屋上の合鍵

守 秀斗

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第9話:実際に鈴木さんに倉庫部屋に呼び出される

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 翌日。
 出社しても、いつも通り。特に私のいやらしくも情けない行為の話なんて誰もしないわ。ああ、よかった。鈴木さんは約束を守ってくれたみたいね。でも、今後どうなるかわからないけど。

 そして、昼食。同じ課の女性の同僚に誘われた。え、まさか地下室の倉庫部屋の話とかするのとちょっとビクビクする私。近くのカフェへ。でも、そんな話は一切無し。お話の方は例の私と夫との事。

「あれから、何か話し合ったの。なにか進展はあったの」

 あなたはおせっかいおばさんですかって言いたくなったが、私も夫に対するモヤモヤを吐き出したくなった。

「もう終わりですね」
「え、終わりって」
「全然相手にしてくれないし、私の言うことも聞いてくれない。私の事が嫌いなんでしょう。もう離婚しているも同然ですね。家庭内離婚です」
「そうなんだ……じゃあ、子供も無理ってことかしらね」
「そうですね。夫は世間体だけを考えているみたい。でも、スピード離婚みたいなことは避けたいみたいなんですよ」
「あら、でもそんなことしてたら、あなたはどんどん年を取ってしまうじゃないの」

 そうだわ、離婚したら、またいい人を見つけて再婚したいわ。今度こそ愛情深い家庭を作るの。でも、年を取っておばさんになったら、誰も相手にしてくれないじゃないの。高齢出産もあまりよくないし。

「さっさと三下り半したら。離婚届を叩きつけたらどう、いっそのこと」
「そうしたいんですけど……」

 でも、私の方もスピード離婚なんかしたら田舎の両親は困るかもしれないわね。田舎だからね。変な噂を流されるかもしれないし。悩む私。後、一年くらいは今のような生活が続くのかしら。憂鬱。

 さて、そんな風につまらない仕事をこなしつつ、そして、面白くもなく苦痛の家庭生活を営んでいると、ある日、また鈴木さんに廊下であった。私はまた顔が赤くなる。会釈して、通り過ぎようとすると、鈴木さんに声をかけられた。しかも、小声で。

「あの、進藤さん」
「は、はい!」

 鈴木さんはキョロキョロと周りを見ている。今は廊下には私と鈴木さんだけ。ドキドキする私。

「あの、今日の夕方、そうですね、午後六時頃、地下室の倉庫部屋に来てくれませんか」
「……は、はい、わかりました」
「じゃあ、待ってます、誰にも知られないようお願いします」

 そう言うと鈴木さんは走って自分の部署に行ってしまった。いったいなんなんだろう、何をするの。まさか、あの行為を知られたくなかったら、俺の女になれとか言われるの。私はドキドキしてきた。そして、なぜか昼休みにコンビニへ行く。避妊具を買っておいた。もしものために。

……………………………………………………

 そして、午後六時。
 私は退社すると周り言った後、地下まで行く。廊下に誰もいないと確認しながら例の倉庫部屋へ行く。あの妄想みたいに乱暴されるのかしら。本当にドキドキしてきた。扉を開けると鈴木さんがソファに座っていた。私を見て立ち上がった。あらためて見ると、背が高いし、がっしりしてるなあ。抱きしめられたら気持ちいいだろうなあって、私、何を考えているの。

「あ、すみません、こんなところに呼び出して」
「は、はあ」

 なんだろう、この部屋は私にとってはものすごく恥ずかしい部屋なんだけどなあ。でも、鈴木さんそのことに気付いていない感じ。そこまで頭が回ってない感じでそわそわしている。

「あ、あの、どんなご用でしょうか、鈴木さん」
「実は、その、前から言いたかったんですけど……」

 何、何を言いたかったの。

「あの、僕、その進藤さんに一目惚れしちゃて、僕と付き合ってくれませんか」

 まさかの告白!
 でも、一目惚れって、私の淫乱行為のこと。

「あの、鈴木さん、私の、あの、この部屋の恥ずかしい行為のことですか、一目惚れって」
「いえ、前からです。初めて見た時から、きれいな人だなあって思っていて」

 きれい。ああ、容姿を褒められるといい気分になるわ。でも、私って、この部屋でいやらしいことしたのに……。

「鈴木さん、私、ここでいやらしいことしたのに、それでも、あの、好きなんですか」
「はい、すごくきれいな体しているなあって思って、ますます好きになりました。あの行為もすごく色っぽくて、もう大好きになりましたよ、進藤さんのことを」
「でも、私には夫がいるんですよ」

 すると、ちょっと鈴木さんが黙った。
 そして、言った。

「すみません。実は噂を聞いてしまったんですよ。進藤さん、旦那さんと離婚するって聞いて。最初はもう結婚してるって聞いて、残念だなあと思ってたんですが、離婚するなら僕にもチャンスがあるかなあって思って嬉しくなったんです。ああ、すみません。なんか、離婚するって話を聞いて喜ぶなんて申し訳ありません」

 噂になってたんだ。出所はあの同僚のおばさんね。もう、口が軽いんだから。
 でも、こんなイケメンに告白されたのは初めてだなあ。けど、正式にはまだ離婚していない、不倫になっちゃうわ。

「あの、正直に言いますと夫とは全くうまくいってないんです。でも、まだ離婚してないんで……」

 すると、鈴木さんが私に抱き着いてきた。

「それでも進藤さんのことが好きなんです」

 がっしりした体、分厚い胸の男性に抱きしめられる。一瞬、私の頭はふわふわとする。ああ、このまま、あの妄想みたいになっていいかなあとも思ってしまった。でも、なんとか鈴木さんを押しとどめる。

「ちょ、ちょっと待ってください、鈴木さん」
「あ、すみません。どうにも我慢できなくて……」

 すぐに離れてしまう鈴木さんを見て、もっと抱きしめてほしいなあとか思ってしまう私。あそこが熱くなっていく。私っていやらしいわ。

 でも、冷静に考えるとやっぱり浮気はまずいかなあ。ちょっと、鈴木さんをソファに誘導する。三人掛けのソファに座ってお話。

「私の事、好きって言ってくれて、嬉しいです。それも、会社であんなことしたいやらしい女を」
「そんな、いやらしくないですよ、他の女性もしてますよ」

 うーん、家ではしてるかもしれないけど、会社の中ではしないと思う。

「……ただ、私には夫がいるので。でも、噂通り離婚すると思います。あの、ちょっと考えますので、少し時間をいただけませんか」
「あ、はい、わかりました」

 もう夫とはさっさと離婚したい……そして、鈴木さんに早く抱かれたいわ。もう、いろんなことをされたいの。何てことを考えてしまう、私っていやらしいなあ。
 
「では、これで……でも、なんでこんなところに呼び出したんですか。喫茶店とかでもいいじゃないですか」
「あの、もしかしたら誰かが見てて、なにかしら噂になったらまずいと思ったんです。進藤さんには夫がいるわけですから。ここなら誰も来ないですよね」

 ああ、そういうこと。でも、他にもっといい場所があると思うけどなあ。この部屋で全裸になって慰めていた女を、また同じ場所に呼び出すなんてちょっとデリカシーに欠けているんじゃないのかしら。って、そんなことそもそもするなよって言われそうだけど。彼にとっては思い出の場所なのかしらね。そんなことはないか。
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