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彼氏との生活が甘すぎる
④
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ハイネは気軽な気持ちでセックスしたことがない。
彼が童貞でなくなったのは高校3年の冬だった。当時付き合っていた彼女とは卒業したら別れる約束をしており、最後の思い出にと彼女の家に人がいない時に。
卒業したら大学で寮生活だから、この部屋ともお別れなんだ。寂し気に話す彼女の潤んだ瞳がハイネを見つめた。下心は、互いにあった。純粋な恋は遠くに押しやられ、濁った青臭い春の絡み合う空気。
こんなことでいいんだろうか。彼女を抱いている間、頭をぐるぐるとめぐる猜疑心。
初めての性交による性的快楽に侵されながら、思ったよりいいものじゃないとハイネはどこかでがっかりしていた。
彼女に恋をしていたことは事実だ。しかし、彼女が自分の顔に惹かれていたことも事実だ。ハイネの彼氏としての至らなさ、言ってしまえばヘタレな部分が女子間のなかで、様々な場所で、愚痴と優越とが入り混じりながらやり取りされていたことを知っていた。
「あたしのカレシ」と呼ばれること。そう呼ぶこと。呼びたいこと。ハイネは、自分自身の価値が一体どこにあるのかわからなくなる。けれど、たった一つ、顔だけは人より価値がある。そうなってしまえば、顔以外の部分全てが男として、人として劣っているように思えてくる。
初めて自分に直接、好きだって伝えてくれた彼女に惹かれた。今思えば、たったそれだけのことでと馬鹿らしく思えてしまう。
今の自分は当時の彼女と何が違うんだ。寂しそうな声で、雰囲気を纏って、上目遣いで彼を見上げる今の自分。
そして、『思ったよりいいものじゃないな』とがっかりされる自分。
「あ、トーマス……」
「うん?」
「きみはオレとセックスしたいの?」
恐る恐るトーマスの顔を窺うと、ハイネの深刻さとは打って変わってトーマスの態度は軽薄なものだ。
「ああ! その質問、答えてなかったね。もちろんだよ。私はきみとセックスしたいよ」
やはり、トーマスにとって性行為はなんということはないのだ。ハイネは自分と彼との間に相容れないもの、生活環境や人生経験の差を感じ、愕然とした一方羨ましいような気持ちになった。
「な、なぜ?」
「なぜ!? 考えたこともなかった」
竹を割ったような反応に、押し黙るハイネ。
トーマスは少しの時間腕を組んで考えているようだったが、やがて表情を緩めてハイネに微笑みかける。
「愛おしい人と体を繋げるとね、幸せなんだ」
心の底からそう思っていると知らしめる笑みで言う。
性交渉はコミュニケーションの一種であり、付き合う上で相性を重要視しているからだとか、そういった類の、ある種恋愛関係においては合理的と言える理由を述べられるものと思っていたハイネは面食らう。
「い、愛おしい人? 幸せ?」
「ああ、ああ……きみが言いたいことはわかった。でも過去は変えられないんだ。だから、きみに教えてあげたいんだ。そしたらわかるよ」
「なにを?」
「愛する人と一つになる幸せ。全能感」
意気揚々と自信を持って、あまりに壮大なことを言うトーマスに胡乱な表情のハイネ。
「へえ、きみはそれを知ってるんだ……」
ハイネの目にあるのは猜疑とわずかな嫉妬。当然だ。トーマスの言うことは、裏を返せば性行為によって得られる精神的支柱とその有効性を彼自身が体験したということだ。他でもない恋人が、自分以外と過ごした時間を幸せだと断じられたのなら、ちょっとやそっとの返答ではハイネの疑心は拭えない。
トーマスはハイネの考えていることなどお見通しなのか、柔和に微笑む。
「いいや、ヘンリー。これから知るんだ」
いつものせっかちな弁舌をやめた彼のあまりに甘い言葉にハイネは撃沈した。
彼が童貞でなくなったのは高校3年の冬だった。当時付き合っていた彼女とは卒業したら別れる約束をしており、最後の思い出にと彼女の家に人がいない時に。
卒業したら大学で寮生活だから、この部屋ともお別れなんだ。寂し気に話す彼女の潤んだ瞳がハイネを見つめた。下心は、互いにあった。純粋な恋は遠くに押しやられ、濁った青臭い春の絡み合う空気。
こんなことでいいんだろうか。彼女を抱いている間、頭をぐるぐるとめぐる猜疑心。
初めての性交による性的快楽に侵されながら、思ったよりいいものじゃないとハイネはどこかでがっかりしていた。
彼女に恋をしていたことは事実だ。しかし、彼女が自分の顔に惹かれていたことも事実だ。ハイネの彼氏としての至らなさ、言ってしまえばヘタレな部分が女子間のなかで、様々な場所で、愚痴と優越とが入り混じりながらやり取りされていたことを知っていた。
「あたしのカレシ」と呼ばれること。そう呼ぶこと。呼びたいこと。ハイネは、自分自身の価値が一体どこにあるのかわからなくなる。けれど、たった一つ、顔だけは人より価値がある。そうなってしまえば、顔以外の部分全てが男として、人として劣っているように思えてくる。
初めて自分に直接、好きだって伝えてくれた彼女に惹かれた。今思えば、たったそれだけのことでと馬鹿らしく思えてしまう。
今の自分は当時の彼女と何が違うんだ。寂しそうな声で、雰囲気を纏って、上目遣いで彼を見上げる今の自分。
そして、『思ったよりいいものじゃないな』とがっかりされる自分。
「あ、トーマス……」
「うん?」
「きみはオレとセックスしたいの?」
恐る恐るトーマスの顔を窺うと、ハイネの深刻さとは打って変わってトーマスの態度は軽薄なものだ。
「ああ! その質問、答えてなかったね。もちろんだよ。私はきみとセックスしたいよ」
やはり、トーマスにとって性行為はなんということはないのだ。ハイネは自分と彼との間に相容れないもの、生活環境や人生経験の差を感じ、愕然とした一方羨ましいような気持ちになった。
「な、なぜ?」
「なぜ!? 考えたこともなかった」
竹を割ったような反応に、押し黙るハイネ。
トーマスは少しの時間腕を組んで考えているようだったが、やがて表情を緩めてハイネに微笑みかける。
「愛おしい人と体を繋げるとね、幸せなんだ」
心の底からそう思っていると知らしめる笑みで言う。
性交渉はコミュニケーションの一種であり、付き合う上で相性を重要視しているからだとか、そういった類の、ある種恋愛関係においては合理的と言える理由を述べられるものと思っていたハイネは面食らう。
「い、愛おしい人? 幸せ?」
「ああ、ああ……きみが言いたいことはわかった。でも過去は変えられないんだ。だから、きみに教えてあげたいんだ。そしたらわかるよ」
「なにを?」
「愛する人と一つになる幸せ。全能感」
意気揚々と自信を持って、あまりに壮大なことを言うトーマスに胡乱な表情のハイネ。
「へえ、きみはそれを知ってるんだ……」
ハイネの目にあるのは猜疑とわずかな嫉妬。当然だ。トーマスの言うことは、裏を返せば性行為によって得られる精神的支柱とその有効性を彼自身が体験したということだ。他でもない恋人が、自分以外と過ごした時間を幸せだと断じられたのなら、ちょっとやそっとの返答ではハイネの疑心は拭えない。
トーマスはハイネの考えていることなどお見通しなのか、柔和に微笑む。
「いいや、ヘンリー。これから知るんだ」
いつものせっかちな弁舌をやめた彼のあまりに甘い言葉にハイネは撃沈した。
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