおりを挟む
「これは咲耶子にだ」
薄い紫の大きな風呂敷が、咲耶子の目の前に差し出される。
「開けてみなさい」
急かすような伯父の口調に、ちょっとわくわくした。
きっと咲耶子の喜びそうなものが入っているに違いないから。
どきどきしながら、結び目をほどいた。
「まぁ!」
矢絣のお召しに紺の袴、それに編み上げ長靴と紫のリボンまである。
みんな、ぴっかぴかの新品だ。
(卒業まで後一年なのに……)
贅沢だけど、やっぱり嬉しい。
「伯父様、ありがとう!」
声が上ずった。
家計を思えばとても用意できないものばかりだった。
けど咲耶子だって、年頃の少女だ。
仲良しの美奈子さんと並ぶと、擦り切れれた袴の裾が気にならないわけない。
「それとこれもだな」
もうひとつ、さっきのと同じくらい大きな風呂敷が出てくる。
「まだあるの?」
「いいから開けてみなさい」
これ以上の贅沢は怖い。
でも期待と興味はあって、結び目をそっとほどいた。
「洋服?」
美奈子さんが着ているのを見たことがある。
上の衣とひざ丈までのすかーとが続いてるこれ、ワンピースとか、たしかそんな名前だった。
薄い青の生地に白い丸襟がかわいらしい。
「これを私に?」
油紙に包まれた黒い革の靴には、少し高めのヒールがついていた。
「先月、東京へ行ってな。その土産だ」
ワンピースを着てる人なんて、この町では滅多に見ない。
女学校の先生に一人おいでになるけど、その他といえば美奈子さんのようなお金持ちのお嬢さんだけだ。
(どうしよう……。嬉しい)
言葉が出ない。
お礼を言わなくちゃいけないのに。
「後で着て見せなさい」
「はい、伯父様。ありがとう、伯父様」
もう今日はこのまま眠ってしまいたい。
この後お炊事や後片付け、明日の仕度を考えて、現実に戻りたくない。
眠るまでずっと、このワンピースを眺めていたい。
夢のようだった。
「義兄上、お待たせいたしました」
やっと現れた父の声で、咲耶子は現実に引き戻される。
「お茶を淹れ直してまいります」
ここから先しばらくは、伯父と父の二人で話す。
いつのまにか覚えた呼吸だ。
もうずっと前だけど、伯父が大好きな咲耶子がいつまでも同席していたところ、父に下がるように言われた。
「大人の話だよ。咲耶子が聞いて良い話ではない」
カンが悪いと責められたようで、ひどく恥ずかしかった。
もう二度と、あんなことは言われたくない。
火鉢にかけておいた鉄瓶を、布巾の上に下ろした。
(もういいかしら)
少し冷ましたお湯で、来客用の上等なお煎茶を淹れる。
今日のお茶碗は薄いから、あらかじめ温めることはしなかった。
前にそうして、持てないくらい熱くなったからだ。
甘く炊いた黒豆を、少しだけ小皿につけた。
「お待たせいたしました」
客間に戻った咲耶子は、なんだかおかしいと気づく。
(お父様、ご機嫌が悪いわ)
父の白い眉間には、わかりやすすぎるほどの縦じわが刻まれていた。
薄い紫の大きな風呂敷が、咲耶子の目の前に差し出される。
「開けてみなさい」
急かすような伯父の口調に、ちょっとわくわくした。
きっと咲耶子の喜びそうなものが入っているに違いないから。
どきどきしながら、結び目をほどいた。
「まぁ!」
矢絣のお召しに紺の袴、それに編み上げ長靴と紫のリボンまである。
みんな、ぴっかぴかの新品だ。
(卒業まで後一年なのに……)
贅沢だけど、やっぱり嬉しい。
「伯父様、ありがとう!」
声が上ずった。
家計を思えばとても用意できないものばかりだった。
けど咲耶子だって、年頃の少女だ。
仲良しの美奈子さんと並ぶと、擦り切れれた袴の裾が気にならないわけない。
「それとこれもだな」
もうひとつ、さっきのと同じくらい大きな風呂敷が出てくる。
「まだあるの?」
「いいから開けてみなさい」
これ以上の贅沢は怖い。
でも期待と興味はあって、結び目をそっとほどいた。
「洋服?」
美奈子さんが着ているのを見たことがある。
上の衣とひざ丈までのすかーとが続いてるこれ、ワンピースとか、たしかそんな名前だった。
薄い青の生地に白い丸襟がかわいらしい。
「これを私に?」
油紙に包まれた黒い革の靴には、少し高めのヒールがついていた。
「先月、東京へ行ってな。その土産だ」
ワンピースを着てる人なんて、この町では滅多に見ない。
女学校の先生に一人おいでになるけど、その他といえば美奈子さんのようなお金持ちのお嬢さんだけだ。
(どうしよう……。嬉しい)
言葉が出ない。
お礼を言わなくちゃいけないのに。
「後で着て見せなさい」
「はい、伯父様。ありがとう、伯父様」
もう今日はこのまま眠ってしまいたい。
この後お炊事や後片付け、明日の仕度を考えて、現実に戻りたくない。
眠るまでずっと、このワンピースを眺めていたい。
夢のようだった。
「義兄上、お待たせいたしました」
やっと現れた父の声で、咲耶子は現実に引き戻される。
「お茶を淹れ直してまいります」
ここから先しばらくは、伯父と父の二人で話す。
いつのまにか覚えた呼吸だ。
もうずっと前だけど、伯父が大好きな咲耶子がいつまでも同席していたところ、父に下がるように言われた。
「大人の話だよ。咲耶子が聞いて良い話ではない」
カンが悪いと責められたようで、ひどく恥ずかしかった。
もう二度と、あんなことは言われたくない。
火鉢にかけておいた鉄瓶を、布巾の上に下ろした。
(もういいかしら)
少し冷ましたお湯で、来客用の上等なお煎茶を淹れる。
今日のお茶碗は薄いから、あらかじめ温めることはしなかった。
前にそうして、持てないくらい熱くなったからだ。
甘く炊いた黒豆を、少しだけ小皿につけた。
「お待たせいたしました」
客間に戻った咲耶子は、なんだかおかしいと気づく。
(お父様、ご機嫌が悪いわ)
父の白い眉間には、わかりやすすぎるほどの縦じわが刻まれていた。
20
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?
木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。
彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。
公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。
しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。
だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。
二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。
彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。
※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~
黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる