スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗

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第78話:穴とか隙間とかあるとつい覗いてしまうよな、人間の好奇心ってやつじゃないすか

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 俺と相棒、二人組の冒険者パーティー。
 普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。

 俺は体調不良だ。
 しかし、寝ていてばかりだと餓死してしまう。
 しょうがないので、体の痛みをこらえながら仕事をすることにした。

 そして、相変わらずのスライム退治を依頼された。
 今日もつまらぬスライム退治で一日を過ごす。
 つまらんなあ。

 場所は村の近くの崖の上。
 崖と言ってもかなり低いけどな。
 そこにいるスライムをそぼそぼと退治する。

 ふと崖の地面を見ると小さい穴が空いている。

「お、この穴はなんだ」

 俺が覗いてみるとスライムが飛び出てきた。

「おっと!」

 俺は剣をサッと振ってスライムを倒す。

「うむ、まだ剣の腕は落ちてないようだ」
「リーダー、そんなことより不用意に穴なんか覗いたりするもんじゃないすよ。下手したら目とかやられたかもしれないすよ」

 相棒に注意されてしまった。

「うむ、ちょっと不覚だったか。しかし、穴とか隙間とかあるとつい覗いてしまうよな」
「まあ、人間の好奇心ってやつじゃないすか」
「そんなもんだろうなあ」

 その後もだらだらとスライム退治を続ける。

「さて、だいたい終わったすね」

 周りを見回して相棒が言った。

「そうだな、帰るとするか。ウォ!」

 また足の親指に激痛。
 リュウマチだ。

 そして、俺はよろけると思わず足を滑らせて、崖をゴロゴロと転げ落ちてしまった。
 崖の下の道にうずくまる俺。
 
「大丈夫すか!」

 相棒が慌てて下りてくる。

「うーん、全身が痛い。特に腰だ」
「立ち上がれますか」
「いや、無理だ」

 情けないことになった。相棒が俺を担ごうとすると、そこにローブを来た中年の男がやってきた。

「どうしましたか」
「いや、うちのリーダーが崖から転げ落ちて全身を打ったんすよ」
「どれどれ、私にまかせなさい」

 男の掌からすっと光が出て俺の全身を包む。

「おお、痛みが消えていく」

 どうやらこの男性は魔法使いらしい。
 俺はお礼を言った。

「ありがとうございました」
「いや、たいしたことないですよ。でも、効果は一日くらいなんで、早く家に帰って横になった方がいいですよ。では、私はこれで」

 にこやかに立ち去る魔法使い。

「あっという間に治してくれた。なかなか優秀な魔法使いだな」
「年齢はリーダーと同じくらいすけど、外見もカッコいいし、ハゲデブブサイクのリーダーとは大違いっすね」
「うるさいぞ」
 
 さて、仕事も終わって宿屋に戻ると主人に頼まれた。

「雨漏りの修理に天井裏に入ろうとしたらスライムがいたんですよ。前から妙な足音がするって言われてたんですけどね。いつの間にか侵入していたらしいです。退治をお願いできないでしょうか」

 そう言えばこの前の大雨の時、雨漏りで俺の頭に水滴が落ちてきたので、修理を依頼してたな。

 それにしても、宿屋に帰っても、またスライム退治か。
 もう、うんざりなんだが。

 そんなことを思っていると、宿屋の主人が持ちかけてきた。

「退治してくれたら、今の無料宿泊券を半年延長しますよ」
「おお、それはありがたい。わかりました、お受けします」

 貧乏でその日の食事代にも事欠く有様のしょぼくれた俺たちのパーティーにとってはありがたい話なんですぐに引き受けることにした。

 宿屋の廊下の端っこに天井まで届く梯子を立てかける。

「さて、登るとするか」
「リーダー、膝とか大丈夫なんすか」

 最近、俺の体はあちこち故障だらけ。
 膝も痛いし、特に親指の付け根のリュウマチには辛い目にあっている。

「大丈夫だ。腐っても冒険者だ。リュウマチなんぞには負けないぞ。さっきの魔法使いのおかげだな」
「そうすか。とりあえず俺っちが先に登りますかね」

 相棒がひょいひょいと梯子を登っていく。
 二段抜きで登っていくぞ。

「おい、ちゃんと慎重に一段一段しっかりと登って行け。人生もそうなんだぞ。最初の一段が肝心なんだ。服のボタンと同じだ。最初のボタンをかけ間違えると人生がうまくいかなくなるんだぞ」
「なるほど。つまり、リーダーは最初にボタンをかけ間違えたもんだから、今のしょぼくれたハゲデブブサイクの歯抜けのおっさんになってしまったってことっすか」
「うるさいぞ」

 確かに最初から間違えていたかもしれんなあ。
 冒険者という職業を選んだのは間違いだったのか。

 とは言うものの時間は戻せないんだよなあ。
 今さらどうしようもない。

 相棒が天井裏への板を外し中に入った。
 俺も続いて梯子を登っていく。

 また急にリュウマチの痛みが襲って来ないかビクビクしながらだ。さっきのケガはあの魔法使いに治してもらったが、このリュウマチとやらはあの魔法使いの力よりも強いかもしれないと思うと怖くなってしまう。

 やれやれ、情けない。若い頃ならこんな梯子なんぞあっという間に登ったもんだがなあ。上から相棒が声をかけてきた。

「大丈夫すか、リーダー。膝とか足は痛くないすか」
「うむ、今のところ全然大丈夫だ」

 さて、梯子を登って俺も薄暗い天井裏に入る。
 携帯ランプで周りを照らすと隅っこにスライムがいた。

「いつの間にこんなところに入ってきやがったんだ」

 バシッ! バシッ! バシッ!

 三匹をさっさと退治する。

「こんなもんすかね」
「いや、仕事を引き受けた以上、天井裏全体を探索しよう」
「真面目っすね、リーダーは」

「俺の信条なのだ。仕事は完璧にしたい」
「完璧主義者は出世しないって話しもありますけどね」
「おお、そうなのか」

「適当に力を抜かないで全て完璧にこなそうとして、かえって失敗してしまうってことっすね」
「そうか。だから、俺はスライム退治専門になってしまったのか」

「リーダーの場合は最初から才能がなかったんじゃないすか」
「うるさいぞ」

 しかし、才能が無かったと言えばそうかもしれん。
 情けないことだな。
 ため息をつきつつ、天井裏を携帯ランプで照らしながら、ウロウロする。

「どうやらスライムはもういないみたいっすね」
「うむ、どうやらそうらしい。戻るとするか……あれ、おい、おかしいぞ」
「どうしたんすか」

 俺の足元の板がガタガタとしている。
 俺はひょいとその板を持ち上げると、少し縦に隙間があって光が下から漏れてきた。

「なんだ、これは。欠陥工事か」

 俺は隙間から下を覗いてみる。

「不用意に覗くと、またスライムが飛び出てくるんじゃないすか」
「こんな細い隙間からはさすがのスライムも出て来れないだろう……え? おっと、いかん、いかん」

 俺はさっと頭を上げて覗くのをやめる。

「どうしたんすか」
「下は便所だぞ。それも女子便所だ」
「どういうことっすかね」

「うーむ、誰かが覗き見をしていたってことだなあ」
「そういや変な足音がするとか主人が言ってましたね。スライムは足音なんて出しませんすよ」

「言われてみればそうだ。まさか、あの主人がここから覗きをやっていたのか」
「そんなことするわけないですよ、あの真面目な主人が」
「すると別の痴漢がこの天井裏に出入りしていたわけだな」

 ちょっと壁際を照らしてみる。すると小窓がある。調べると窓には板が打ち付けてあるが鍵はかかってない。

「ひょっとするとこの窓から出入りしてたんじゃないか。その痴漢の変態野郎は」
「その可能性がありまっすね」
「よし、不届きものは成敗してやる。ちょっとランプを消して待ち伏せしよう」

 女子便所の天井裏の板を元に戻すと俺と相棒はそっと柱の陰に隠れて待つことにした。
 何だか、わくわくしてきたぞ。
 相手は変態痴漢野郎とはいえ、スライム退治よりよっぽどおもしろい。

 少し待っていると、例の小窓がそっと開いた。小窓の隙間から少しだけ光が漏れてくる。人影が見える。そして、中に入って来ると女子便所の上の板をずらそうとしている。

 俺はさっとその痴漢に近づき、剣の柄で首の後ろを叩いた。

「うっ!」

 あっさり気絶する痴漢。

「よーし、変態の痴漢男を捕まえてやったぞ。村役場へ連行してやるか」

 俺はそいつの顔を携帯ランプで照らしてみた。
 その顔を見て俺はびっくりした。

「おい、この男はさっき俺が崖から転げ落ちた後、治癒してくれた魔法使いではないか」
「本当っすね。何でこんなことしてんすかね」
「うーむ、俺を助けてくれた人なのだがなあ……」
「いや、これは犯罪っす。村役場に連れて行きましょう」

「そうだよなあ。けど、恩を仇で返すみたいな気分だなあ」
「痴漢の片棒を担ぐようなことしちゃいかんすよ」
「それもそうか。仕方ない。お前の言うとおり村役場に連行するか」

 俺と相棒がそんな会話していると、その痴漢男の魔法使いが突然、目を覚ました。
 何やらさっと呪文を唱える。
 そいつの姿が一瞬で消えた。

「くそ! 逃げられた!」

 俺たちが悔しがっていると下の女子便所で騒ぎが起きている。何事かとちょっと隙間から覗いてみると痴漢男が女性たちに袋叩きにあっているのが見えた。悲鳴を上げて殴られまくる覗き犯の魔法使い。呪文を唱えることも出来ないようだ。

「この変態男!」

 あっさり痴漢男は捕まってしまった。

……………………………………………………

「あの魔法使い、移動魔法が使えるみたいっすね。で、その魔法で俺っちとリーダーから逃げたんすけど、焦ってたんで下の女子便所に逃げちゃったみたいっすね。そこで偶然にも女冒険者グループと遭遇して、ボコボコにされて逮捕。でも、なかなか有能な魔法使いみたいで、移動魔法の他に透視魔法も使えるみたいっすね」

 相棒が村役場から聞いた情報を教えてくれた。

「有能でも覗き行為はしちゃいかんだろうって。でも、おかしいぞ」
「何がおかしいんすか」
「だって、魔法で瞬間移動や透視も出来るんだろ。何でわざわざ苦労して宿屋の屋根に這い上がって、こっそり小窓から屋根裏に入って細い隙間から女子便所を覗き見してるんだ。魔法を使えばいいじゃないか」
「そう言えばそうっすねえ。好奇心、いやスリルを楽しんでたんすかねえ」
「しょうもない奴だな」

「でも、透視魔法とか使えるってのは羨ましくないすか、リーダーは」
「そういう魔法が使えても、女性が用を足しているとこなんて見たくないよ。俺は変態ではない。しかし、スリルは楽しみたいな。狂暴なドラゴンを相手に大格闘するんだ。スリル満点だ。そして、何とかドラゴンを倒すが俺は致命傷を負って、美人姫の膝を枕にして死んでいくのだ」
「また変な妄想してますね。リーダーも一種の変態じゃないすか」
「うるさいぞ」

 それでもいつの日にか巨大ドラゴンを倒すスリルを味わいたいものだと俺は思った。
 でも、リュウマチでいろんな病気持ちじゃ無理かな。
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