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彼氏との生活が甘すぎる

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「トーマス、も、いいから! わかったから!」
「うん?」

納得していないのか、からかっているのか……誘っているのか。甘ったるい雰囲気がハイネの首筋をくすぐり、腰に手を当てられるとトーマスの手のひらから伝わる体温がゾクゾクと背筋を刺激した。ハイネはその瞬間、自分が確実に、何かに目覚めたことを悟った。

「やだ、トーマス……やめてぇ」

すっかり力が抜けてしまったのか縋りついてくるハイネが上目遣いでトーマスを見つめる。まったく男を誘う顔だ、とトーマスは耳の後ろが熱くなる感覚に悶えた。

「ヘンリー、私の意志を試しているんだね」
「は、あぅ……」

トーマスはゆっくりと腕の力を緩める。糸の切れた操り人形のようにハイネの体もずるりと床に沈んでいく。
床にへたり込んだハイネの傍らに膝をつき、彼の頬を包み込んで上を向かせる。まるで締まりのない顔。だが……

「私のカップケーキ」

たまらなく食欲を刺激する、色香。
ハイネは一瞬、食べられている、と錯覚した。いつもかさついている唇が湿り気を帯びている。下唇に軟体が押し当てられ、その奇妙な感触でようやくトーマスの顔が間近にあることに気付いた。

「はっ」とした時にはもう手遅れで、彼のぶ厚い舌が唇をめくり上げ、歯列をなぞり、ハイネの舌と絡み合う。角度を変え、深さを変え、何度も何度も交わる。あられもない声が隙間風のように漏れ、羞恥で頭が真っ白になった。止め方もわからずされるがまま、よほどの間それは続き、やっとの思いで解放されたかと思えば、渋い顔をしたトーマスがハイネの唾液まみれの口角を指で拭う。

「だめじゃないか、ヘンリー。ちゃんと抵抗するんだ」
「き、きみが……きみが、キスしたんじゃないか」
「今日は連れ込まないけどね、あまり無抵抗だと食べてしまうよ。さあ夕食の支度をしよう!」
「な、ちょっとトーマス!」

ぱちんと芝居がかった仕草で両手を打ち合わせ、トーマスはあっけなく立ち上がる。白いワイシャツの、彼の香りが遠くなる。気付いた時にはもう腕が伸びていた。未練がましく縋りつくように彼のワイシャツを引っ張っていた。
トーマスの不思議そうな顔に無性に腹が立つような、焦るような。

「し、しないの……続きは」

おかしなことを口走った自覚はあるが撤回するつもりはない。辛抱強くトーマスの顔を見つめ続ける。堀の深いハンサムな顔立ちがライトの下で濃い影をつくる。トーマスが上を向いて、輪郭がぼやける。

「私はときに、きみが私を試して遊んでいるんじゃないかと感じることがあるよ」
「え?」
「いいんだ、忘れて。続きをするにはシャワーを浴びる必要があるね。それにきみは掃除の仕方も知らないだろう?」
「掃除……」
「さっき触れた場所の掃除だよ。コンドームをつけるとはいえ、排泄口だから綺麗にしないと感染症の危険もある」

「やっぱり、オレがソッチなのか……」
「私はそちら側にちょっとした、嫌な記憶があってね。だけど安心してほしい。私は上手いとよく言われるんだ」

上手い、と、よく言われる。
誰に? もちろん今までの恋人やセックスフレンド、一夜限りの相手だ。理解していても、まるで別世界の住人と対話しているように錯覚してしまう。気軽に誘って、ホテルに入って、セックスは発散や遊び、トーマスにとって楽しいことなのだろう。ハイネは首を絞められたような感覚に知らずのうちに侵される。

トーマスにとって、セックスは。
気に入った相手とのコミュニケーションのひとつ。深い意味はない。深い意味なく、トーマスはセックスする。

「ヘンリー?」
「あ、あぁ……」
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