男の娘と暮らす

守 秀斗

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第1話:アパートの玄関前で男の娘が寝てた

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 夜遅くまで残業して、家に帰るとアパートの部屋の扉の前に小柄な若い女の子がうずくまって寝ていた。大きいカバンを抱えている。

 俺の部屋は安アパートの一階の一番奥。
 通りからは目立たない場所だ。

 こんなところで寝ているなんて、誰かに襲われても知らんぞ、俺は。
 それに風邪をひくかもしれないし。

 九月なんで、まだ、そんなに寒くないけど。

 女の子は黒い革のミニスカートを履いていて、それがめくれている。
 下着、それも大事なとこが丸見えだ。

 けど、よく見てみるとその下着の部分がふくらんでいる。
 なんだよ、こいつ、男じゃないか。

 男の娘って奴かな。
 それにしてはずいぶん美人だなあと俺は思った。

 髪の毛は長い金髪で、目鼻立ちがきれい。
 女の子でもこんな美人はいないんじゃないかと俺は思った。

 まあ、男の娘には興味は無いし、それに、もし興味があっても俺には関係ないんだよな。

「ちょっと、君。起きてくれないか」

 その女の子、じゃなくて、男の娘を揺り動かす。
 その子が眠そうにしながらも、起きて目を開けた。

 瞳が青い。
 外国人かなあ。
 日本語通じるのかな。

「君がそこで寝ていると、玄関のドアを開くことが出来ないんだけど」
「はい、すみません……」

 その子が立ち上がった。
 少し、ふらついている。

 お酒の匂いが少しするぞ。
 酔ってるのかなあ。

 とにかく、何か知らんがやっと部屋のドアを開けることが出来た。
 部屋に入ったらさっさと寝るぞ、俺は。
 こっちは仕事で疲れてんだ。

 しかし、俺がドアを開けると、その子が先に入ってしまう。

「おいおい、何で君が入るんだよ」
「……すみません。一晩寝かしてください」

 この子、声も甲高くて女性みたいだな。
 そのまま、フラフラと部屋の廊下にうずくまる男の娘。

「いや、ちょっと困るんだけど」
「お願いします。一晩だけ……」

 なんだか、家出してきたエロい女子高生が勝手に入って来て、あんなことやこんなことやとやりたい放題ってエロ漫画を思い出してしまった。
 そうなるとしても、やはり今の俺には関係ないけどなあ。

「あのさあ、ここは君の家じゃないし、俺と君は全くの他人じゃないか。困るんだけど」

 すると、その男の娘が廊下で土下座する。

「お願いです。今日は行くとこないんです。明日には知り合いのところへ行きますので……」

 困ったなあ。
 こういう場合、警察を呼ぶのか。

 この子、家出でもしてきたのかなあ。
 じゃあ、児童相談所か。

 こんな深夜に担当者は来てくれるのかなあ。

 ああ、何か面倒くさくなってきた。
 仕事で大事なプロジェクトをまかされて、大変なんだよ。

 疲労困憊だぞ、俺は!

 もう、俺は眠いんだよ。
 どうでもよくなった。

「いいよ、廊下で寝てな」
「ありがとうございます……」

 そして、その男の娘は、廊下でそのまま、また寝てしまった。

 俺の家は1DK。
 廊下で寝ているその子を飛び越えて奥の部屋に行く。
 押入れから毛布を取り出して、その男の娘にかけてやった。

 そして、俺はパジャマに着替えてベッドに倒れ込む。
 ブラック企業でこき使われて、体はボロボロだ。

 三十才の独身男。

 明日もつらい仕事が待っている。
 睡眠薬を飲んですぐに寝てしまった。

……………………………………………………

 その日の深夜。
 気が付くと、隣に人の気配がしてびっくりする。

 俺のベッドにあの男の娘が入り込んでいる。
 しかも、裸だ。
 おまけに俺のあそこをまさぐってやがる。

「おい、何をするんだよ!」

 びっくりする俺。
 そんな俺に微笑む男の娘。

「起きましたか」
「な、何やってんだよ」

「何って、楽しい事。いいでしょ、したいの、僕」
「いや、俺はその趣味はないんで。悪いけど、ベッドから出てくれないか」
「そんなこと言っても、みんな、結局、僕と寝ちゃうんだ。うふふ」

 男の娘は色っぽくにこやかに笑う。
 相当な自信だなあと俺は思った。

 しかし、やっぱり俺には関係ないんだなあ。

「ほら、口では興味ないとか言っても、結局はここが大きくなって……あれ、おかしいなあ」

 男の娘が焦っている。何度も俺のアレをさわり続ける。
 
「だから、興味ないんだって」
「うーん、でも、僕の美貌には、みんな最後には落ちるのよ」

 なかなかの強者なのかな。
 しかし、俺は余裕だ。

「あれ、おじさんみたいな人、珍しい。うーん、どうなってるの」

 やったぞ、勝利したぞ!
 こんなことで勝利とか言うのも情けないけど。

 確かに、この男の娘、顔はすごい美人だけどついているものはついてる。
 こちらとしてはしらけるだけだな。
 
 それに、たとえこっち関係が好きでもダメなんだよな。
 俺には重大な事情があるんだよ。

「今までは、みんな君と、その、寝たのかよ。その関係を持ったって言うかなあ」
「うん、僕を見て、興味を持たなかった人はいないよ。ねえ、我慢しないでよ」

 別に我慢とかは関係ないんだな。

「ふーん。だけど、俺は興味がないのさ。それに無理なんだよ」
「え、どういうことですか」

 俺は裸の男の娘を押しのけて、電灯を点ける。
 部屋の隅のキャビネットを開けた。
 中からプラスチックの大きいケースを取り出して男の娘に見せる。
 
「まあ、こういうことさ」
「何ですか、これ。薬がどっさりあるけど」
「精神薬だよ」

 ブラック企業でこき使われたあげく、今は月一回の精神科クリニック通い。
 そこで、精神安定剤やら抗うつ薬やら睡眠導入剤やらの薬を貰って何とか仕事を続けている。

 しかし、精神薬ってのには、えらいところに副作用があるってことを俺は知らなかった。

「まあ、使えなくなっちゃうんだよな」
「え?」

「いや、だから肝心なところが立たなくなっちゃうんだよ。いわゆるEDだね」
「……そうでしたか」
「まあ、そんなわけで、俺はもう眠いんで君とはすることは出来ないってことさ。さあ、俺はもう寝るぞ」

 すると、急に先程までの色っぽい感じがなくなって、すごく真面目な顔ですまなそうな顔をする男の娘。
 深々と頭を下げる。

「あの、本当に大変申し訳ありませんでした。失礼いたしました。ちょっと仕事の方のやり方でしてしまいました。ごめんなさい、謝罪します。けど、僕はけっして、病気で困っている人をからかったわけじゃないんですよ」
「ああ、気にしなくていいよ。じゃあ、そういうことで」

 俺は電気を消した。

「でも、その、お願いです。一緒に寝ていいですか」
「え、だから、俺は使えないんだって。それとも寒いのか、毛布が足りなかったのか」

 男の娘は裸で廊下に戻る。あれ、ちょっと胸が膨らんでいるようないないような。おまけにあそこに毛が生えてない。脱毛でもしたのか。今、若い女性で流行っているようだが。いや、男でも流行っているんだっけ。体操の選手とか脇毛を剃ってるし。まあ、よく知らないけど。

 その子は大きいカバンの中からパジャマと下着を出して、さっさと着ると、また戻ってくる。女物の下着かと思ったら、普通の男性が着るような白い下着だった。そして、金髪のウィッグを取って、カラーコンタクトを外した。外国人ではなかったんだな。

 でも、暗くてよく見えないが、それでもかなりの美人じゃないのかなと俺は思った。相手は男だけど。

 まあ、どっちにしろ、俺には関係ないけどね。
 すると、その男の娘が俺に頼み込んでくる。

 さきほどの色っぽさが全く消えて、おどおどしている。

「あの、先程は大変失礼いたしました……それで、すみません。僕、誰かと一緒じゃないと落ち着かなくて、眠れないんです」
「うーん、俺、自宅と職場が離れていて、毎日、午前六時過ぎくらいには仕事でこの家から出るんで、何て言うか睡眠の邪魔をしてもらいたくはないんだけど」

「午前六時に出発ですか。じゃあ、朝食は午前五時くらいにとるんですか」
「いや、コンビニで適当にパンとかコーヒーを買って、職場で食べるのさ。とにかく、俺は落ち着いて眠りたいんだけど」
「あの、申し訳ありません。本当に邪魔しませんから……だめでしょうか。何もしません。ただ、隣にいるだけでいいんですけど……でも、出来れば、腕を掴んでもいいですか……」

 今は、隣に絶世の美女がいてもうざいんだけどな。
 けど、なんだか何もかもが面倒になってきた。

 それに、すごく眠い。
 睡眠薬のせいだな。

「まあ、なるべく、ベッドの端っこにいてほしいんだけど」
「じゃあ、一緒に寝ていいですね」

「純粋に寝るだけだよ」
「はい、よろしくお願いいたします」

 嬉しそうにベッドの布団の中に入って来る男の娘。
 俺はため息をつく。

 なんだか変な子だなあ。
 でも、明日には出て行くんだろ。

 まあ、いいか。
 なんとなく、男の娘に聞いてみる。

「君、何才なの」
「十八才です」

 十八才には見えないなあ。
 かなり幼く見える。
 中学生かと思った。

 そして、その男の娘が俺の腕にしがみついてきた。
 まあ、どうでもいいや。

 何度も言うけど、俺は疲れてんだ。
 そして、俺は急速に眠りについた。
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